代 数 学 講 義 改訂新版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 26.$ 基本対称式  $\S\ 28.$ 終結式 $\blacktriangleright$

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第 $5$ 章 対 称 式$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$置 換


 $\S\ 27.$ 判 別 式

 対称式の例として,方程式論で重要な判別式をあげることができる.$n$ 箇の変数 $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ の二つずつの差の積を\begin{alignat*}{1}P=(x_1-x_2)(x_1-x_3)\cdots(x_1-x_n)&\\[2mm](x_2-x_3)\cdots(x_2-x_n)&\\[2mm]\huge\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\hspace{0.7mm}\cdotp\ &\\(x_{n-1}-x_n)&\end{alignat*}とする.ここでは小さい番号の $x$ を被減数にして差を書いたが,もしもそうしないならば,$P$ の代わりに $-P$ が生じ得る.たとえば,上の $P$ の式で $x_1$ と $x_2$ とを交換すれば,第一の因子 $x_1-x_2$ は符号が変わり,その他の第一行の各因子と第二行の各因子とは,互いにその位置を交換し,第三行以下の因子は一つも変わらないから $P$ は $-P$ になる.$x_1$,$x_2$ でなくても,任意の二つの $x$,たとえば $x_h$ と $x_k$ とを交換しても,$P$ は $-P$ になることは見やすい.実際,$P$ において変数 $x_1$,$\cdots$,$x_n$ の順序を変えて $x_h$,$x_k$ を第一,第二の位置においたときに生ずる式を $P^\prime$ とすれば,$P^\prime=\pm P$.しかるに $P^\prime$ において第一,第二の変数である $x_h$,$x_k$ を交換すれば,上にいったように,$P^\prime$ は $-P^\prime$ になるから,$P$ もやはり $-P$ にならなければならない.
 このように,$P$ は対称式ではないが,$P^2$ は変数の置換によって変わらないはこと明らかである.すなわち $P^2$ は対称式である.
 $P^2$ を展開すれば,最高位の型の項として $x_1^{2(n-1)}x_2^{2(n-2)}\cdots x_{n-1}^2$ を得るから,いま $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ を方程式\[f(x)=a_0x^n+a_1x^{n-1}+\cdots+a_n=0\]の根として,\[D=a_0^{2(n-1)}P^2\]とおけば,$D$ は $a_0$,$a_1$,$\cdots$,$a_n$ に関して $2(n-1)$ 次の斉次式になる.またその式は斉重で,重さは $n(n-1)$ に等しい.
 たとえば,$n=2$ とすれば\[f(x)=a_0x^2+a_1x+a_2,\]\[D=a_0{}^2(x_1-x_2)^2=a_1{}^2-4a_0a_2\]$n=3$ のときは,$\S\ 26$,問題 $2$ において計算した通りである.
 $D$ を方程式 $f(x)=0$ または多項式 $f(x)$ の判別式という.

 〔定理 $\boldsymbol{5.\ 2}$〕 判別式 $\boldsymbol{D}$ が $0$ に等しいことが$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$$\boldsymbol{f}(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{0}$ が複根をもつために必要かつ十分な条件である.
 これは明白である.また $D$ を $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ の対称式として次のように表わすことができる.\[f(x)=a_0(x-x_1)(x-x_2)\cdots(x-x_n)\hphantom{^\prime{}_{111-1}}\]から\begin{alignat*}{1}&f^\prime(x_1)=a_0(x_1-x_2)(x_1-x_3)\cdots(x_1-x_n)\\[2mm]&f^\prime(x_2)=a_0(x_2-x_1)(x_2-x_3)\cdots(x_2-x_n).\\[2mm]&\hphantom{m}\huge\cdotp\hspace{0.15em}\cdotp\hspace{0.15em}\cdotp\hspace{0.15em}\cdotp\hspace{0.15em}\cdotp\hspace{0.15em}\cdotp\hspace{0.15em}\cdotp\hspace{0.15em}\cdotp\hspace{0.15em}\cdotp\hspace{0.15em}\cdotp\hspace{0.15em}\cdotp\\&f^\prime(x_n)=a_0(x_n-x_1)(x_n-x_2)\cdots(x_n-x_{n-1}).\end{alignat*} よって\[D=(-1)^{\displaystyle\scriptsize\raise{0.5em}\frac{n(n-1)}{2}}a_0^{n-2}f^\prime(x_1)f^\prime(x_2)\cdots f^\prime(x_n).\] 〔問題 $\boldsymbol{1}$〕 五次方程式 $x^5+px+q=0$ の判別式を求めること.
 〔解〕 判別式 $D$ は $p^mq^n$ のような項から成り立って,重さは $20$ である.$p$,$q$ の重さがそれぞれ $4$,$5$ であるから $4m+5n=20$,したがって $m=5$,$n=0$ または $m=0$,$n=4$.ゆえに $D=\lambda p^5+\mu q^4$,$\lambda$,$\mu$ は数字係数である.いま $p=0$,$q=-1$ とすれば,$f(x)=x^5-1$,$f^\prime(x)=5x^4$.したがって $D=5^5$.ゆえに $\mu=5^5$.次にまた $p=-1$,$q=0$ とすれば,$f(x)=x^5-x$.根は $0$ のほか $\pm1$,$\pm i$ である.ゆえに $D=(-1,\ -i,\ +1,\ +i)^2D^\prime$ で,$D^\prime$ は $x^4-1=0$ の判別式である.それは $-4^4$ に等しい,すなわち $D=-\lambda=-4^4$.ゆえに $\lambda=4^4$.よって\[D=4^4p^5+5^5q^4.\] 〔注意〕 五次方程式を一般の形に取れば,判別式は項数 $59$ の式になる.
 〔問題 $\boldsymbol{2}$〕 $f(x)=0$ を $n$ 次の方程式,$D$ を判別式,$M$ を根の絶対値の限界とすれば,二つの根の差は絶対値において\[\delta=\frac{\left|\sqrt{D}\right|}{\ (2M)^{\displaystyle\scriptsize\raise{0.5em}{\frac{n(n-1)}{2}-1}}\ }\]以上である.
 〔解〕 $\prod(x_p-x_q)=\sqrt{D}$,$|x_p-x_q|\leqq 2M$ から出る.Sturm の定理によって $f(x)=0$ の根を分離するとき,区間 $(-M,\ M)$ を上の $\delta$ よりも小さい区間に細分すれば,実根の分離は完成する.また $|x|\leqq M$ なる円を $\delta/\sqrt{2}$ を一辺とする方眼に分けるならば,虚根の分離が完成する.すなわち根の分離は手数をいとわなければ必ず完成する.もちろん複根は初めから除いておくのである.
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