代 数 学 講 義 改訂新版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 62.$ 二次形式の位  $\S\ 64.$ 定符号の二次形式$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$不定符号の二次形式 $\blacktriangleright$

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第 $9$ 章 二 次 形 式


 $\S\ 63.$ 二次形式の標準形式

 $\boldsymbol{1.}$ 二次形式の位が $r$ ならば,それを $r$ 個の変数の二次形式に変形することができるが,それを適当に変形して,$r$ 個の変数の平方の項のみを含むような形\[a_1X_1{}^2+a_2X_2{}^2+\cdots+a_rX_r{}^2\]にすることができる.このような二次形式を標準形式という.
 原二次形式 $A(x,\ x)$ の係数の行列 $A$ において,首座行列式\[A_r=A\begin{pmatrix}12\cdots r\\12\cdots r\end{pmatrix}\neq0\]ならば,それを $A_r(x^\prime,\ x^\prime)$ なる二次形式に変形し得るのであるから,初めから二次形式がすでにこのように変形されているものと見なして説明を進める.よって $r$ の代わりに元の通り $n$ なる文字を用いて,$A(x,\ x)$ の位を $n$ とする.すなわち判別式 $|\ \!A\ \!|=A_n\neq0$ とする.
 さて変数 $x$ に $x^0$ なる値を与えて$――$ $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n=x_1{}^0$,$x_2{}^0$,$\cdots$,$x_n{}^0$ なる値を与えることを,このように略していう$――$ $A(x^0,\ x^0)\neq0$ とする.そうして $x^0$ に関する極形式 $A(x^0,\ x)$ を用いて\[F(x,\ x)=A(x^0,\ x^0)A(x,\ x)-A(x^0,\ x)^2\]とおいて,二次形式 $F(x,\ x)$ を偏微分して\[F_i(x)=\frac{1}{2}\ \!\frac{\partial F}{\partial x_i}=A(x^0,\ x^0)A_i(x)-A(x^0,\ x)A_i(x^0)\]\[(i=1,\ 2,\ \cdots,\ n)\]を得る($\S\ 60.\ 2$ 参照).よって\[F_i(x^0)=A(x^0,\ x^0)A_i(x^0)-A(x^0,\ x^0)A_i(x^0)=0.\]すなわち $x^0$ は連立一次方程式 $F_i(x)=0$,$i=1$,$2$,$\cdots$,$n$ の解である.ゆえに一次式 $F_1(x)$,$F_2(x)$,$\cdots$,$F_n(x)$ の係数の行列式は $0$ に等しい,しかるに,この行列式はすなわち二次形式 $F(x,\ x)$ の判別式であるから,$F(x,\ x)$ の位は $n$ よりも低い.すなわち二次形式 $A(x,\ x)$ は,それから一つの平方項 $\dfrac{1}{A(x^0,\ x^0)}A(x,\ x^0)^2$ を引くことによって,位が低められる.この操作を続行すれば,$A(x,\ x)$ は多くとも $n$ 個の平方項の和として表わされるのであるが,位は一次変形によって変わらないから,実際に $n$ 個の平方項を要するのである.よって次の定理を得る.
 〔定理 $\boldsymbol{9.\ 7}$〕 二次形式の位が $r$ ならば,それを標準形式\[a_1X_1{}^2+a_2X_2{}^2+\cdots+a_rX_r{}^2\]に変形することができる.
 $X_1$,$X_2$,$\cdots$,$X_r$ はもとの変数の互いに独立な一次式で,また係数 $a_i$ は,一つも $0$ でない.
 $\boldsymbol{2.}$ これまで述べたことは,二次形式の位が基本になっていて,二次形式の係数が複素数であっても当てはまるのである.実際上,虚係数の二次形式は応用上の重大性が少ないから,これからは実係数の二次形式を考察する.その場合,実係数の一次変形によって,標準形式は得られるが,その際平方項の係数の符号が大切である.これに関して,次の定理が成り立つ.
