代 数 学 講 義 改訂新版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 49.$ 連立一次方程式の解$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$斉次の場合  $\S\ 51.$ 基本定理の拡張 $\blacktriangleright$

『代数学講義』目次へ



第 $8$ 章 行  列  式


 $\S\ 50.$ 連立一次方程式の解$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$一般の場合

 最後に連立一次方程式の最も一般な場合を論ずる.すなわち $n$ 個の未知数を含む $m$ 個の一次方程式\begin{alignat*}{1}f_p&=a_{p1}x_1+a_{p2}x_2+\cdots+a_{pn}x_n+a_p=0\tag{$\ 1\ $}\\[2mm]&\hphantom{=a_{p1}x}(p=1,\ 2,\ \cdots,\ m)\end{alignat*}のすべての解を求めることが問題である.
 この場合には,未知数の係数の行列 $A$ と,それに既知項 $a_1$,$\cdots$,$a_m$ を一列として追加した行列 $B$ とを考察する必要がある.\[A=\begin{pmatrix}a_{11}&a_{12}&\cdotp&\cdotp&a_{1n}\\[1mm]a_{21}&a_{22}&\cdotp&\cdotp&a_{2n}\\[1mm]\cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp\\[1mm]a_{m1}&a_{m2}&\cdotp&\cdotp&a_{mn}\end{pmatrix}\hphantom{M}B=\begin{pmatrix}a_{11}&a_{12}&\cdotp&\cdotp&a_{1n}&a_1\\[1mm]a_{21}&a_{22}&\cdotp&\cdotp&a_{2n}&a_2\\[1mm]\cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp\\[1mm]a_{m1}&a_{m2}&\cdotp&\cdotp&a_{mn}&a_m\end{pmatrix}\] まず $(\ 1\ )$ が解をもつと仮定すれば,その解を $(\ 1\ )$ の左辺に代入して $B$ の最後の列は初めの $n$ 列の一次的結合であることがわかる.したがって $B$ の位は $A$ の位に等しい(定理 $8.\ 10$).これが $(\ 1\ )$ に解があるための必要条件である.
 さて,これがまた十分な条件である.いま $A$ と $B$ との位が $r$ であるとして\[A_r=\begin{vmatrix}\ a_{11}&a_{12}&\cdotp&\cdotp&a_{1r}\ \\[1mm]\ a_{21}&a_{22}&\cdotp&\cdotp&a_{2r}\ \\[1mm]\ \cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp\ \\[1mm]\ a_{r1}&a_{r2}&\cdotp&\cdotp&a_{rr}\ \end{vmatrix}\neq0\]と仮定する.
 しからば,行列 $B$ の第 $r+1$ 行以下は第 $1$ ないし $r$ 行の一次的結合である.したがって $f_{r+1}$,$\cdots$,$f_n$ は $f_1$,$f_2$,$\cdots$,$f_r$ の一次的結合であるから,$(\ 1\ )$ の解は\[f_1=0,\ f_2=0,\ \cdots,\ f_r=0\tag{$\ 2\ $}\]から求められる.$(\ 2\ )$ は Cramer の公式によって解くことができる.すなわち\[x_k=-\frac{1}{A_r}\left(\overset{n}{\underset{\sigma=r+1}{\textstyle\sum}}A_{k,\ \sigma}x_\sigma+A_{k,\ 0}\right)\tag{$\ 3\ $}\]\[(k=1,\ 2,\ \cdots,\ r)\]$A_{k,\ r}$ は $239$ 頁と同様で,$A_r$ の第 $k$ 列を $a_{1\sigma}$,$a_{2\sigma}$,$\cdots$,$a_{r\sigma}$ でおき換えた行列式で,$A_{k,\ 0}$ は $A_r$ の第 $k$ 列を既知項 $a_1$,$a_2$,$\cdots$,$a_r$ でおき換えた行列式を表わすのである.すなわち
\[A_{k,\ 0}=\begin{vmatrix}\ a_{11}&\cdotp&\cdotp&a_1&\cdotp&a_{1r}\ \\[1mm]\ a_{21}&\cdotp&\cdotp&a_2&\cdotp&a_{2r}\ \\[1mm]\ \cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp\ \\[1mm]\ a_{r1}&\cdotp&\cdotp&a_r&\cdotp&a_{rr}\ \end{vmatrix}\]\[k\]\[)\]
$x_{r+1}$,$\cdots$,$x_n$ に任意の値を与えて,$(\ 3\ )$ によって $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_r$ を求めるならば,$x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ が $(\ 1\ )$ の解である.のみならず,$(\ 1\ )$ の解はすべてこのようにして求められるのである.
 特に\[x_1=-\frac{A_{1,\ 0}}{A_r},\hphantom{1}x_2=-\frac{A_{2,\ 0}}{A_r},\ \cdots,\ x_r=-\frac{A_{r,\ 0}}{A_r},\ x_{r+1}=0,\ \cdots,\ x_n=0\]が一つの特別な解で,その他の解は $a_1=a_2=\cdots=a_r=0$ とおいて得られる斉次一次方程式の任意の解をそれに加えたものである.
 〔定理 $\boldsymbol{8.\ 4}$〕 連立一次方程式 $(\ \boldsymbol{1}\ )$ に解があるために必要かつ十分な条件は$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$行列 $\boldsymbol{A}$$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$$\boldsymbol{B}$ の位が相等しいことである.
 この位を $\boldsymbol{r}$ とすれば$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$$(\ \boldsymbol{1}\ )$ の解はその中の適当な $\boldsymbol{r}$ 個の方程式から求められる.適当に選ばれた $\boldsymbol{n}-\boldsymbol{r}$ の未知数に任意の値を与えるとき$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$その他の未知数の値が定まる.

