序 言
本書の構成は概括的にいって,二部に分かれる.その第 $1$ 部,第 $1$ 章から第 $7$ 章までは,方程式論であるが,更に細分すれば,その前半,第 $1$ 章から第 $3$ 章までは,いわゆる代数学の基本定理を中心とするもので,要するに多項式の解析学であって,そこでは複素数が立役である.またその後半,第 $4$ 章から第 $7$ 章までは,代数的方程式論の端緒で,そこでは群(Group)体(Field)などの初舞台を見るであろう.
第 $2$ 部,第 $8$ 章から第 $10$ 章までは,行列式とその応用とを論じる.行列式よりも,むしろ行列そのものが,輓近数学の各部門に於て重大性を有する現状に鑑みて,この部分では,行列論的の考察を基調とする.
前にいった大学の講義には,数学常識としての整数論の極小量が含まれていたのであるが,それは本書の姉妹篇ともいうべき「初等整数論講義」の中に収録されている.代数学と平行して,初等整数論の一班が修得されることは,甚だ望ましいのであるから,ここに附言するのである.
今世紀の二十年代を転機として,数学は各方面に劃期的の新生面を開いたが,その誘因は実に代数学に於ける抽象的方法の発展にあったのである.この新思潮の背景または基盤として,古典代数学がその存在理由を失なったのでないことは勿論で,むしろ却って新興代数学の階梯として,一層重大性を加えたものと思われる.このような考慮から,今回本書の改訂に際しても,成るべくその原形を保存することを主眼として,ただ若干の削正および追加を施こすに止めたのである.
$\hphantom{1}1948\hphantom{1}$年$\hphantom{1}10\hphantom{1}$月
著 者 |