 〔定理 $\boldsymbol{9.\ 8}$〕 与えられた実係数の二次形式を実一次変形によって標準形式にするときは$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$正項および負項の数は一定である.
 これを二次式の惰性律という.
 〔〕 二次形式 $f$ の位を $n$ とし,標準形式において\begin{alignat*}{1}f&=a_1X_1{}^2+a_2X_2{}^2+\cdots+a_PX_P{}^2-a_{P+1}X^2{}_{P+1}-\cdots-a_nX_n{}^2\\[2mm]&=a_1{}^\prime X_1{}^{\prime\ 2}+a_2{}^\prime X_2{}^{\prime\ 2}+\cdots+a^\prime{}_{P^\prime}X^{\prime\ 2}{}_{P^\prime}-a^\prime{}_{P^\prime+1}X^{\prime\ 2}{}_{P^\prime+1}-\cdots-a_n{}^\prime X_n{}^{\prime\ 2}\end{alignat*}とする.もちろん初めの $P$ 項および $P^\prime$ 項は正項,その他は負項とするのである.そのとき $P=P^\prime$ なることを証明することを要する.$X_1$,$X_2$,$\cdots$,$X_n$ は原変数 $(x)$ の互いに独立な一次式である.$X_1{}^\prime$,$X_2{}^\prime$,$\cdots$,$X_n{}^\prime$ も同様.
 いま $P\lt P^\prime$ と仮定すれば,$P+(n-P^\prime)\lt n$.よって\[X_1=0,\ \cdots,\ X_p=0,\ X^\prime{}_{P^\prime+1}=0,\ \cdots,\ X_n{}^\prime=0\]を満足させる $(x)$ の実数値が $x_1=x_2=\cdots=x_n=0$ 以外に存在する.
 その値を代入するとき,第一の標準形式によれば $f\lt0$,第二の標準形式によれば $f\gt0$ になる($X_{P+1}$,$\cdots$,$X_n$ が $X_1$,$\cdots$,$X_P$ と同時に $0$ になり,または $X^\prime{}_{P^\prime+1}$,$\cdots$,$X_n{}^\prime$ と同時に $X_1{}^\prime$,$X_2{}^\prime$,$\cdots$,$X^\prime{}_{P^\prime}$ が $0$ になることは,$x_1=x_2=\cdots=0$ であるときに限る.これらの一次式は仮定によって互いに独立であるから).ゆえに $P\lt P^\prime$ は不合理である.同様に $P^\prime\lt P$ も不合理であるから,$P=P^\prime$.
 正項と負項との数の差 $P-N$ を二次形式の符号定数という.位を $r$,符号定数を $\sigma$ とすれば\[P=\frac{r+\sigma}{2},\hspace{1cm}N=\frac{r-\sigma}{2}.\] $\boldsymbol{3.}$ 二次形式の符号定数と,その判別式の首座行列式の符号との間に,密接な関係がある.いま変数の番号を適当に選んで首座行列式\[A_0=1,\hphantom{A}A_h=A\begin{pmatrix}12\cdots h\\12\cdots h\end{pmatrix}\hspace{5mm}h=1,\ 2,\ \cdots,\ n\tag{$\ 1\ $}\]が定理 $9.\ 5$ に述べた条件を満たしているとする.すなわち相接する二つが $0$ にならず,また $A_h=0$ ならば,$A_{h-1}$ と $A_{h+1}$ とは反対の符号をもち,かつ $A_{h+1}$ に含まれる $h$ 次の首座行列式はすべて $0$ に等しいと仮定する.
