代 数 学 講 義 改訂新版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 15.$ Sturm の定理  $\S\ 17.$ 虚根に関する Sturm の問題 $\blacktriangleright$

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第 $3$ 章 スツルムの問題$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$根の計算


 $\S\ 16.$ Sturm の定理の拡張

 $\boldsymbol{1.}$ 一つの多項式とその導函数との代わりに任意の二つの多項式 $f(x)$,$f_1(x)$ が与えられたとき,次数の低くないほうを $f(x)$ として,前節と同様に次々の剰余の符号を変えながら,互除法を行なって $f$,$f_1$ に始まる函数列\[f(x),\ f_1(x),\ f_2(x)\ ,\cdots,\ f_l(x)\tag{$\ 1\ $}\]を作って $V(x)$ の増減を考察すれば,重要な結果を得る.
 ここでも\[f_{h-1}(x)=q_h(x)f_h(x)-f_{h+1}(x)\tag{$\ 2\ $}\]\[(h=1,\ 2,\cdots,\ l-1)\]であるから,$x=x_0$ という値に対して中間のある多項式が $0$ になるとき,$x_0$ の直前と直後とにおける $V(x)$ には変化がないこと,前節と同様である.ただし $x=x_0$ のとき,二つの接続する多項式または最後の多項式が $0$ になるときには,$x=x_0$ は $f(x)$ と $f_1(x)$ とに共通な根であるが,もしも $f(x)$ がちょうど $(x-x_0)^k$ で割り切れるとき,$f_1(x)$ が少なくとも $(x-x_0)^k$ で割り切れるならば,$f_2(x)$,$\cdots$,$f_l(x)$ も $(x-x_0)^k$ で割り切れて,これらの函数から因数 $(x-x_0)^k$ を取り除いた商を\[\varphi(x),\ \varphi_1(x),\ \cdots,\ \varphi_l(x)\tag{$\ 3\ $}\]とすれば,$x_0$ の直前および直後における $V$ は $(\ 1\ )$ においても $(\ 3\ )$ においても同一で,かつ $(\ 3\ )$ においては,$\varphi(x_0)\neq0$ であるから,$x$ が $x_0$ を通過するときに $V(x)$ に増減はない.
 よって問題として残るのは $f(x)/f_1(x)$ を $0$ とする $x=x_0$ の値に関して $x_0$ の直前直後における $f$,$f_1$ の間の符号の変りの数である.さてここに三つの場合がある.
 $(\ 1\ )$ $\dfrac{\hphantom{1}f(x)\hphantom{1}}{f_1(x)}$ は符号を変えない,すなわち $V(x)$ に増減がない.
 $(\ 2\ )$ $\dfrac{\hphantom{1}f(x)\hphantom{1}}{f_1(x)}$ は $-$ から $+$ に変わる,すなわち $V(x)$ が一つ減ずる.
 $(\ 3\ )$ $\dfrac{\hphantom{1}f(x)\hphantom{1}}{f_1(x)}$ は $+$ から $-$ に変わる,すなわち $V(x)$ が一つ増す.
 これらの三つの場合の区別を見やすくするために $\dfrac{\hphantom{1}f(x)\hphantom{1}}{f_1(x)}$ を $0$ とする $x=x_0$ という値に対して,$\chi(x_0)$ を次のように定義する.
     $(\ 1\ )$ の場合には  $\chi(x_0)=0$,
     $(\ 2\ )$ の場合には  $\chi(x_0)=1$,
     $(\ 3\ )$ の場合には  $\chi(x_0)=-1$.
このような記号を用いるならば,上の考察から次の定理が得られる.
 〔定理 $\boldsymbol{3.\ 2}$〕 多項式 $f(x)$,$f_1(x)$ から作った上の $(\ 1\ )$ の多項式\[f(x),\ f_1(x),\ f_2(x),\ \cdots,\ f_l(x)\]の間における符号の変りの数を $V(x)$ とし,また区間 $a\lt x\lt b$ の両端 $x=a$ および $x=b$ において $f/f_1$ が $0$ にならないとすれば,\[V(a)-V(b)=\underset{x_0}{\textstyle\sum}\chi(x_0).\]$\sum$ は上の区間において $f/f_1$ を $0$ とする $x$ の値 $x_0$ に関する総和である.
 定理 $3.\ 1$ の場合($f_1=f^\prime$)においては,$f(x)=0$ のすべての根 $x_0$ が $f(x)/f^\prime(x)$ の根で,かつ $\chi(x)=1$ であるから,$V(a)-V(b)$ が区間 $a\lt x\lt b$ 内の根の数 $N_0$ を与えるのである.上の一般の場合においては,$V(a)-V(b)$ は $N_0$ に等しいとはいえないが,\[N_0\geqq|\ \!V(a)-V(b)\ \!|\]であることは確かである.
