代 数 学 講 義 改訂新版

改訂新版序 $\blacktriangleright$

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序    言


 本書は著者がかつて東京大学で初級生のためにした一般向きの代数学講義に基づいて,それに多少の布桁を加えたものである.この講義の目的は,僅少なる時間に於て,迅速に代数学の基本概念を解説するにあった.従って本書の目標とする所も,代数学の大観であって,系統的なる全書ではない.代数学の広汎なる全範囲に亘って,それを系統的に叙述することは,全く意図の外において,むしろ材料を最も基本的なる問題に局限して,それらを周到に解釈する間に於て,成るべく多趣多様に代数的方法を紹介することを主眼とするのである.系統的も勿論宜しいが,いつも同じ道順と同じ日程では,興味も効果も饒なるを得ないことが虞れられる.このような考慮を念頭において,本書の稿に筆をとった著者の微意が,如何なる程度にまで貫徹されたかは,読者の高鑑に任せる外はない.
 本書の構成は概括的にいって,二部に分かれる.その第 $1$ 部,第 $1$ 章から第 $7$ 章までは,方程式論であるが,更に細分すれば,その前半,第 $1$ 章から第 $3$ 章までは,いわゆる代数学の基本定理を中心とするもので,要するに多項式の解析学であって,そこでは複素数が立役である.またその後半,第 $4$ 章から第 $7$ 章までは,代数的方程式論の端緒で,そこでは群(Group)体(Field)などの初舞台を見るであろう.
 第 $2$ 部,第 $8$ 章から第 $10$ 章までは,行列式とその応用とを論じる.行列式よりも,むしろ行列そのものが,輓近数学の各部門に於て重大性を有する現状に鑑みて,この部分では,行列論的の考察を基調とする.
 前にいった大学の講義には,数学常識としての整数論の極小量が含まれていたのであるが,それは本書の姉妹篇ともいうべき「初等整数論講義」の中に収録されている.代数学と平行して,初等整数論の一班が修得されることは,甚だ望ましいのであるから,ここに附言するのである.
 今世紀の二十年代を転機として,数学は各方面に劃期的の新生面を開いたが,その誘因は実に代数学に於ける抽象的方法の発展にあったのである.この新思潮の背景または基盤として,古典代数学がその存在理由を失なったのでないことは勿論で,むしろ却って新興代数学の階梯として,一層重大性を加えたものと思われる.このような考慮から,今回本書の改訂に際しても,成るべくその原形を保存することを主眼として,ただ若干の削正および追加を施こすに止めたのである.
$\hphantom{1}1948\hphantom{1}$年$\hphantom{1}10\hphantom{1}$月
著    者  
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