 さて,二次形式 $A(x,\ x)$ を $f$ と書いて,乗数 $\lambda$ を適当に定めて\[f^\prime=f-\lambda x_n{}^2\]の位を低くすることを試みる.$f^\prime$ の判別式は\[\begin{vmatrix}\ a_{11}&\cdotp&\cdotp&a_{1n}\hphantom{\lambda}\ \\[1mm]\ \cdotp&\cdotp&\cdotp&\cdotp\hphantom{\lambda}\ \\[1mm]\ a_{n1}&\cdotp&\cdotp&a_{nn}-\lambda\ \end{vmatrix}=A_n-\lambda A_{n-1}\]だから,$A_{n-1}\neq0$ ならば,$\lambda=A_n/A_{n-1}$ とすればよい.そのとき定理 $9.\ 6$ によって,$f^\prime$ を $n-1$ 個の変数の二次形式に変えて,しかも係数の行列を $A_{n-1}$ にすることができる.ゆえに\[f=\lambda x_n{}^2+\overset{n-1}{\underset{p,\ q=1}{\textstyle\sum}}a_{p,\ q}x_p{}^\prime x_q{}^\prime.\]もしまた $A_{n-1}=0$ ならば\[f^{\prime\prime}=f-2\mu x_{n-1}x_n\]とおいて,$f^{\prime\prime}$ を位が $n-2$ なる二次形式にすることができる.$f^{\prime\prime}$ の判別式は
$\hspace{0.3mm}$$\hphantom{1}A_{n-2}$$\cdotp$$\cdotp$
$\varDelta=\ \!$$\hphantom{1}\cdotp\hphantom{m}\cdotp$$\hphantom{m}a_{n-1,\ n-1}$$\hphantom{m}a_{n-1,\ n}-\mu\ $
$\hphantom{1}\cdotp\hphantom{m}\cdotp$$\hphantom{m}a_{n,\ n-1}-\mu$$a_{nn}$
したがって\[A_{n-2}\varDelta=\left|\begin{array}{ll}\ A_{n-1}\hphantom{_{n,\ }-\mu}B_{n-1,\ n}-\mu A_{n-2}\ \\[1mm]\ B_{n,\ n-1}-\mu A_{n-2}\hphantom{_{,\ n}-}B_{nn}\ \end{array}\right|\]$B_{\alpha\beta}$ の意味は定理 $8.\ 22$ と同様である.さて,仮定によって,$A_{n-2}\neq0$,$A_{n-1}=0$,$B_{nn}=0$.また対称のために $B_{n-1,\ n}=B_{n,\ n-1}$.ゆえに $\mu=B_{n-1,\ n}/A_{n-2}$ とすれば $\varDelta=0$ で,かつ $\varDelta$ の位は $n-2$ になる.よって前と同様に,$f^{\prime\prime}$ が $n-2$ 個の変数の二次形式に変形されて\[f=2\mu x_{n-1}x_n+\overset{n-2}{\underset{p,\ q=1}{\textstyle\sum}}a_{p,\ q}x_p{}^\prime x_q{}^\prime.\] しかるに\[2\mu x_{n-1}x_n=\frac{\mu}{2}((x_{n-1}+x_n)^2-(x_{n-1}-x_n)^2)\] すなわちこの場合には,$f$ から正と負と一つずつの平方項を抜き出して,位を $n-2$ に低めることができる.
 このような操作を継続して,$f$ を標準形式にすることができる.首座行列式 $(\ 1\ )$ の中に $0$ に等しいものがない場合には,上の方法によって\[A(x,\ x)=\frac{A_1}{A_0}X_1{}^2+\frac{A_2}{A_1}X_2{}^2+\cdots+\frac{A_n}{A_{n-1}}X_n{}^2\]を得る.この標準形式において,正項と負項との数は,それぞれ\[A_0,\ A_1,\ \cdots,\ A_n\]における符号連続と符号変化との数に等しいから,$A(x,\ x)$ の符号定数 $\sigma$ は次のように見事な形に表わされる.\[\sigma=\overset{n}{\underset{k=1}{\textstyle\sum}}\operatorname{sign}\ A_{k-1}A_k.\tag{$\ 2\ $}\]首座行列式 $(\ 1\ )$ の中,$A_k=0$ なるものがあれば,上のような標準形式は得られないが,この場合には,$A_k$ に対応して標準形式に一つの正項と一つの負項とが生ずるから,符号定数には影響はない.このとき $A_{k-1}A_k=0$,$A_kA_{k+1}=0$ で,$(\ 2\ )$ において二つの項が $0$ になって,$(\ 2\ )$ はやはり成り立つのである.
