代 数 学 講 義 改訂新版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 24.$ 多項式の可約$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$既約  $\S\ 26.$ 基本対称式 $\blacktriangleright$

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第 $4$ 章 多 項 式 の 整 除


 $\S\ 25.$ 二つ以上の変数に関する多項式

 $\boldsymbol{1.}$ 二つ以上の変数の多項式の理論は一つの変数の場合に比べて著しく困難である. $^{\large*}\ $ただし二変数の場合に限り,斉次の多項式は一次因子に分解される.その一つの原因は,多項式が一次因子に分解されるというような基本定理が,二つ以上の変数の場合には成り立たないところに存在する.一次因子はさておき,因数分解が一般的に不可能である.$\large*$
 たとえば,$x^2+y^2+1$ または $xy+ax+by+c$($ab\neq c$)などの分解不可能であることは,容易に験証されるであろう(二元二次式が因数に分解されるのは,解析幾何学の語でいえば,二次曲線が二つの直線に分解される場合で,それはきわめて特別な場合に限る).
 本節では,二つの変数 $x$,$y$ の多項式に関して整除の理論の概要を述べる.変数を二つに限るのは言語を短くするためであって,数学的帰納法を用いるならば,三元以上の多項式にも拡張することに困難はないであろう.
 多項式 $f(x,\ y)$ が二つ以上の(少なくとも一次の)多項式の積に分解されるときは,それを可約といい,そうでなければ既約という.
 ゆえに,ここでいう可約,既約は有理係数をもつ一元多項式の場合($\S\ 24$)とは意味が違う.すなわち因数の係数を制限するために,分解が不可能であるのではなく,絶対的に不可能なのである.ゆえに可約,既約の代わりに,語は長くても「分解可能」,「分解不可能」というほうが実は妥当である.用語はともかくも,意味が混同されないことが肝要である.
 $\boldsymbol{2.}$ 本節では次の定理を目標として話を進める.
 〔定理 $\boldsymbol{4.\ 9}$〕 多項式 $\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x,\ y})$ を既約因数に分解することができる.分解の結果は定数因子を考えに入れねばただ一様である.
 〔〕 $f(x,\ y)$ が可約ならば,低次な因数に分解されるから,各因数が既約になるまで分解を続行すれば,既約因数への分解が成就することは明白であるが,その結果の一意性が問題である.
 もし $\S\ 23$(定理 $4.\ 5$)と同様に「$B$,$C$ が互いに素で,$AC$ が $B$ で割り切れるならば,$A$ が $B$ で割り切れる」ことが二つの変数の場合にも証明できるならば,それを用いて $\S\ 24$ とまったく同様に分解の一意性を証明することができるであろう.
 さて $\S\ 23$ で定理 $4.\ 5$ を Euclid の法式から導いたのであるが,二つの変数の場合には,既に定理 $4.\ 3$ のような意味での割り算が適用されないから,Euclid の法式に若干の変更を行なうことが必要である.
 そのために $x$,$y$ の多項式を $x$ の降冪に排列して\[A_0x^n+A_1x^{n-1}+\cdots+A_n\]のような形にしるす.この場合 $x$ の各冪の係数 $A_0$,$A_1$,$\cdots$,$A_n$ は変数 $y$ の多項式である.もし $A_0$,$A_1$,$\cdots$,$A_n$ が共通の因数をもつならば,その最大公約数をくくり出して\[P(A_0{}^\prime x^n+A_1{}^\prime x^{n-1}+\cdots+A_n{}^\prime)\]とおけば,括弧の中は係数が $y$ に関して公約数をもたない多項式である.$\S\ 24$ にならって,それを仮りに $x$ に関して原始多項式ということにする.一つの多項式をこのように原始多項式と $y$ のみの多項式との積に分解することは,定数因子だけの違いを考えに入れないならば,ただ一様に限ることは明白であろう.
 このような原始多項式に関して,定理 $4.\ 8$ とまったく同様にして,「原始多項式の積が原始多項式である」ことが証明される.この場合には定理 $4.\ 7$ の証明における素数 $p$ に,$y$ の一次式を代用すれば,証明はなんらの変更を要しないで,そのまま適用される.
 よって $\alpha F$ において,$\alpha$ が $y$ のみの多項式であるとき,$\alpha F$ が原始多項式 $G$ で割り切れるならば,$F$ が $G$ で割り切れる($130$ 頁参照).
 さて多項式 $B$,$C$ を $x$ の降冪に排列して $B$ を $C$ で割るならば,$x$ に関する整商において,係数は一般に $y$ の分数式で,剰余も同様である.それらの分数式の分母は $C$ における $x$ の最高次の項の係数の冪である.よって分母を払って,次のような等式を得る.
 
