第 $4$ 章 多 項 式 の 整 除
$\S\ 24.$ 多項式の可約$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$既約
$\boldsymbol{1.}$ 多項式を一次因数に分解することができるというのは,根が複素数であってもよいとした上で一般的に成り立つところの定理である.もし因数の係数を制限すれば,事情がまったく違う.たとえば $x^2+1=(x-i)(x+i)$ であっても,もし因数が実係数をもつことを要求すれば,分解が不可能になる.
また $x^4+1=(x^2+\sqrt{2}x+1)(x^2-\sqrt{2}x+1)$ であるけれども,因数の係数を有理数に制限すれば,分解は不可能である.
本節においては,有理係数をもった多項式(すべての係数が有理数である多項式)のみを考察することにして,それが同じく有理係数をもった因数に分解されるか否かを論ずる.
有理係数をもつ多項式が有理係数をもつ二つ以上の因数(一次以上)に分解されるとき,それを可約といい,このような分解が不可能であるとき,既約という.
たとえば $x^2-4$ は可約,$2x^2-4$ は既約である.
〔定理 $\boldsymbol{4.\ 6}$〕 有理係数をもつ多項式を既約因数に分解することを得る.その分解の結果は定数因子だけの違いを考えないならば,ただ一つである.
〔証〕 既約因数に分解することの可能性は明白である.分解の結果がただ一つであることを証明するには,Euclid の法式に立ち返って考える必要がある.
有理係数をもった多項式 $f(x)$,$f_1(x)$ に Euclid の互除法を行なうとき,次々に出て来る商 $q_0$,$q_1$,$\cdots$ および剰余 $f_2$,$f_3$,$\cdots$ はいずれも有理係数をもつ多項式のみである.それは多項式の割り算の過程を再考して見ればわかるであろう.
よって最大公約数 $f_m$ または定理 $4.\ 4$ の $P$,$Q$ なども有理係数をもつ多項式である.
特に,定理 $4.\ 5$ から次の結果を得る.
有理係数の多項式 $\varphi_1$,$\varphi_2$ の積が既約多項式 $\psi$ で割り切れるならば,$\varphi_1$ または $\varphi_2$ が $\psi$ で割り切れる.
なぜならば,$\varphi_1$ と $\psi$ との最大公約数は有理係数をもつ多項式で,かつ既約である $\psi$ の約数であるから,それは $\psi$ または定数でなければならない.ゆえに $\varphi_1$ が $\psi$ で割り切れないとすれば,$\varphi_1$ と $\psi$ とは互いに素である.しかるに,$\varphi_1\varphi_2$ が $\psi$ で割り切れるというから,$\varphi_2$ が $\psi$ で割り切れねばならない.
同様に $\varphi_1\varphi_2\varphi_3$ が $\psi$ で割り切れるときには,$\varphi_1$ または $\varphi_2$ または $\varphi_3$ が $\psi$ で割り切れる.
さて $f$ を既約因数に分解して\[f=\psi_1\psi_2\psi_3\cdots=\psi_1{}^\prime\psi_2{}^\prime\psi_3{}^\prime\cdots\]を得たと仮定すれば,$\psi_1{}^\prime\psi_2{}^\prime\psi_3{}^\prime\cdots$ が $\psi_1$ で割り切れるのであるから,因数の中の一つが $\psi_1$ で割り切れる.それを $\psi_1{}^\prime$ であるとすれば,$\psi_1{}^\prime$ も既約であるから,$\psi_1{}^\prime$ と $\psi_1$ とは定数因子のみが異なり得るのである.その定数因子を $\psi_2{}^\prime$,$\psi_3{}^\prime$,$\cdots$ などに繰り込んで $\psi_1{}^\prime=\psi_1$ とするならば,$\psi_2\psi_3\cdots=\psi_2{}^\prime\psi_3{}^\prime\cdots$ を得る.よって前と同様にして $\psi_2{}^\prime=\psi_2$,$\psi_3{}^\prime=\psi_3$,$\cdots$ を得るのである.
