代 数 学 講 義 改訂新版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 36.$ 四次方程式(三次分解方程式の計算)  $\S\ 38.$ 二元二次方程式 $\blacktriangleright$

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第 $6$ 章 三次および四次方程式


 $\S\ 37.$ 四次方程式(根の非調和比)

 $\boldsymbol{1.}$ 四次方程式の四つの根の有理式の中で,最も著しいものは非調和比であろう.根を $x_1x_2|x_3x_4$ の二対に分けて非調和比を作れば\[k=\frac{\ x_1-x_3\ }{x_2-x_3}\ :\ \frac{\ x_1-x_4\ }{x_2-x_4}\tag{$\ 1\ $}\]を得る.四つの根の $24$ 個の順列に応じて,$k$ からいくつの異なる式が生ずるかを見よう.まずこの比の組立てから明らかであるように,各対の二つの根だけを互換すれば,$k$ はその逆数に変わるから,二対ともに互換すれば,$k$ は変わらない.すなわち上の比 $k$ を $[12.34]$ としるせば\[[12.34]=[21.43].\] また各対の $2$ 根の順序を変えないで,二対の位置を前後互換しても,$k$ は変わらない.すなわち\[[12.34]=[34.12].\] しかるに,上の理由によって\[[34.12]=[43.21]\]であるから,\[[12.34]=[21.43]=[34.12]=[43.21].\tag{$\ 2\ $}\] すなわち $k$ は四つの置換 $1$,$(12)(34)$,$(13)(24)$,$(14)(23)$ では変わらない.ゆえに四つの根の $24$ 個の順列に対応して,$k$ から高々 $6$ 個の異なる式が生ずる.
 さて $v_1$,$v_2$,$v_3$ の意味は前節の通りとすれば,\[k=\frac{\ (x_1-x_3)(x_2-x_4)\ }{(x_1-x_4)(x_2-x_3)}=-\frac{v_2}{v_3}\tag{$\ 3\ $}\] よって $24$ 個の順列に対応する非調和比の値は次のようになる.\begin{alignat*}{1}&[12.34]=[21.43]=[34.12]=[43.21]=-\frac{v_2}{v_3}=k,\\[2mm]&[12.43]=[21.34]=[34.21]=[43.12]=-\frac{v_3}{v_2}=\frac{1}{k},\\[2mm]&[13.42]=[24.31]=[31.24]=[42.13]=-\frac{v_3}{v_1}=\frac{1}{\ 1-k\ },\\[2mm]&[13.24]=[24.13]=[31.42]=[42.31]=-\frac{v_1}{v_3}=1-k,\\[2mm]&[14.23]=[23.14]=[32.41]=[41.32]=-\frac{v_1}{v_2}=\frac{\ k-1\ }{k},\\[2mm]&[14.32]=[23.41]=[32.14]=[41.23]=-\frac{v_2}{v_1}=\frac{k}{\ k-1\ }.\end{alignat*}\[v_1+v_2+v_3=0\]であるから,これらの六つの比は上の表の右端にしるした通り\[k,\hphantom{1}\frac{1}{k},\hphantom{1}1-k,\hphantom{1}\frac{1}{\ 1-k\ },\hphantom{1}\frac{\ k-1\ }{k},\hphantom{1}\frac{k}{\ k-1\ }\tag{$\ 4\ $}\]に等しいのである.
 すなわち非調和比は根の置換によって六つの相異なる値をもつものである.したがって,これらの六つの値は六次の分解方程式の根である.
 この六次分解方程式の著しい性質は,六つの根がその中の一つの一次式として表わされることである.前節で行なった計算の結果を応用すれば,この六次方程式は容易に求められる.
