代 数 学 講 義 改訂新版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 25.$ 二つ以上の変数に関する多項式  $\S\ 27.$ 判別式 $\blacktriangleright$

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第 $5$ 章 対 称 式$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$置 換


 $\S\ 26.$ 基 本 対 称 式

 $\boldsymbol{1.}$ $n$ 個の変数 $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ に関する有理式において,それらの変数をいかなる順序におき換えてもその式が変わらないならば,それをこれらの変数の対称式という.
 後に説明するように対称な有理式は対称な多項式の商として表わすことができるから,本節では多項式のみを取り扱う.すなわち単に対称式というのは,対称な多項式を指すのである.
 たとえば $x_1+x_2+\cdots+x_n$ または $x_1x_2\cdots x_n$ などは最も簡単な対称式である.
 対称式が方程式論で重要なのは,方程式の根と係数との関係に基づく.$n$ 次の方程式\[f(x)=x^n+a_1x^{n-1}+\cdots+a_n=0\]の根を $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ とすれば,恒等的に\[f(x)=(x-x_1)(x-x_2)\cdots(x-x_n).\] 右辺の積を展開して,係数を比較すれば\begin{alignat*}{2}&x_1+x_2+x_3&&+\cdots+x_n\hphantom{x_m}=-a_1,\\[2mm]&x_1x_2+x_1x_3&&+\cdots+x_{n-1}x_n=a_2,\ \cdots\\[2mm]&{\textstyle\sum}x_1x_2\cdots x_k&&\hspace{26mm}=(-1)^ka_k,\ \cdots\\[2mm]&x_1x_2\cdots x_n&&\hspace{26mm}=(-1)^na_n,\end{alignat*}$\sum$ は $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ の中 $k$ 個ずつを取って掛け合わせた $\dbinom{n}{k}$ 個の積の上にわたるのである.
 これらはいずれも $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ の対称式である.これを基本対称式という.基本というのは,すべての対称式が,これらの $n$ 個の対称式の整式として表わし得るからである.
 $\boldsymbol{2.}$ 対称式 $S(x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)$ が\[Cx_1^{e_1}x_2^{e_2}\cdots x_n^{e_n}\hspace{1cm}(e_1,\ e_2,\ \cdots,\ e_n\geqq0)\]のような項を含むならばこの項における $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ の順序を換えて作られる\[Cx_\alpha^{e_1}x_\beta^{e_2}\cdots x_\lambda^{e_n}\]のような項が同一の係数 $C$ をもって必ず $S$ の中に含まれなければならない.$\alpha$,$\beta$,$\cdots$,$\lambda$ は $1$,$2$,$\cdots$,$n$ なる番号の順列である.このように,一つの項から変数のおき換えによって生ずる項を同型の項という.項の型は各変数の指数 $e_1$,$e_2$,$\cdots$,$e_n$ によって定まるのであるが,同型の項の中には最大の指数が $x_1$ につき,第二の大きさの指数が $x_2$ につくというように変数の番号と指数の大小の順序とが一致するものが必ずあるはずであるから,項の型を示す指数の組合せ\[(e_1,\hphantom{1}e_2,\ \cdots,\hphantom{1}e_n)\]においては\[e_1\geqq e_2\geqq \cdots\geqq e_n\]としてさしつかえない.
 同型の項をことごとく加えた和は,すでに一つの対称式である.これを単型の対称式という.すべて対称式は単型の対称式に定数係数を乗じたものの和に分解することができる.
 たとえば基本対称式,同次冪の和 $S_k=x_1^k+x_2^k+\cdots+x_n^k$ などは単型である.指数 $e_1$,$e_2$,$\cdots$,$e_n$ がすべて相異なるときには,同型項の数は変数の順列の数すなわち $n!$ に等しいが,指数の中に相等しいものがあれば,それよりは少ない.