 $r=n$ ならば解はただ一組に限る.
 これによって連立一次方程式の最も一般な場合の解法が完了したのである.解の有無を決定するものは,係数(および既知項)の行列の位である.連立一次方程式を初めから方程式と未知数とが同数である場合に限定するいわれはない.また方程式の数と未知数の数との大小のみによって解の有無を決定しようというのは.概括的の一般論である.また解が無数に存在するとき,それを不定の場合と名づけるだけで片づけてしまうのは粗雑である.不定といっても,すべての未知数に随意の値を与えて方程式が満足されるのではない.解が無数に存在しても解は全体として定め得るのである.
 〔問題 $\boldsymbol{1}$〕 $n$ 個の変数 $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ に関する $m$ 個の斉次一次式\[f_k=a_{k1}x_1+a_{k2}x_2+\cdots+a_{kn}x_n\hspace{1cm}(k=1,\ 2,\ \cdots,\ m)\]が変数($x$)に適当な値を与えることによって,任意の与えられた値を取り得るときに,それらを互いに独立であるという.そのために必要かつ十分な条件は,係数の行列の位が $m$ に等しいことである.
 〔解〕 $u_1$,$u_2$,$\cdots$,$u_m$ を任意に与えて,方程式 $f_1=u_1$,$\cdots$,$f_m=u_m$ に解があるかないかを見ればよい.
 〔問題 $\boldsymbol{2}$〕 $n$ 個の未知数を含む $n$ 個の斉次一次方程式\[a_{p1}x_1+a_{p2}x_2+\cdots+a_{pn}x_n=0\hspace{1cm}(p=1,\ 2,\ \cdots,\ n)\]の位(係数の行列の位)が $n-1$ で,たとえば最初の $n-1$ 行から $0$ に等しくない行列式が作られるとすれば,解は第 $n$ 行の余因子によって与えられる.\[x_1=\lambda A_{n1},\ x_2=\lambda A_{n2},\ \cdots,\ x_n=\lambda A_{nn}.\] この場合,独立な解はただ一つだから,次の定理が得られる.
 〔問題 $\boldsymbol{3}$〕 $n$ 次の行列式が $0$ に等しいとき,その位が $n-1$ ならば,各行〔または各列〕の余因子は互いに比例する.または全部 $0$ に等しい.
 〔問題 $\boldsymbol{4}$〕 $n$ 個の未知数を含む斉次一次方程式\[\left.\begin{alignat*}{1}&a_{11}x_1+a_{12}x_2+\ \cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\ +a_{1n}x_n=0,\hphantom{1}\\[2mm]\hphantom{a}&\cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\\[2mm]&a_{r1}x_1+a_{r2}x_2+\ \cdotp\hphantom{1}\cdotp\hphantom{1}\cdotp\ +a_{rn}x_n=0\end{alignat*}\right\}\]の位が $r$($r\lt n$)であるとき,係数の行列に $n-r$ 個の行を添えて\[D=\begin{vmatrix}\ a_{11}&a_{12}&\cdotp&\cdotp&a_{1n}\ \\[1mm]\ a_{21}&a_{22}&\cdotp&\cdotp&a_{2n}\ \\[1mm]\ \cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp\ \\[1mm]\ a_{n1}&a_{n2}&\cdotp&\cdotp&a_{nn}\ \end{vmatrix}\neq0\]とし,$D$ における $a_{pq}$ の余因子を $A_{pq}$ とすれば\[\left.\begin{array}{c}A_{r+1,\ 1}&A_{r+1,\ 2}&\cdotp&\cdotp&A_{r+1,\ n}\ \\[2mm]A_{r+2,\ 1}&A_{r+2,\ 2}&\cdotp&\cdotp&A_{r+2,\ n}\\[2mm]\cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp\\[2mm]A_{n,\ 1}&A_{n,\ 2}&\cdotp&\cdotp&A_{n,\ n}\end{array}\right\}\]は $n-r$ 個の互いに独立な解である.
 〔解〕 これが原方程式の解であることは代入して見れば明白である.さてこれらの解の間に\begin{alignat*}{1}&\lambda_1A_{r+1,\ 1}+\lambda_2A_{r+2,\ 1}+\cdots+\lambda_{n-r}A_{n,\ 1}=0,\\[2mm]&\hphantom{1}\cdotp\hphantom{m}\cdotp\hphantom{m}\cdotp\hphantom{m}\cdotp\hphantom{m}\cdotp\hphantom{m}\cdotp\hphantom{m}\cdotp\hphantom{m}\cdotp\hphantom{m}\cdotp\hphantom{m}\cdotp\hphantom{m}\cdotp\hphantom{m}\cdotp\\[2mm]&\lambda_1A_{r+1,\ n}+\lambda_2A_{r+2,\ n}+\cdots+\lambda_{n-r}A_{n,\ n}=0\end{alignat*}のような関係があるとすれば,$a_{r+1,\ 1}$,$a_{r+1,\ 2}$,$\cdots$,$a_{r+1,\ n}$ を掛けて加え\[\lambda_1D=0\]を得る.$D\neq0$ だから,$\lambda_1=0$.同様に $\lambda_2=0$,$\cdots$,$\lambda_{n-r}=0$.ゆえに上の解は互いに独立である(定理 $8.\ 19$ 参照).
 上の $D$ のように $0$ に等しくない行列式が作られることは見やすい.たとえば初めの $r$ 行から $0$ に等しくない一つの行列式を取り,それに入らない $n-r$ 個の列がそれぞれ $r+1$,$r+2$,$\cdots$,$n$ なる行に交叉するところに $1$ をおいて,その他は $0$ で埋める.

