代 数 学 講 義 改訂新版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 3.$ 複素数の幾何学的表示  $\S\ 5.$ 一次の有理函数 $w=\dfrac{1}{\ z\ }$・反転法および立体射影 $\blacktriangleright$

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第 $1$ 章 複 素 数


 $\S\ 4.$ 一 次 整 函 数

 $\boldsymbol{1.}$ 変数 $z$ の一次の整函数を $w$ とする.すなわち\[w=\alpha z+\beta,\hspace{1cm}(\alpha\neq0).\] $z$ が任意の複素数の値を取るとき,それに対応して $w$ がある複素数の値を取る.$z$ の値の変動するに伴って,$w$ の値がどのように変動するかを考察するのが,われわれの問題である.
 $z$ と $w$ との函数的の関係を見るには,幾何学的の表示によるのが便利である.$z$ の値を表わす複素数平面を $z$ 平面,$w$ の値を表わす複素数平面を $w$ 平面ということにすると,$z$ 平面上の各点に,$w$ 平面上のある点が対応し,したがって $z$ 平面上の各図形には $w$ 平面上のある図形が対応する.このような関係を写像という.$z$ 平面上の図形を原形,それに対応する $w$ 平面上の図形をその像と考えるのである.
 まず $\alpha=1$,すなわち\[w=z+\beta\]なる場合は,最も簡単である.この場合には,$z$ と $w$ とを同一の複素数平面上に表わせば,点 $z$ を起点として $\beta$ を表わすベクトルの終点がすなわち $w$ であるから,$z$ と $w$ との関係は,いわゆる平行移動であって,$z$ が描く図形と,それに対応して $w$ が描く図形とは合同である.
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 次に $\beta=0$ で,かつ $\alpha$ が正数 $r$ に等しいとき,すなわち\[w=rz\hspace{1cm}(r\gt0)\]であるときには,$w$ は常に直線 $oz$ の上にあって,$ow$ の長さは常に $oz$ の長さの $r$ 倍であるから,$z$ の描く図形と,$w$ の描く図形とは相似で,しかも $\mathrm{O}$ を中心として相似の位置にある.その相似の比は $r$ に等しい.
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また $\beta=0$ で $\left|\alpha\right|=1$ なるとき,\[w=\alpha z,\hspace{1cm}\left(\alpha=\cos\theta+i\sin\theta\right)\]ならば,$\left|w\right|=\left|z\right|$,$\operatorname{arc}\ \!w=\operatorname{arc}\ \!z+\operatorname{arc}\ \!\alpha=\operatorname{arc}\ \!z+\theta$ であるから,$z$ の描く図形を $\mathrm{O}$ を中心として角 $\theta$ だけ回転すれば,$w$ の描く図形を得るのである.この場合には,$z$ と $w$ との相対応して描く図形は合同である.
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一般に $\beta=0$,すなわち\[w=\alpha z\]である場合には,\[\frac{\hphantom{1}\left|\ w\ \right|\hphantom{1}}{\hphantom{1}\left|\ z\ \right|\hphantom{1}}=\left|\ \alpha\ \right|,\hphantom{1}\operatorname{arc}\ \!w=\operatorname{arc}\ \!z+\operatorname{arc}\ \!\alpha\]で,$z$ の描く図形を $\mathrm{O}$ を中心として $\left|\alpha\right|$ 倍に変えて,同時にそれを $\operatorname{arc}\ \!\alpha$ だけ回転すれば,$w$ の描く図形が得られるのである.
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すなわち $w=\alpha z$ は,$\mathrm{O}$ を中心とする回転伸縮の変形(Drehstreckung)である.
 一般の場合\[w=\alpha z+\beta\tag{$\ 1\ $}\]には,$z$ から $\alpha z$ に移る変形を行なった後,更にベクトル $\beta$ によって示される平行移動をすれば,$z$ から $w$ に達することができるから,この場合にも $z$ と $w$ とが相対応して描く図形は,同じ向きに相似で,かつその相似の比は $1:\left|\alpha\right|$ である.
 $z$ と $w$ との相対応する値が同一複素数 $\omega$ であるとすれば,\[\omega=\alpha\omega+\beta,\tag{$\ 2\ $}\]ゆえに,$\alpha=1$,(すなわち平行移動)の場合を除けば,\[\omega=\frac{\beta}{\ 1-\alpha\ }.\]
$\left(\ 1\ \right)$,$\left(\ 2\ \right)$ から$w-\omega=\alpha(z-\omega)$      
を得るから,$\left(\ 1\ \right)$ はつまり $\omega$ を中心とする回転伸縮の変形で,その相似の比は $1:\left|\alpha\right|$,回転の角は $\operatorname{arc}\ \!\alpha$ である.
 逆に $z$ と $w$ との相対応する図形が常に同じ向きに相似であるとすれば,$w$ は $z$ の一次函数でなければならない.いま $z$ と $w$ との相対応する二組の値を $z_1$,$w_1$;$z_2$,$w_2$ とすれば,三角形 $zz_1z_2$ と $ww_1w_2$ とが同じ向きに相似であることから($\S\ 3$,問題 $5$ 参照)\[\frac{w-w_1}{\hphantom{1}w_1-w_2\hphantom{1}}=\frac{z-z_1}{\hphantom{1}z_1-z_2\hphantom{1}}.\]これを $w$ に関する方程式として解けば\[w=\alpha z+\beta\]のような形の解を得る.ここで $\alpha=\dfrac{\hphantom{1}w_1-w_2\hphantom{1}}{z_1-z_2}$.
相似の比は $\dfrac{\hphantom{1}\overline{w_1w_1}\hphantom{1}}{\overline{z_1z_2}}$ で,回転の角は $\overrightarrow{z_1z_2}$ から $\overrightarrow{w_1w_2}$ に至る角に等しくなければならないことからも,これは明白である.

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 〔問題 $\boldsymbol{1}$〕 回転伸縮の中心を $\omega$,$z_1z_2$ と $w_1w_2$ との交わりを $\mathrm{A}$ とすれば,$\omega$ は円 $z_1w_1\mathrm{A}$ と $z_2w_2\mathrm{A}$ との交わりである.
 〔解〕 $\omega z_1$ から $\omega w_1$ への角も $\omega z_2$ から $\omega w_2$ への角もともに $z_1z_2$ から $w_2w_1$ への角に等しいから.
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