$\boldsymbol{2.}$ 有理係数をもつ多項式 $f(x)$ はその各係数の分母の公倍数をくくり出して各係数を整数に化して後,それらの整係数の最大公約数をくくり出して\[f(x)=\alpha(a_0x^n+a_1x^{n-1}+\cdots+a_n)\]のような形にして,$a_0$,$a_1$,$\cdots$,$a_n$ を公約数をもたない整数($\alpha$ は有理数)にすることができる.この場合 $a_0$,$a_1$,$\cdots$,$a_n$,および $\alpha$ は符号だけの違いを考えないならば,一定である.このように公約数をもたない整係数をもつ多項式を原始多項式という.
もしも\[f(x)=\alpha(a_0x^n+a_1x^{n-1}+\cdots+a_n)=\alpha^\prime(a_0{}^\prime x^n+a_1{}^\prime x^{n-1}+\cdots+a_n{}^\prime)\]で,右辺の括弧の中も原始多項式であるとするならば,\[\frac{\alpha}{\ \alpha^\prime\ }a_0=a_0{}^\prime,\hphantom{1}\frac{\alpha}{\ \alpha^\prime\ }a_1=a_1{}^\prime,\ \cdots,\ \frac{\alpha}{\ \alpha^\prime\ }a_n=a_n{}^\prime.\] さて,$a_0$,$a_1$,$\cdots$,$a_n$ は公約数をもたないから\[a_0q_0+a_1q_1+\cdots+a_nq_n=1\]になるような整数 $q_0$,$q_1$,$\cdots$,$q_n$ がある($126$ 頁末の注意).それらを上の等式に掛けて加えるならば $\alpha/\alpha^\prime$ が整数であることがわかる.同様にして,$\alpha^\prime/\alpha$ も整数である.ゆえに $\alpha/\alpha^\prime=\pm 1$ すなわち $\alpha^\prime=\pm\alpha$.したがってまた $a_0{}^\prime=\pm a_0$,$\cdots$,$a_n{}^\prime=\pm a_n$.
〔定理 $\boldsymbol{4.\ 7}$〕 原始多項式の積は原始多項式である(Gauss の定理).
〔証〕 | $\begin{alignat*}{4}\varphi(x)&=a_0&&+a_1x&&+a_2x^2&&+\cdots+a_mx^m,\\[2mm]\psi(x)&=b_0&&+b_1x&&+b_2x^2&&+\cdots+b_nx^n\end{alignat*}$ |
上の証明において,$a_h$,$b_k$ が $p$ で割り切れないことから,その積 $a_hb_k$ が $p$ で割り切れないと断言し得るために,$p$ を素数としたのである.
〔定理 $\boldsymbol{4.\ 8}$〕 整係数をもつ多項式が可約ならば,その多項式は整係数をもつ因子に分解される.
〔証〕 多項式 $f(x)$ は整係数をもち,それが有理係数をもつ因子に分解されるとして\[f(x)=\varphi(x)\psi(x)\]とする.さて,$f(x)$,$\varphi(x)$,$\psi(x)$ に対する原始多項式を $f_0(x)$,$\varphi_0(x)$,$\psi_0(x)$ として\[f(x)=\alpha f_0(x),\hphantom{1}\varphi(x)=\beta\varphi_0(x),\hphantom{1}\psi(x)=\gamma\psi_0(x)\]とおけば\[\alpha f_0(x)=\beta\gamma\varphi_0(x)\psi_0(x).\]定理 $4.\ 7$ によって,$\varphi_0(x)\psi_0(x)$ は原始多項式であるから,\[\alpha=\beta\gamma,\hphantom{1}f_0(x)=\varphi_0(x)\psi_0(x)\]仮定によって,$\alpha$ は整数であるから,$\beta\gamma$ は整数である.それを $\varphi_0$ または $\psi_0$ へ繰り込めば,$f(x)$ が整係数の因子に分解される.