 $\boldsymbol{4.}$ 実係数の二次形式 $f$ が実一次変形(正則,$|\ \!P\ \!|\neq0$)によって $f^\prime$ に変形されるときに(すなわち $f$,$f^\prime$ が実一次変形に関して対等なときに),$f$ と $f^\prime$ とを同類とする.この関係も反射的,対称的,推移的であるから,これによって二次形式を分類することができる.
 二つの実二次形式の標準形式における正項および負項の数 $P$,$N$ が一致することが,それらの二次形式が同類であるために必要かつ十分な条件である.
 それが必要なことは,すなわち,惰性律であるが,\[a_1X_1{}^2+\cdots+a_PX_P{}^2-a_{P+1}X^2{}_{P+1}-\cdots-a_{P+N}X^2{}_{P+N}\]のような二次形式はすべて\[\sqrt{a_1}X_1,\ \cdots,\ \sqrt{a_P}X_P,\ \cdots,\ \sqrt{a_{P+N}}X_{P+N}\]を新変数として更に簡単な同一の標準形式\[X_1{}^2+X_2{}^2+\cdots+X_P{}^2-X^2{}_{P+1}-\cdots-X^2{}_{P+N}\]に直すことができるから,上記は十分な条件である.
 $P+N$ は二次形式の位 $r$ に等しく,$\sigma=P-N$ は符号定数であるから,上の条件において $P$,$N$ の代わりに $r$,$\sigma$ を取ってもよい.
 〔例〕 変数 $n=4$ 個の場合に,$r=4$ とすれば,$P=4$,$3$,$2$,$1$,$0$ に応じて $\sigma=\pm4$,$\pm2$ または $0$ である.もしも四つの変数を空間における四面座標とすれば,$f(x_1,\ x_2,\ x_3,\ x_4)=0$ は二次曲面の方程式であるが,$\sigma=\pm4$ の場合は虚曲面,$\sigma=\pm2$ の場合は楕円面,複葉双曲面,楕円放物面で,$\sigma=0$ の場合は単葉双曲面または双曲放物面である.$\sigma=0$ は二次曲面が実直線を含む場合の特徴である.
 $\sigma=0$ ならば二次形式を $X^2-Y^2+U^2-V^2$ の形に変形することができる.すなわち $(X-Y)(X+Y)+(U-V)(U+V)=0$.ゆえに $X-Y=0$,$U-V=0$ と $X+Y=0$,$U+V=0$ とは相変わらない母線である.逆に $A_1A_2$ を曲面上の実直線とし,それを通る平面 $A_1A_2A_3$ および $A_1A_2A_4$ が曲面と交わる他の直線をそれぞれ $A_2A_3$,$A_1A_4$ とし,平面 $A_1A_3A_4$ と曲面との交わりを $A_1A_4$ と $A_3A_4$ とする.四面体 $A_1A_2A_3A_4$ に関しての座標を $x_1$,$x_2$,$x_3$,$x_4$ とすれば,二次曲面の方程式は $a_{13}x_1x_3+a_{24}x_2x_4=0$ になる.ゆえに $\sigma=0$.したがって $\sigma=\pm2$ であるときは曲面は実直線を含まない.
 $r=3$ とすれば,$\sigma=\pm3$,または $\pm1$ で,前者は虚の錐面,$\pm(X^2+Y^2+Z^2)=0$,後者は実の錐面,$\pm(X^2+Y^2-Z^2)=0$ に相当する.
 $r=2$ とすれば $\sigma=\pm2$ または $0$ で,前者は二つの虚平面 $\pm(X^2+Y^2)=0$,後者は二つの実平面 $X^2-Y^2=0$ の場合である.
 $r=1$ のときは,一つの実平面を二重に表わすのである.$\pm X^2=0$.
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