同様に
 
 
 
$\lambda B=CQ_1+D,$
$\mu C=DQ_2+E,$
${\small\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots}$
$\rho K=LQ_{k-1}+M,$
$\sigma L=Q_kM.$
    
 ただし $\lambda$,$\mu$,$\cdots$,$\rho$,$\sigma$ は $y$ のみの多項式,その他は,$x$,$y$ の多項式である.
 いま $M$ に属する原始多項式を $M_0$ とすれば($M=\nu M_0$),$M_0$ は $\sigma L$ の約数,したがって $L$ の約数である.したがってまた $M_0$ は $\rho K$ の約数,したがって $K$ の約数である.しだいにこのようにさかのぼって,$M_0$ が $B$,$C$ の公約数であることがわかる.逆に $B$,$C$ の公約数は $D$,$E$,$\cdots$,$M$ の約数であるから,$M_0$ はすなわち $B$,$C$ の最大公約数に属する原始多項式である.
 ゆえに,いま $B$,$C$ が互いに素であるときは,$M_0$ は定数であり,したがって $M$ は $y$ のみの多項式である.この場合に $AC$ が $B$ で割り切れるならば,上の各等式に $A$ を乗じて\begin{alignat*}{1}\lambda AB&=ACQ_1+AD,\\[2mm]\mu AC&=ADQ_2+AE,\\[2mm]{\small\cdots\cdots}&\hspace{0.1em}{\small\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots}\\[2mm]\rho AK&=ALQ_{k-1}+AM\end{alignat*}を得るから,$AD$,$AE$,$\cdots$,$AM$ は $B$ で割り切れる.ゆえに $A=\alpha A_0$,$B=\beta B_0$,$C=\gamma C_0$ とおいて $A_0$,$B_0$,$C_0$ を原始多項式とすれば,$AM$ が $B$ で割り切れ,$M$ が $y$ のみの多項式であるから,$A_0$ が $B_0$ で割り切れる.
 さて仮定によって $B$ と $C$ は互いに素であるから,$\beta$,$\gamma$ は $y$ のみの多項式として,互いに素である.しかるに $AC$ すなわち $\alpha\gamma A_0C_0$ が $B$ すなわち $\beta B_0$ で割り切れるから,$\alpha\gamma$ は $\beta$ で割り切れる.ゆえに一つの変数の多項式として,$\alpha$ が $\beta$ で割り切れる(定理 $4.\ 5$).ゆえに $A=\alpha A_0$ は $B=\beta B_0$ で割り切れる.すなわち定理 $4.\ 5$ は二つの変数の場合においても証明され,したがって本節の初めに掲出した分解の一意性が確定したのである.
 $\boldsymbol{3.}$ 二つ以上の変数の多項式の既約因子への分解を根拠にすれば,その整除に関する理論が簡明に組み立てられることは,あたかも一つの変数の場合に一次因数を用いる(または整数の場合に素因数を用いる)のと同様である.たとえば多項式 $A(x,\ y)$,$B(x,\ y)$ は定数因子を考えないならば,ただ一つの最高次の公約数をもち,それはすべての公約数で割り切れる.これがすなわち $A$,$B$ の最大公約数である.
 既約因数への分解が可能でも,その実行は困難である.Euclid の法式によって,$A$,$B$ の最大公約数を求める方法は定理 $4.\ 9$ の証明中に述べたが,そこでは既約因数への分解の一意性を証明する手段としたのであったから,ここに結論だけを再説する.$A(x,\ y)$,$B(x,\ y)$ を一つの変数たとえば $x$ の降冪に排列して,$y$ のみの多項式であるその係数の最大公約数でくくって,\[A=\alpha A_0,\hspace{1cm}B=\beta B_0\]とする.$A_0$,$B_0$ はすなわち,いわゆる原始多項式である.いま求める最大公約数 $M$ も同様に $x$ に関する原始多項式と,$y$ のみを含む乗数とに分解して,$M=\mu M_0$ とおけば,$\mu$ は $\alpha$,$\beta$ の最大公約数として求められる.$M_0$ を求めるには $A$,$B$(または $A_0$,$B_0$)を $x$ の多項式として Euclid の法式を行なって,除法に際して出て来るべき $y$ のみを含む分母を払いながら互除法を続行して,最後の除数を求めるならば,それに対応する原始多項式がすなわち $M_0$ である.もし最後の除数が $x$ を含まないならば,$M_0=1$ とするのである.このように $\mu$ と $M_0$ とが別々に Euclid の法式によって求められるのである.
 $\boldsymbol{4.}$ 上の理論は,数学的帰納法によって任意数の変数の多項式の上に拡張することができる.$n$ 個の変数 $x$,$y$,$z$,$\cdots$ の多項式を $x$ の冪にしたがって排列すれば,係数は $n-1$ 個の変数 $y$,$z$,$\cdots$ の多項式であるが,変数 $n-1$ 個の場合には,既約因子への分解の一意性がすでに証明され,したがって最大公約数の理論が完成されているものと仮定すれば,前に説明した一変数から二変数に移る方法をそのまま襲用して,変数 $n$ 個の場合にも,上掲の諸定理が成り立つことを証明するのになんらの困難もないであろう.
 ここでも $x$ に関する原始多項式の積が原始多項式であることを証明する必要が生ずる.この場合には,定理 $4.\ 7$ で素数 $p$ を用い,また二元の場合に $y$ の一次式を用いたところを,$y$,$z$,$\cdots$ の既約多項式でおき換えればよい.困難はないといっても,一歩一歩各論点に当って見ないと,よくはわかるまい.
 〔問題 $\boldsymbol{1}$〕 多項式 $F(x,\ y,\ z)$ が二つの因数 $\varPhi$,$\varPsi$ に分解され,$\varPhi$,$\varPsi$ は $x$ に関しては整函数,$y$,$z$ に関しては有理函数であるとすれば,$F(x,\ y,\ z)$ は $x$,$y$,$z$ に関する二つの多項式の積に分解される.