〔例〕 $6x^2-11x+3$ は有理根 $1/3$,$3/2$ をもつから,可約で,$6x^2-11x+3=6(x-1/3)(x-3/2)$.因子を原始多項式になおして,$6x^2-11x+3=(3x-1)(2x-3)$.
〔問題 $\boldsymbol{1}$〕 整係数の多項式において最高次の項の係数を除いて,その他の係数は全部ある素数 $p$ で割り切れるとする.もし常数項が $p^2$ では割り切れないならば,この多項式は既約である.(Eisenstein の定理)
〔解〕 この多項式を $f(x)$ とする.$f(x)$ が可約ならば,それは整係数の因数に分かれる.それを $\varphi(x)$,$\psi(x)$ として,上の定理の証明と同様の記号を用いるならば,$f(x)$ における $x^{h+k}$ の係数が $p$ で割り切れないことになるから,$x^{h+k}$ が $f(x)$ の最高次の項でなくてはならない.ゆえに $h=m$,$k=n$.すなわち $\varphi(x)$,$\psi(x)$ においても最高次の項の係数の外はみな $p$ で割り切れる.ゆえに $f(x)$ の定数項が $p^2$ で割り切れねばならない.
〔注意〕 $f(x)$ のような多項式の定数項がちょうど $p^k$ で割り切れるならば,$f(x)$ が可約であっても,因数の数は $k$ 以下である(各因数は係数に関して $f(x)$ と同様の性質をもつから).
〔問題 $\boldsymbol{2}$〕 $f(x)=x^5-x^3-2x^2-2x-1$ を既約因数に分解すること.
〔解〕 分解可能ならば,整係数因数に分解される.その因数の定数項は $\pm1$ でなければならず,また一つは二次以下でなければならない.そこで一つの因数を\[\varphi(x)=ax^2+bx+1\]とおいて見る.$a$ は $\pm1$ または $0$ で,$a=0$ ならば,$b=\pm1$ でなければならない.$f(1)=-5$ だから,$x=1$ に対する各因数の値は $5$ の約数,すなわち $\pm1$,$\pm5$ の中である.
ゆえに\[a+b+1=\pm1,\hspace{5mm}\pm5.\]同様に $f(-1)=-1$ から\[a-b+1=\pm1.\]よって $a$,$b$ の値は次の $8$ 通りの中である.
$\begin{alignat*}{2}&a+b+1&&=1,\\[2mm]&a-b+1&&=1,\\[2mm]&a&&=0,\\[2mm]&b&&=0,\end{alignat*}$ | $\begin{alignat*}{1}\hphantom{-}1,\\[2mm]-1,\\[2mm]-1,\\[2mm]\hphantom{-}1,\end{alignat*}$ | $\begin{alignat*}{1}-1,\\[2mm]\hphantom{-}1,\\[2mm]-1,\\[2mm]-1,\end{alignat*}$ | $\begin{alignat*}{1}-1,\\[2mm]-1,\\[2mm]-2,\\[2mm]0,\end{alignat*}$ | $\begin{alignat*}{1}\hphantom{-}5,\\[2mm]1,\\[2mm]2,\\[2mm]2,\end{alignat*}$ | $\begin{alignat*}{1}5,\\[2mm]-1,\\[2mm]1,\\[2mm]3,\end{alignat*}$ | $\begin{alignat*}{1}-5,\\[2mm]1,\\[2mm]-3,\\[2mm]-3,\end{alignat*}$ | $\begin{alignat*}{1}-5,\\[2mm]-1,\\[2mm]-4,\\[2mm]-2.\end{alignat*}$ |
〔注意〕 | $x=2$ | とすれば | $f(x)=11.$ | $-x^2-x+1=-5.$ |
$x=-2$ | とすれば | $f(x)=-29.$ | $-x^2+x+1=-5.$ | |
$x=3$ | とすれば | $f(x)=191,$ | $x^2+3x+1=19.$ |
ゆえに割って見なくても,いけないことはわかる.