 〔問題 $\boldsymbol{5}$〕 $\S\ 50$,$(\ 1\ )$ の連立一次方程式において,$s$ 組の解\[x_1{}^{(\sigma)},\ x_2{}^{(\sigma)},\ \cdots,\ x_n{}^{(\sigma)}\hphantom{M}(\sigma=1,\ 2,\ \cdots,\ s)\]が得られたとき,$p_1+p_2+\cdots+p_s=1$ なる乗数 $p_1$,$p_2$,$\cdots$,$p_s$ を以て作られる,それらの解の一次的結合\begin{alignat*}{1}x_1&=p_1x_1{}^{(1)}+p_2x_1{}^{(2)}+\cdots+p_sx_1{}^{(s)},\\[2mm]x_2&=p_1x_2{}^{(1)}+p_2x_2{}^{(2)}+\cdots+p_sx_2{}^{(s)},\ \cdots\end{alignat*}が,やはり解である.このような解は前の $s$ 組の解から独立でないという.しからば,方程式 $(\ 1\ )$ の位が $r$ ならば,$n-r+1$ 組の独立な解があって,一般の解は,上の方法によって,これらの解の一次的結合として得られる.
 〔解〕 不斉次な方程式 $(\ 1\ )$ の解は,一組の解に,$(\ 1\ )$ の既知項を $0$ でおき換えて得られる斉次一次方程式の解を加えて得られる.この注意を用いて,容易に解かれる.
inserted by FC2 system