 $\boldsymbol{2.}$ 定理 $3.\ 2$ における Sturm の定理の拡張は Euclid の算法の効果に重点をおいたのであるが,Euclid の算法をも度外視して,定理 $3.\ 2$ の証明の要点のみを拾って,次のような定理を得る.
 〔定理 $\boldsymbol{3.\ 3}$〕 多項式 $f(x)$ と区間 $J$:\[a\leqq x\leqq b\tag{$\ J\ $}\]とが与えられたとき,次の条件を具えた多項式の一列\[f(x),\ f_1(x),\ f_2(x),\ \cdots,\ f_l(x)\]が求められたとする.
 $(\ 1\ )$ 区間 $J$ において,二つの接続する多項式が同時に($x$ の同一の値に対して)$0$ にならない.
 $(\ 2\ )$ 区間 $J$ において,中間のある多項式が $0$ になるとき,その $x$ の値に対して両隣の多項式は反対の符号をもつ.
 $(\ 3\ )$ 最後の多項式 $f_l(x)$ は区間 $J$ において一定の符号をもつ.
 しからば\[V(a)-V(b)=\underset{x_0}{\textstyle\sum}\chi(x_0).\]ただし $f(x)$ は区間の両端 $x=a$,$x=b$ において $0$ にならないとし($f(a)\neq0$,$f(b)\neq0$),かつ $x_0$ は区間 $J$ における $f(x)=0$ の根とする.$\chi(x_0)$ の意味は前と同様である.
 〔〕 上の三つの条件は定理 $3.\ 2$ を $f$ と $f_1$ とが公約数をもたない場合に証明するときに使われるすべての契点である.これらが成り立つならば,その結論ももちろん成り立つのである.
 上の函数列を $f(x)$ および区間 $J$ に関する広義における Sturm の函数列という.
 $\boldsymbol{3.}$ 定理 $3.\ 2$,$3.\ 3$ の例として Legendre の球函数を考察する.\[\left(1-2r\cos\theta+r^2\right)^{-1/2}=P_0+P_1r+P_2r^2+\cdots+P_nr^n+\cdots\tag{$\ 4\ $}\]なる無限級数において,$P_n$ は $\cos\theta$ の多項式である.すなわち $\cos\theta=x$ とおけば,\begin{alignat*}{2}P_0&=1,&&P_1=x,\\[2mm]P_2&=\frac{3}{2}\left(x^2-\frac{1}{3}\right),&\hspace{15mm}P_3&=\frac{5}{2}x\left(x^2-\frac{3}{5}\right),\cdots\end{alignat*}一般に\[P_n=\frac{1\ldotp3\ldotp5\cdots(2n-1)}{1\ldotp2\ldotp3\cdots n}\left\{x^n-\frac{n(n-1)}{2(2n-1)}x^{n-2}+\frac{n(n-1)(n-2)(n-3)}{2\hspace{0.7mm}\cdotp4(2n-1)(2n-3)}x^{n-4}-\cdots\right\}\underset{.}{\ }\]この式は次の公式から数学的帰納法によって求められる.\[nP_n-(2n-1)xP_{n-1}+(n-1)P_{n-2}=0.\tag{$\ 5\ $}\] $(\ 5\ )$ は $(\ 4\ )$ を $r$ に関して微分して得られる展開式と $(\ 4\ )$ とから,左辺の根式を追い出して容易に得られる.次の関係も帰納法によって験証される.\[P_n(x)=\frac{1}{\ 2^n\hspace{0.7mm}\cdotp n!\ }\ \frac{d^n}{\ dx^n\ }(x^2-1)^n.\tag{$\ 6\ $}\] 以上は Legendre の球函数 $P_n$ の説明である.ここでは定理 $3.\ 2$ の応用の一例として,$n$ 次の方程式\[P_n(x)=0\]が区間 $-1\lt x\lt 1$ において $n$ 個の実根をもつことを示すのが目的である.
 公式 $(\ 5\ )$ から見えるように,$P_n$ を $P_{n-1}$ で割るときの剰余の符号を変えてそれに正の因数 $\dfrac{n}{\ n-1\ }$ を掛けたものがすなわち $P_{n-2}$ である.