 〔解〕 定理 $4.\ 7$ と同様.$\varPhi(x,\ y,\ z)=\varphi(y,\ z)\varPhi_0(x,\ y,\ z)$,$\varPsi(x,\ y,\ z)=\psi(y,\ z)\varPsi_0(x,\ y,\ z)$ とおいて $\varphi(y,\ z)$,$\psi(y,\ z)$ は $y$,$z$ に関する有理式,$\varPhi_0(x,\ y,\ z)$,$\varPsi_0(x,\ y,\ z)$ は $x$,$y$,$z$ に関する多項式で,かつ $x$ に関しては原始多項式であるとする.また $F(x,\ y,\ z)=f(y,\ z)F_0(x,\ y,\ z)$ とおいて,$f(y,\ z)$ は $y$,$z$ に関する多項式,$F_0(x,\ y,\ z)$ は $x$ に関して原始多項式とする.しからば\[F=\varPhi\varPsi\hspace{5mm}すなわち\hspace{5mm}fF_0=\varphi\psi\varPhi_0\varPsi_0\]から,$f=\varphi\psi$,$F_0=\varPhi_0\varPsi_0$ を得る.定数因子は適宜に分配するのである.すなわち $\varphi\psi$ は $y$,$z$ に関する多項式であるから,それを $\varPhi_0$ または $\varPsi_0$ に繰り込めば,問題で要求されているような分解が成就する.
 $\boldsymbol{5.}$ 最後に次の定理を添えておく.
 〔定理 $\boldsymbol{4.\ 10}$〕 変数 $x$,$y$,$z$,$\cdots$ に関する既約な多項式 $f(x,\ y,\ z,\ \cdots)$ を $0$ にするような $x$,$y$,$z$,$\cdots$ のすべての値に対して,多項式 $g(x,\ y,\ z,\ \cdots)$ が常に $0$ になるならば,$g$ は $f$ で割り切れる.
 〔〕 $g$ が $f$ で割り切れないとすれば,$f$ は既約であるから,$g$ と $f$ とは互いに素でなければならない.ゆえに\[Pg-Qf=\varphi\tag{$\ 1\ $}\]のような恒等式が成り立つ.$P$,$Q$ は $x$,$y$,$z\cdots$ の多項式,$\varphi$ は $y$,$z$,$\cdots$ のみの多項式で,それは恒等的には $0$ でない.
 よって $y$,$z$,$\cdots$ に適当な値 $y_0$,$z_0$,$\cdots$ を与えて $\varphi(y_0,\ z_0,\ \cdots)\neq0$ とすることができる.そのような値を $f$ に持ち込めば,$f$ は変数 $x$ のみの多項式になるから $x$ に関する根がある.それを $x_0$ とすれば,$f(x_0,\ y_0,\ z_0,\ \cdots)=0$ であるから,仮定によって $g(x_0,\ y_0,\ z_0,\ \cdots)=0$ になる.しからば $(\ 1\ )$ から $\varphi(y_0,\ z_0,\ \cdots)=0$ を得て,上の $y_0$,$z_0$,$\cdots$ に関する仮定に矛盾する.
 ただし $f$ を $x$ の冪に排列するとき,\[f=A(y,\ z,\ \cdots)x^n+B(y,\ z,\ \cdots)x^{n-1}+\cdots+L(y,\ z,\ \cdots)\]になるとする.$y$,$z$,$\cdots$ に $y_0$,$z_0$,$\cdots$ を代入するとき,$f$ において $x$ を含む項が消えてしまえば,上の $x_0$ が求められないかも知れない.よって初めに $y_0$,$z_0$,$\cdots$ を定めるときに,$A(y_0,\ z_0,\ \cdots)\neq0$ になるようにしておきたいのであるが,$A$ は恒等的には $0$ でないのだから,$A\varphi\neq0$ になるように $y_0$,$z_0$ を取ればよい.
 〔問題 $\boldsymbol{2}$〕 上の定理の仮設から,$f$ が既約であるという一条を除けば,$g$ は $f$ の各既約因数で割り切れるが,必ずしも $f$ では割り切れない(たとえば $f=\varphi^2\psi^3$,$g=\varphi\psi\theta$ のような場合がある).
 〔解〕 $f$ の任意の既約因数を $\varphi$ とし,$f=\varphi f_1$ とおけば,$\varphi=0$ になるとき $f=0$ になり,したがって仮定によって $g=0$ になるから,定理 $4.\ 10$ によって $g$ は $\varphi$ で割り切れる.
 〔問題 $\boldsymbol{3}$〕 斉次なる多項式 $F(x,\ y,\ z,\ \cdots)$ が可約ならば,各因数が斉次である.
 〔解〕 $\varPhi(x,\ y,\ z,\ \cdots)$,$\varPsi(x,\ y,\ z,\ \cdots)$ を $x$,$y$,$z$,$\cdots$ に関して $m$ 次,$n$ 次とし,同次の項をまとめて\[\varPhi=U_m+U_{m-1}+\cdots+U_0,\hspace{1cm}\varPsi=V_n+V_{n-1}+\cdots+V_0\]とする.すなわち一般に $U_\alpha$,$V_\beta$ は斉次でそれぞれ $\alpha$ 次,$\beta$ 次とする.しからば $\varPhi\varPsi=U_mV_n+(U_mV_{n-1}+U_{m-1}V_n)+(U_mV_{n-2}+U_{m-1}V_{n-1}+U_{m-2}V_n)+\cdots+U_0V_0$.
 仮定によって,$U_m$,$V_n$ は恒等的には $0$ でないから,$\varPhi\varPsi$ は $m+n$ 次である.もしも $\varPhi$ が斉次でないならば,恒等的に $0$ でない最低次の部分を $U_\mu$ とする.すなわち $\mu\lt m$.また $\varPsi$ において最低次の部分を $V_\nu$ とする.すなわち $\nu\leqq n$.しからば $\varPhi\varPsi$ は $U_\mu V_\nu$ なる $\mu+\nu$ 次の部分を含み,$\mu+\nu\lt m+n$ であるから,$\varPhi\varPsi$ は斉次でない.対偶が問題掲出の定理である.

