代 数 学 講 義 改訂新版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 59.$ 二重一次形式の位と標準形式  $\S\ 61.$ 対称行列式 $\blacktriangleright$

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第 $9$ 章 二 次 形 式


 $\S\ 60.$ 二 次 形 式

 $\boldsymbol{1.}$ $n$ 個の変数 $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ の二次形式を次のように表わす.\[A(x,\ x)={\textstyle\sum}\ \!a_{\mu\nu}x_\mu x_\nu,\hspace{1cm}a_{\mu\nu}=a_{\nu\mu}.\hspace{7mm}(\mu,\ \nu=1,\ 2,\ \cdots,\ n)\]すなわち\[a_{11}x_1{}^2+\cdots+a_{nn}x_n{}^2+2a_{12}x_1x_2+\cdots+2a_{\mu\nu}x_\mu x_\nu+\cdots+2a_{n-1,\ n}x_{n-1}x_n\]で,$x_1x_2$ のような平方でない項の係数は $2a_{12}$ のように数字係数 $2$ をつけておくのであるが,同時にまた $a_{21}=a_{12}$ とおいて $2a_{12}x_1x_2$ を $a_{12}x_1x_2+a_{21}x_2x_1$ のようにもしるすのである.この記法が大切である.
 係数 $a_{\mu\nu}$ の行列を略して二次形式の行列という.それは\[A=\begin{pmatrix}a_{11}&a_{12}&\cdotp&a_{1n}\\[1mm]a_{21}&a_{22}&\cdotp&a_{2n}\\[1mm]\cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp\\[1mm]a_{n1}&a_{n2}&\cdotp&a_{nn}\end{pmatrix}\]で,いわゆる対称行列である.すなわち第一対角線に関して対称の位置にある組成分子 $a_{\mu\nu}$,$a_{\nu\mu}$ が相等しく,したがって行と列との転置によって行列が変わらない.\[A^\prime=A.\] 二次形式 $A(x,\ y)$ に一次変形\[(x)=P(x^\prime),\hspace{1cm}P=\hspace{-0.4em}\pmb{〔}p_{\alpha\beta}\pmb{〕}\hspace{-0.4em},\hspace{1cm}|\ \!P\ \!|\neq0\]を行なうときは新変数 $(x^\prime)$ の二次形式が生ずる.
 それを $B(x^\prime,\ x^\prime)=\sum\ \!b_{\mu\nu}x^\prime{}_\mu x^\prime{}_\nu$ として,係数の行列を $B$ とする.
 行列 $A$,$B$ の間の関係は定理 $9.\ 1$ から得られる.
 もとの二次形式の係数で二重一次形式 $A(x,\ y)=\sum\ \!a_{\mu\nu}x_\mu y_\nu$ を作って,変数 $(y)$ にも $(x)$ と同一の一次変形\[(y)=P(y^\prime)\]を行なって後 $(x^\prime)=(y^\prime)$ とすれば,それはすなわち変形後の二次形式 $B(x^\prime,\ x^\prime)$ である.ゆえに次の定理を得る.
 〔定理 $\boldsymbol{9.\ 3}$〕 二次形式 $\boldsymbol{A}(\boldsymbol{x},\ \boldsymbol{x})$ に一次変形 $(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{P}(\boldsymbol{x}^\prime)$ を行なうときに$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$係数の行列 $\boldsymbol{A}$ が $\boldsymbol{B}$ になるとすれば\[\boldsymbol{B}=\boldsymbol{P}^\prime\boldsymbol{AP}\tag{$\ 1\ $}\]すなわち\[b_{\mu\nu}=\underset{s,\ t}{\textstyle\sum}a_{st}p_{s\mu}p_{t\nu}.\hspace{1cm}(s,\ t=1,\ 2,\ \cdots,\ n)\tag{$\ 2\ $}\] 二次形式 $A(x,\ x)$ の係数の行列式 $|\ \!A\ \!|$ を略して二次形式の行列式または判別式という.
 しからば $(\ 1\ )$ から\[|\ \!B\ \!|=|\ \!A\ \!|\hspace{0.7mm}\cdotp|\ \!P\ \!|^2\tag{$\ 3\ $}\]を得る.すなわち変形後の二次形式の判別式は原二次形式の判別式と $(a_{\mu\nu})$ に関しては定数である因数(一次変形の係数の行列式の平方 $|\ \!P\ \!|^2$)だけで違う.すなわち判別式は二次形式の不変式($\S\ 29$)である.
 よって二次形式の判別式が $0$ に等しい,または $0$ に等しくないという性質は,一次変形(正則一次変形,$|\ \!P\ \!|\neq0$)のために影響されない.
 それのみならず,行列 $A$ の位がすでに一次変形によって不変である(定理 $9.\ 2$).
 行列 $A$ の位が二次形式 $A(x,\ x)$ の基本的の性質であることは,次節以下で述べるであろう.
 〔注意〕 上の判別式は初等代数における二次式の判別式と符号が反対である.二つの変数 $x$,$y$ の二次形式 $ax^2+2bxy+cy^2$ において,上の定義によれば判別式は\[\begin{vmatrix}\ a&b\ \\[1mm]\ b&c\ \end{vmatrix}=ac-b^2\]である.判別式が $0$ になるか,ならないかだけが問題である場合には,どちらにしても同じであるが,判別式の符号を考える場合には,この差別に注意することが必要である.
 $\boldsymbol{2.}$ 二次形式に連関して極形式(ポーラー,$153$ 頁参照)が用いられる.\[A(x,\ x)={\textstyle\sum}\ \!a_{pq}x_px_q\]を $x_i$ に関して微分して,\[A_i(x)=\frac{1}{2}\frac{\partial A}{\partial x_i}=a_{i1}x_1+a_{i2}x_2+\cdots+a_{in}x_n,\hspace{1cm}(i=1,\ 2,\ \cdots,\ n)\]とおく.しからば,$x_1{}^0$,$x_2{}^0$,$\cdots$,$x_n{}^0$ に関する極形式は\begin{alignat*}{1}A(x^0,\ x)&=x_1{}^0A_1(x)+x_2{}^0A_2(x)+\cdots+x_n{}^0A_n(x)\\[2mm]&=\overset{n}{\underset{p,\ q=1}{\textstyle\sum}}a_{pq}x_p{}^0x_q\end{alignat*}である.行列 $A$ の対称のために\[A(x^0,\ x)=A(x,\ x^0)\tag{$\ 4\ $}\]である.
 二次形式の一次変形は,極形式を用いて,次のようにしるされる.
すなわち,一次変形を\[x=P(x^\prime),\hspace{5mm}P=\begin{pmatrix}p_1{}^{(1)}&p_1{}^{(2)}&\cdotp&p_1{}^{(n)}\\[1mm]p_2{}^{(1)}&p_2{}^{(2)}&\cdotp&p_2{}^{(n)}\\[1mm]\vdots&\vdots&\vdots&\vdots\\[1mm]p_n{}^{(1)}&p_n{}^{(2)}&\cdotp&p_n{}^{(n)}\end{pmatrix}\]とすれば\[A(x,\ x)=\overset{n}{\underset{i,\ j=1}{\textstyle\sum}}A(p^{(i)},\ p^{(j)})x_i{}^\prime x_j{}^\prime\tag{$\ 5\ $}\]$p^{(i)}$,$p^{(j)}$ は行列 $p$ の第 $i$ 列,第 $j$ 列の組成分子を代表する.
 これは,$(\ 2\ )$ を書き直したまでである.
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