 ゆえに\[P_n,\hphantom{1}P_{n-1},\hphantom{1}P_{n-2},\hphantom{1}\cdots,\hphantom{1}P_1,\hphantom{1}P_0\]を定理 $3.\ 2$ に挙げた函数列にすることができる.よって区間 $-1\lt x\lt1$ における根の数を求めるために,$x=\pm1$ に対するこれらの函数の値を求めるのに幸にしてそれは容易に $(\ 4\ )$ から出る.すなわち $x=\pm1$ のとき,$(\ 4\ )$ の左辺は $(1\mp r)^{-1}$ になるから,その展開は\[1\pm r+r^2\pm r^3+\cdots\]すなわち\[P_n(\ 1\ )=1,\hphantom{1}P_n(-1)=(-1)^n.\]ゆえに\begin{alignat*}{1}V(-1)-V(\ 1\ )&=n-0=n.\\[2mm]{\textstyle\sum}\chi(\ x_0\ )&=n.\end{alignat*}さて $P_n(x)$ は $n$ 次であって,この $\sum$ は単根複根の区別なしに区間 $-1\lt x\lt1$ における $P_n(x)/P_{n-1}(x)$ の根 $x_0$ に関する和であるから,$\sum$ なる和における項数は $n$ 以下である.しかるに,この和の各項は $+1$,$-1$,または $0$ であって,しかも和の値が $n$ であるから和の項数が $n$ で,かつ和の各項が $+1$ でなければならない.和の項数が $n$ であることから,$P_n=0$ が区間 $-1\lt x\lt1$ において $n$ 個の単根をもつことが知られる.
 また $\chi(x_0)$ がすべて $+1$ に等しいから,$P_nP_{n-1}$ は $x$ が増大しながら $x_0$ を通過するときに,常に $-$ から $+$ に変わる.よって $x_0$,$x_0{}^\prime$($x_0\lt x_0{}^\prime$)を $P_n=0$ の二つの相隣れる根とするとき,$x_0$ の直後と $x_0{}^\prime$ の直前とにおいて $P_{n-1}$ の符号が反対でなければならない.ゆえに $P_n=0$ の $n$ 個の根は $P_{n-1}=0$ の $n-1$ 個の根によって隔離されなければならない.
 以上の結果は公式 $(\ 6\ )$ を用いるならば Rolle の定理($\S\ 20$)から簡単に導かれるのであるが,ここではことさらに定理 $3.\ 2$ の応用の一例として取り扱ったのである.
 〔問題 $\boldsymbol{1}$〕 定理 $3.\ 2$ において $f(x)$ が $n$ 次,$f_1(x)$ が $n$ よりも低次で $V(-\infty)-V(\infty)=\sum\chi(x_0)=\pm n$ であるときは,$f(x)$ は $n$ 個の実根をもつ,それらは単根で $f_1(x)$ の根によって隔離される.したがって $f_1(x)$ は $n-1$ 次である.$\chi(x_0)$ は常に $+1$ または常に $-1$ であるが $f(x)$,$f_1(x)$ における最高次の項の係数を $a$,$b$ とすれば,$\chi=\operatorname{sign}\ \!\!(ab)$.また $f_1(x)$ も $n-1$ 個の実根をもち,それらは $f_2(x)$ の根によって分離される.$f_2$ 以下同様である.
 〔注意〕 $\operatorname{sign}\ \!\!(x)$ は $x$ の符号を示す函数記号で,\[x\gtreqqless0 にしたがって \operatorname{sign}\ \!\!(x)=\left\{\begin{array}{r}\ +1,\\0,\\\ -1.\end{array}\right.\] 〔解〕 $f(x)$ の二つの相接する根の間に $f_1(x)$ の根が少なくとも一つずつあることは上の例と同様である.ゆえに $f_1(x)$ は $n-1$ 次である.$x$ が $f(x)$ の最大根よりも大きくなれば,$f(x)$ は $a$ と同符号であるが,$f_1(x)$ もまた $b$ と同符号でなければならないから,$\chi=\operatorname{sign}\ \!\!(ab)$.
 〔問題 $\boldsymbol{2}$〕 $f(x)$,$f_1(x)$ がともに $n$ 次で $\varSigma\chi(x_0)=\pm n$ であるときは,それらの根は互いに隔離する.$\chi(x_0)$ は一定で,$\chi(x_0)=\operatorname{sign}\ \!\!(ab)$ または $\chi(x_0)=-\operatorname{sign}\ \!\!(ab)$.前の場合には,最大の実根が $f(x)$ に属し,後の場合には,$f_1(x)$ に属する.
 〔解〕 この場合にも $f(x)$ の相接する二つの根の間に $f_1(x)$ の根が $1$ 個ずつある.ゆえに $f_1(x)$ は $f(x)$ の最大根よりも大きい一つの根または最小根より小さい一つの根をもたなければならない.いま $x_0$ を $f(x)$ の最大根とすれば,$\chi(x_0)=\pm1$ にしたがって,$\operatorname{sign}f_1(x_0)=\pm\operatorname{sign}a$.ゆえに $\chi=-\operatorname{sign}\ \!\!(ab)$ ならば,$\operatorname{sign}f_1(x_0)=-\operatorname{sign}\ \!\!(b)$,したがって $f_1(x)$ は $x_0$ よりも大きい実根をもつが,$\chi=\operatorname{sign}\ \!\!(ab)$ ならば $\operatorname{sign}f_1(x_0)=\operatorname{sign}\ \!\!(b)$.ゆえに $f_1(x)$ は $x_0$ よりも大きい実根をもち得ない.
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