 〔問題 $\boldsymbol{4}$〕 多項式 $x^3+y^3+z^3-3\lambda xyz$ が可約であるのは $\lambda^3=1$ なる場合に限る.すなわち $\rho=\dfrac{\ -1+\sqrt{-3}\ }{2}$ とすれば,$\lambda=1$,$\rho$,$\rho^2$ であるときに限る.その場合に与えられた多項式は三つの一次因子に分解される.
 〔解〕 $\lambda=1$ のとき $x^3+y^3+z^3-3xyz=(x+y+z)(x+\rho y+\rho^2z)(x+\rho^2y+\rho z)$ なることはよく知られている.
 いま与えられた多項式が可約ならば,その一次因数を $x+py+qz$ とすれば,この多項式は $y$,$z$ に $\rho y$,$\rho^2z$ または $\rho^2y$,$\rho z$ を代入しても変わらないことから,$x+p\rho y+q\rho^2z$,$x+p\rho^2y+q\rho z$ なる一次因子をもたねばならない.
 したがって\begin{alignat*}{1}x^3+y^3+z^3-3\lambda xyz&=(x+py+qz)(x+p\rho y+q\rho^2z)(x+p\rho^2y+q\rho z)\\[2mm]&=x^3+p^3y^3+q^3z^3-3pqxyz.\end{alignat*} ゆえに $p^3=1$,$q^3=1$,したがって $\lambda=pq$ は $1$ の $3$ 乗根でなければならない.よって $\lambda=1$ のほかは\[x^3+y^3+z^3-3\rho xyz=(x+y+\rho z)(x+\rho y+z)(x+\rho^2y+\rho^2z),\] または\[x^3+y^3+z^3-3\rho^2xyz=(x+y+\rho^2z)(x+\rho y+\rho z)(x+\rho^2y+z).\]
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