 たとえば $n=3$ のとき $x_1$,$x_2$,$x_3$ の代わりに $x$,$y$,$z$ を用いて
  $(3,\ 2,\ 1)$$\sum x^3y^2z=x^3y^2z+x^3yz^2+x^2y^3z+x^2yz^3+xy^3z^2+xy^2z^3$
$(2,\ 2,\ 0),\hspace{5mm}$$\sum x^2y^2=x^2y^2+x^2z^2+y^2z^2.$
 単型対称式に次のようにして順位をつけることができる.すなわちまず最大指数の大小によって,その大きいものを高位とし,小さいものを低位とする.最大指数が相等しいときには,第二の大きさの指数の大小によりまた第一,第二の指数がともに相等しいときには,第三の大きさの指数の大小によるというようにして,順位の高低を定める.すなわち,いろは順に語を並べるのと同様である.いわゆる辞書式順序である.この規定によれば,最低位の対称式は $(0,\ 0,\ \cdots,\ 0)$ で,それは定数,その次は $(1,\ 0,\ \cdots,\ 0)$,$(1,\ 1,\ 0,\ \cdots,\ 0)$,$\cdots$,$(1,\ 1,\ \cdots,\ 1)$ で,それらはすなわち基本対称式,$\sum x_1$,$\sum x_1x_2$,$\cdots$,$x_1x_2\cdots x_n$ である.またその次は $(2,\ 0,\ \cdots,\ 0)$ で,それは $S_2=\sum x_1^2$.その次は $(2,\ 1,\ 0,\ \cdots,\ 0)$ で,それは $\sum x_1^2x_2.$ など.

 $\boldsymbol{3.}$ このようにしておいて,対称式に関する基本定理の説明に取りかかる.
 〔定理 $\boldsymbol{5.\ 1}$〕 整なる対称式 $\boldsymbol{S}(\boldsymbol{x_1},\ \boldsymbol{x_2},\ \cdots,\ \boldsymbol{x_n})$ を基本対称式 $\boldsymbol{a_1}$$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$$\boldsymbol{a_2}$$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$$\cdots$$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$$\boldsymbol{a_n}$ の整函数として次のように表わすことができる.
 $1^\circ$)$S(x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)=G(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n)$   
 $2^\circ$) しかもその表わし方はただ一通りに限る.すわわち一つの $S$ に対しては,ただ一つの $G$ が可能である.
 $3^\circ$) $a_1$,$a_2$,$\cdots$,$a_n$ に関する $G$ の次数は $S(x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)$ における一つの変数の最大指数に等しい.
 $4^\circ$) $S$ が $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ に関して斉次である場合には,$G$ は $a_1$,$a_2$,$\cdots$,$a_n$ に関して斉重で,その重さは $S$ の次数に等しい.
 $a_1$,$a_2$,$\cdots$,$a_n$ のように番号のついた文字の多項式において,ある項における文字の番号の総和をその重さという.たとえば $a_1{}^2a_2$ の重さは $1+1+2=4$.各項の重さが等しいとき,その多項式を斉重という.
 $5^\circ$) $G$ の中に現われる係数は,$S$ における係数から加法と減法と(および整数倍)によって作られる数である.
 たとえば,$S$ における係数が実数ならば,$G$ においても同様,$S$ における係数が整数ならば,$G$ においても同様である.
 〔〕 $S$ が単型対称式であるとき,この定理を証明すれば十分である.また低位の単型対称式,たとえば基本対称式それ自身に関しては定理は明白であるから,帰納法を用いることができる.すなわち $S$ の型を $(e_1,\ e_2,\ \cdots,\ e_n)$ としてそれよりも低位なすべての単型対称式に関しては定理はすでに証明されたと仮定する.
 さて\[a_1^\alpha a_2^\beta\cdots a_n^\lambda=\pm(x_1+x_2+\cdots)^\alpha(x_1x_2+\cdots)^\beta\cdots(x_1x_2\cdots x_n)^\lambda\]を展開して,それを単型対称式に分解するならば,最高位の型は\[(\alpha+\beta+\cdots+\lambda,\hphantom{1}\beta+\cdots+\lambda,\ \cdots,\ \lambda)\]であるが,これが $S$ と同型になるには\[\left.\begin{array}{r}\alpha+\beta+\cdots+\lambda=e_1,\\[2mm]\beta+\cdots+\lambda=e_2,\\[2mm]\huge\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\\\lambda=e_n,\\[2mm]\end{array}\hspace{7mm}\right\}\tag{$\ 1\ $}\]すなわち\[\alpha=e_1-e_2,\hphantom{1}\beta=e_2-e_3,\ \cdots,\ \lambda=e_n\]とすればよい.よって  $\alpha\geqq0$,$\beta\geqq0$,$\cdots$,$\lambda\geqq0$.