 まず上の表から\[k+\frac{1}{k}-1=-\frac{v_2}{v_3}-\frac{v_3}{v_2}-1=-\frac{v_2{}^2+v_2v_3+v_3{}^2}{v_2v_3}=-\frac{1}{2}\frac{v_1{}^2+v_2{}^2+v_3{}^2}{v_2v_3}=-\frac{\ 12g_2\ }{v_2v_3}\]$k=-\dfrac{v_2}{v_3}$ を掛けて\[k^2-k+1=\frac{\ 12g_2\ }{v_3{}^2}.\]また\[k(1-k)=\frac{\ v_1v_2\ }{v_3{}^2}=\frac{\ v_1v_2v_3\ }{v_3{}^3}=\frac{\ 16\sqrt{\varDelta}}{v_3{}^3}.\]ゆえに\[\frac{\ (k^2-k+1)^3\ }{k^2(1-k)^2}=\frac{\ 27g_2{}^3\ }{4\varDelta}.\tag{$\ 5\ $}\]$k$ を未知数と見れば,これがすなわち求めるところの六次分解方程式である.
 念のためにその理由を説明する.$(\ 5\ )$ の両辺を $x_1$,$x_2$,$x_3$,$x_4$ で表わしてしまえば,それはすなわち $x_1$,$x_2$,$x_3$,$x_4$ に関する恒等式である.ゆえに $x_1$,$x_2$,$x_3$,$x_4$ にいかなる置換を行なっても,その恒等式は成り立つ.しかるに,これらの置換によって $k$ は上の $(\ 4\ )$ の六つの値を取るが,右辺は対称式であるから変わらない.ゆえに $k$ の代わりに非調和比の他の値を入れても $(\ 5\ )$ は成り立つのである.
 前節 $(\ 10\ )$ $\varDelta=g_2{}^3-27g_3{}^2$ を参考して,$(\ 5\ )$ を次のように書く.\[\frac{4(k^2-k+1)^3}{g_2{}^3}=\frac{27k^2(1-k)^2}{\varDelta}=\frac{4(k^2-k+1)^3-27k^2(1-k)^2}{27g_3{}^2}.\tag{$\ 6\ $}\] さて\[4(k^2-k+1)^3-27k^2(1-k)^2=[(k+1)(k-2)(2k-1)]^2.\tag{$\ 7\ $}\] そこで\[J=\frac{\ g_2{}^3\ }{\varDelta}\]とおけば $(\ 6\ )$ を次のような立派な形に書くことができる.\[\frac{4(k^2-k+1)^3}{J}=\frac{(k+1)^2(k-2)^2(2k-1)^2}{J-1}=\frac{27k^2(1-k)^2}{1}.\tag{$\ 8\ $}\] 非調和比 $k$ は $x_1$,$x_2$,$x_3$,$x_4$ に同一の一次変形を行なうときに不変である.しかるに $J$ は $k$ の有理式に等しいから,四次方程式の未知数に一次変形を行なって,変形後の係数から $J$ を作っても,それは不変である.すなわち $J$ はいわゆる絶対不変式である.
 $g_2$,$g_3$ は四次式の不変式である($\S\ 29$,$155$ 頁,参照).
 前節では単に三次分解方程式の第二項を $0$ にすることを目標として計算を行なって,その結果として $g_2$,$g_3$ なる二つの式が生じたのであるが,$(\ 6\ )$ を考察すれば,$g_2$,$g_3$ と四次方程式の根との間に著しい関係のあることが知られる.すなわち $g_2=0$ であるときは $k^2-k+1=0$,したがって根の非調和比が $1$ の $6$ 乗根 $\dfrac{\ 1\pm\sqrt{-3\ }}{2}$ に等しい.この場合には $x_1$,$x_2$,$x_3$,$x_4$ は等値非調和(equianharmonic)であるという.また $g_3=0$ であるときは,$k$ は $-1$ または $2$ または $\dfrac{1}{2}$ に等しい.この場合には $x_1$,$x_2$,$x_3$,$x_4$ は調和(harmonic)である.
 $\varDelta=0$ は等根の場合である.

 $\S\ 36\ (\ 6\ )$ によって $g_2=0$ ならば,$v_1{}^2+v_2{}^2+v_3{}^2=0$,したがって $v_2{}^2+v_2v_3+v_3{}^2=0$.ゆえに $v_2/v_3$ は $1$ の虚立方根に等しく,したがって $k=-v_2/v_3$ は $1$ の虚 $6$ 乗根に等しい.実はそれを承知の上で,上の $k+\dfrac{1}{k}-1$ を $g_2$ と結びつけたのである.また $g_3=0$ ならば $\S\ 36\ (\ 9\ )$ によって $v_1$,$v_2$,$v_3$ の中に相等しいものがある.もし $v_2=v_3$ とすれば $k=-1$,$v_3=v_1$ とすれば $k=2$,$v_1=v_2$ とすれば $k=\dfrac{1}{2}$ である.それゆえ $(\ 7\ )$ の因数分解ができたのである.
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