 このように $\alpha$,$\beta$,$\cdots$,$\lambda$ を定めて,また符号 $\pm$ を適当に定めるならば,\[\pm a_1^\alpha a_2^\beta\cdots a_n^\lambda\]に含まれる最高位の単型対称式がちょうど $S$ になる.よって\[S=\pm a_1^\alpha a_2^\beta\cdots a_n^\lambda+S_1\]とおけば,$S_1$ は $S$ よりも低位の型の項のみを含む対称式で,かつその係数は整数である.ゆえに仮定によって\[S_1=G_1(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n)\]したがって\[G(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n)=\pm a_1^\alpha a_2^\beta\cdots a_n^\lambda+G_1(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n)\]とすれば\[S=G(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n).\] さて $(\ 1\ )$ の第一の式によって $\pm a_1^\alpha a_2^\beta\cdots a_n^\lambda$ の次数は $e_1$ であるが,$e_1$ はすなわち $S$ における最大の指数である.$S_1$ は $S$ よりも低位の型の項のみを含むから,$e_1$ よりも大きい指数を含むことはできない.仮定によって $G_1$ の次数は $e_1$ 以下であって,かつ $a_1^\alpha a_2^\beta\cdots a_n^\lambda$ なる項が $G_1$ の項と消し合うことはない(さもなければ $S_1$ が $S$ と同型の項を含むことになる).ゆえに $G$ は実際 $a_1$,$a_2$,$\cdots$,$a_n$ に関して $e_1$ 次である.これが定理の $3^\circ$)である.
 次にまた $a_1^\alpha a_2^\beta\cdots a_n^\lambda$ の重さは\[\alpha+2\beta+\cdots+n\lambda\]で,$(\ 1\ )$ によってこれは $e_1+e_2+\cdots+e_n$ すなわち $S$ の次数に等しい.$S_1$ も $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ に関しては $S$ と同次の斉次式であるから,仮定によって $S_1$ の各項の重さは $e_1+e_2+\cdots+e_n$ に等しい.ゆえに $G$ は斉重で,$4^\circ$)も証明されたのである.
 $5^\circ$)は $G_1$ における係数が整数であることから出る.
 残るは $2^\circ$)であるが,仮りにある対称式 $S$ が $a_1$,$a_2$,$\cdots$,$a_n$ の整函数として二通りに表わされるとする.すなわち\[S=G(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n)=G^\prime(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n)\]において $G$ と $G^\prime$ とが $a_1$,$a_2$,$\cdots$,$a_n$ に関して形式的に相等しくないとする.しからば,$G-G^\prime=H$ とおけば\[H(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n)=0\]にならなければならない.その意味は,$H$ は $a_1$,$a_2$,$\cdots$,$a_n$ に関しては形式的に $0$ に等しくないが,それを $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ によって表わすならば $0$ になるというのである.このようなことが不可能であるというのが $2^\circ$)である.
 実際,$H$ は $a_1$,$a_2$,$\cdots$,$a_n$ に関して形式的に $0$ に等しくないとすると,$a_1$,$a_2$,$\cdots$,$a_n$ にある数値を与えて $H$ が $0$ と異なる数値を取るようにすることができる.そのとき方程式\[x^n+a_1x^{n-1}+\cdots+a_n=0\]の根を $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ とするならば,$x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ のこれらの値に対して,$H$ は $0$ にならないのであるから,上の仮定は矛盾である.
 (あるいはまた $H$ が $a_1^\alpha a_2^\beta\cdots a_n^\lambda$ という項を含むとすれば,それを $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ によって表わすときに\[x_1^{\alpha+\beta+\ \cdots\ +\lambda}x_2^{\beta+\ \cdots\ +\lambda}\cdots x_n^\lambda\]という項が生ずる.これと同様な項が $H$ の他の項からは出ないようにするには,$\alpha+\beta+\cdots+\lambda$,$\beta+\cdots+\lambda$,$\cdots$,$\lambda$ のなるべく大きいものを取ればよいから,$H$ が $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ に関して形式的に $0$ になることは不可能である).
 $\boldsymbol{4.}$ $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ が方程式\[a_0x^n+a_1x^{n-1}+\cdots+a_n=0\]の根であるとき,$S(x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)$ を方程式の係数で表わすには,上文の $a_1$,$\cdots$,$a_n$ の代わりに $\dfrac{\ a_1\ }{a_0}$,$\cdots$,$\dfrac{\ a_n\ }{a_0}$ をおかねばならない.そのときには $G$ は $a_0^{e_1}$ を分母とする有理式になる.ゆえに $G$ の意味を少し変えて\[a_0^{e_1}S(x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)=G(a_0,\ a_1,\ \cdots,\ a_n)\]とおけば,$G$ は $a_0$,$a_1$,$\cdots$,$a_n$ に関して $e_1$ 次の斉次式になる.$e_1$ は上にいった通り,$S$ において一つの変数についている指数のうち最も大きいものである.
 〔問題 $\boldsymbol{1}$〕 $S=\sum x_1^2x_2^2x_3$ を基本対称式によって表わすこと.
 〔解〕 上の証明に用いた方法によって,次々に $S$ を低位の対称式に還元して $G$ を求めることができる.この問題の場合には\[e_1=e_2=2,\hphantom{nn}e_3=1,\hphantom{nn}e_4=\cdots=e_n=0\]であるから\[-a_2a_3={\textstyle\sum}x_1x_2\hspace{0.7mm}\cdotp{\textstyle\sum}x_1x_2x_3\]が $S$ と同型の項を含み,その他は $S$ よりも低位である.すなわち\[-a_2a_3=S+S_1\]とおけば,\[S_1=3{\textstyle\sum}x_1{}^2x_2x_3x_4+10{\textstyle\sum}x_1x_2x_3x_4x_5.\]さて\[-a_1a_4={\textstyle\sum}x_1\hspace{0.7mm}\cdotp{\textstyle\sum}x_1x_2x_3x_4={\textstyle\sum}x_1{}^2x_2x_3x_4+5{\textstyle\sum}x_1x_2x_3x_4x_5.\]ゆえに\[S=-a_2a_3+3a_1a_4-5a_5.\]ただし,ここで変数は $5$ 個以上あるものと仮定したのである.もし変数が $4$ 個ならば $a_5=0$,変数が $3$ 個ならば $a_4=a_5=0$ とすべきである.
 $S$ における最大指数は $2$ であるから,$G$ は $2$ 次,また $S$ は斉次 $5$ 次式であるから,$G$ は斉重で,各項の重さが $5$ である.

 〔問題 $\boldsymbol{2}$〕 $x_1$,$x_2$,$x_3$ が三次方程式\[a_0x^3+a_1x^2+a_2x+a_3=0\]の根であるとき,\[S=\{(x_1-x_2)(x_1-x_3)(x_2-x_3)\}^2\]を係数 $a_0$,$a_1$,$a_2$,$a_3$ によって表わすこと.
 〔解〕 $S$ を展開すれば最高位の型として $(4,\ 2,\ 0)$ を得る.ゆえに $a_0{}^4S$ は $a$ に関して斉次の四次式 $G$ である.$S$ は $x_1$,$x_2$,$x_3$ に関して斉次六次であるから,$G$ の各項の重さは $6$ である.ゆえに\[G=a_0{}^4S=Aa_0a_1a_2a_3+Ba_0a_2{}^3+Ca_0{}^2a_3{}^2+Da_1{}^2a_2{}^2+Ea_1{}^3a_3\]のような形になる.このように,$G$ の次数と重さとから,$G$ の中に含まれ得るすべての項が知れるから,問題は係数 $A$,$B$,$C$,$D$,$E$ を計算することに帰する.
 これらの係数を求めるには,$x_1$,$x_2$,$x_3$ に特別な五組の値を与えてそれに対する $S$ および $a_1$,$a_2$,$a_3$ を計算して,両辺に代入する.そうすれば未知の係数 $A$,$B$,$C$,$D$,$E$ を含む五つの一次方程式を得るから,それから,これらの係数を求めることができるはずであるが,次のようにして幾分か手数を省くことができる.
 まず係数 $a_0$,$a_1$,$a_2$,$a_3$ の順序を逆にすれば,根は逆数になるが\[a_3{}^4\left\{\left(\frac{1}{x_1}-\frac{1}{x_2}\right)\left(\frac{1}{x_1}-\frac{1}{x_3}\right)\left(\frac{1}{x_2}-\frac{1}{x_3}\right)\right\}^2=a_0{}^4\{(x_1-x_2)(x_1-x_3)(x_2-x_3)\}^2\]ゆえに $G$ は $a_0$,$a_1$,$a_2$,$a_3$ の順序を逆にしても変わらない.したがって,$B=E_0$ 次に $x_3=0$ とすれば,$a_3=0$ で,$x_1$,$x_2$ は二次方程式 $a_0x^2+a_1x+a_2=0$ の根である.このとき\[a_0{}^4S=a_0{}^4(x_1-x_2)^2(x_1x_2)^2=(a_1{}^2-4a_0a_2)a_2{}^2.\] ゆえに $D=1$,$B=-4$.そこで,まだわからないのは $A$ と $C$ とだけであるが,三次方程式を $x^3-1=0$ とすれば,$a_0=1$,$a_1=a_2=0$,$a_3=-1$ で,$x_1=1$,$x_2$,$x_3$ は $1$ の虚数立方根になり,$S$ は $-27$ に等しい.これから $C=-27$ を得る.最後に三次方程式を $(x+1)^3=0$ にすれば,$a_0=a_3=1$,$a_1=a_2=3$ で,$S=0$.
ゆえに$9A-4.27-27+9^2-4.27=0,$   
したがって $A=18$.ゆえに\[a_0{}^4S=a_1{}^2a_2{}^2+18a_0a_1a_2a_3-4a_0a_2{}^3-4a_1{}^3a_3-27a_0{}^2a_3{}^2.\] 〔注意〕 三次方程式が $x^3+px+q=0$ ならば,\[S=-4p^3-27q^2.\]
 〔問題 $\boldsymbol{3}$〕 変数の同次冪の和\[S_k=x_1^k+x_2^k+\cdots+x_n^k\hspace{1cm}(S_0=n)\]と基本対称式との間には,次の関係がある.\begin{alignat*}{1}&S_1+a_1=0,\\[2mm]&S_2+a_1S_1+2a_2=0,\\[2mm]&S_3+a_1S_2+a_2S_1+3a_3=0,\\[2mm]&\hphantom{S_3}\huge\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\\&S_{n-1}+a_1S_{n-2}+\cdots+a_{n-2}S_1+(n-1)a_{n-1}=0,\\[2mm]&S_n+a_1S_{n-1}+\cdots+a_{n-1}S_1+na_n=0,\\[2mm]&S_{n+1}+a_1S_n+\cdots+a_{n-1}S_2+nS_1=0,\huge\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\end{alignat*} これを Newton の公式という.これらの公式から次々に $S_1$,$S_2$,$S_3$,$\cdots$ を $a_1$,$a_2$,$\cdots$ によって表わすことができる.
 〔解〕 Newton の公式は\[\frac{\ f^\prime(x)\ }{f(x)}=\frac{\ S_0\ }{x}+\frac{\ S_1\ }{x^2}+\cdots+\frac{\ S_k\ }{x^{k+1}}+\cdots\tag{$\ 2\ $}\]から最も容易に得られる.右辺における展開式と $f(x)$ との積を器械的に計算すれば $f^\prime(x)$ を得るから,$x^{n-k-1}$ の係数を比較して,$k\leqq n-1$ のとき\[S_k+a_1S_{k-1}+\cdots+a_kS_0=(n-k)a_k\]すなわち\[S_k+a_1S_{k-1}+\cdots+a_{k-1}S_1+ka_k=0.\]また $k\geqq n$ のとき\[S_k+a_1S_{k-1}+\cdots+a_nS_{k-n}=0\]を得るのである.
 Newton の公式によって,$k$ の二,三の値に対する $S_k$ を $a$ で表わせば次のようになる.\begin{alignat*}{1}&S_1=-a_1,\\[2mm]&S_2=-a_1{}^2-2a_2,\\[2mm]&S_3=-a_1{}^3+3a_1a_2-3a_3,\\[2mm]&S_4=a_1{}^4-4a_1{}^2a_2+4a_1a_3+2a_2{}^2-4a_4,\\[2mm]&\hphantom{S_4}\huge\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\end{alignat*} また逆に $a_1$,$a_2$,$\cdots$,$a_n$ を $S_1$,$S_2$,$\cdots$,$S_n$ によって表わすこともできるが,その場合には係数の中に分数が現われる.
 〔注意〕 $(\ 2\ )$ は\[\frac{\ f^\prime(x)\ }{f(x)}={\textstyle\sum}\frac{1}{\ x-x_1\ },\]\[\frac{1}{x-x_1}=\frac{1}{x}+\frac{x_1}{x^2}+\frac{x_1{}^2}{x^3}+\cdots+\frac{x_1{}^{m-1}}{x^m}+\frac{x_1{}^m}{x^m(x-x_1)}\]から出る.無限級数を嫌うならば\[\frac{\ f^\prime(x)\ }{f(x)}=\frac{S_0}{x}+\frac{S_1}{x^2}+\cdots+\frac{S_{m-1}}{x^m}+\frac{g(x)}{x^mf(x)}\]を用いればよい.$m$ はどのようにも大きく出来るから,Newton の公式がどこまでも出る.$g(x)$ は $n-1$ 次の多項式である.
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