初 等 整 数 論 講 義 第 $2$ 版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 36.$ 複素整数 $a+bi$  $\S\ 38.$ Fermat の問題,$x^4+y^4=z^4$ の不可能 $\blacktriangleright$

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第 $4$ 章 二次体 $K\left(i\right)$,$K\left(\sqrt{-3}\right)$ の整数

 $\S\ 37.$ $\boldsymbol{x}^2+\boldsymbol{y}^2=\boldsymbol{a}$ の解

 $\boldsymbol{1.}$ Gauss の複素整数 $a+bi$ の中で,いかなるものが素数であるか.
 $\pi$ をこのような素数とする.しからば $\pi$ で割り切れる有理整数($N\pi=\pi\overline{\pi}$ など)の中で,最小のもの(もちろん $0$ を除いた正の有理整数)を $p$ とするならば,$p$ は有理素数である.なぜならば,まず $\pi$ は単数でないから,$p\neq1$.もしも $p=ab$,$p\gt a\gt1$,$p\gt b\gt1$ とすれば,$a$ または $b$ が $\pi$ で割り切れねばならないから矛盾が生ずる.
 故に $\pi$ は有理素数 $p$ の約数である.いま $p=\pi\kappa$ とすれば,$Np=p^2=N\pi\hspace{0.7mm}\cdotp N\kappa$,したがって $N\pi$ は $p$ または $p^2$ に等しい.
 よって二つの場合が生ずる.
 $p=N\pi=\pi\overline{\pi}$ ならば,これがすなわち $p$ の素因数分解で,$p$ は二つの互いに共軛な素数の積に等しい.
 $p^2=N\pi$ ならば $N\kappa=1$,したがって $\kappa$ は単数で,$p$ は複素整数としても素数である.
 第一の場合には,$\pi=x+yi$ と置けば\[p=x^2+y^2\tag{$\ 1\ $}\]で,$p$ は二つの有理整数の平方の和に分解される.第二の場合には,このような分解は不可能である.
 故に問題は有理整数の範囲内で $\left(\ 1\ \right)$ を解くことに帰する.
 まず最も簡単な場合として $p=2$ をかたづける.このとき $\left(\ 1\ \right)$ の解は $x=\pm1$,$y=\pm1$ であることは明白である.複素整数の立場からは,しかしながら,これは重要であるから,次に特記する.すなわち $\lambda=1-i$ は素数で,その共軛 $\overline{\lambda}=1+i=i\lambda$ と同伴である.有理素数 $2$ はこの素数 $\lambda$ の平方と同伴である.$2=\lambda\overline{\lambda}=i\hspace{0.7mm}\cdotp\lambda^2$.
 〔問題 $\boldsymbol{1}$〕 $a+bi$ が $\lambda=1-i$ で割り切れるために必要かつ十分な条件は $a\equiv b\hphantom{n}\left(\text{mod}.\ 2\right)$ である.
 〔解〕 $a$,$b$ がともに偶数ならば,$a+bi$ は $2$ で割り切れるから,$\lambda$ で割り切れる.$a$,$b$ がともに奇数ならば,$\left(a+bi\right)-\left(1-i\right)$ が $2$ で割り切れるから $a+bi$ が $\lambda$ で割り切れる.すなわち $a\equiv b\left(\text{mod}.\ 2\right)$ は十分な条件である.さて $a$,$b$ が一つは奇数,一つは偶数ならば $a+bi-1$ において $a-1\equiv b\hphantom{n}\left(\text{mod}.\ 2\right)$ であるから,これは $\lambda$ で割り切れる,したがって $a+bi$ は $\lambda$ で割り切れない,$a+bi\equiv1\hphantom{2}\left(\text{mod}.\ \lambda\right)$.
 〔注意〕 $\lambda$ で割り切れる,割り切れないに従って複素整数を偶数,奇数に区別する.しからば偶数の和または差は偶数であるが,二つの奇数の和または差も偶数である.偶数,奇数の差別は $\text{mod}.\ \lambda$ に関する類別であって,偶数は $0$ によって,また奇数は $1$ によって代表される.
 $\text{mod}.\ 2$ に関しては複素整数は四つの類に分かれる.それらは $0$,$1$,$i$,$1+i$ によって代表される.そのうち $0$,$1+i$ は偶数, $1$,$i$ は奇数である.
 以下 $p\neq2$ とする.しからば $\left(\ 1\ \right)$ に解があるならば,$x$,$y$ のうち一つは奇数,一つは偶数であるから,$p\equiv1\left(\text{mod}.\ 4\right)$ であることを要する.
 故に $p\equiv3\left(\text{mod}.\ 4\right)$ のときには $\left(\ 1\ \right)$ に解がない.すなわち $4n+3$ の形の有理素数 $3$,$7$,$11$,$\cdots\cdots$ は複素整数としても素数である.
 しからば $p\equiv1\left(\text{mod}.\ 4\right)$ であるとき,$\left(\ 1\ \right)$ が解を有するか.これが問題の中心である.さて,ここへ定理 $1.\ 33$ を引用する.$p\equiv1\ \left(\text{mod}.\ 4\right)$ ならば,$\left(\dfrac{-1}{p}\right)=1$.すなわち $r^2\equiv-1\left(\text{mod}.\ p\right)$ なる有理整数 $r$ がある.これから $\left(\ 1\ \right)$ の解に達するのが,われわれの目的であるが,そのために複素整数を考察するのが適当である.
 $r^2\equiv-1\left(\text{mod}.\ p\right)$ すなわち $r^2+1=\left(r-i\right)\left(r+i\right)$ が $p$ で割り切れる.いま\[\left(p,\hphantom{r}r-i\right)\]を考察する(複素整数の最大公約数).
 これは $p$ の約数であるから,上文で述べたように\[\left(p,\hphantom{r}r-i\right)=1, または \left(p,\hphantom{r}r-i\right)=p,\]あるいはまた\[\left(p,\hphantom{r}r-i\right)=\pi,\hphantom{p}p=\pi\overline{\pi}\]でなければならない.
 $\left(p,\ r-i\right)=1$ ならば共軛の理由から $\left(p,\hphantom{r}r+i\right)=1$ すなわち $r-i$ も $r+i$ も $p$ と互いに素で,したがって $\left(r-i\right)\left(r+i\right)=r^2+1$ も $p$ と互いに素でなければならない.それは不可能である.
 $\left(p,\hphantom{r}r-i\right)=p$ は $\left(r-i\right)/p$ が整数でないから不可能である.
 故に $\left(p,\hphantom{r}r-i\right)=\pi$,$p=\pi\overline{\pi}$ でなければならない.
 この場合,$\left(\ 1\ \right)$ において $x\neq\pm y$ であるから $\pi$,$\overline{\pi}$ が同伴数でないことは明らかである.すなわち $4n+1$ の形の有理素数 $p$ は複素整数としては二つの相異なる素数の積に分解される.
 〔注意〕 $p=x^2+y^2$ は $N\left(x+yi\right)=p$ と同一であるから,$x+yi$ は $\pm\pi$,$\pm i\pi$ または $\pm\overline{\pi}$,$\pm i\overline{\pi}$ に等しいことを要する.これから $p=x^2+y^2$ の八つの解が生ずるが,それらは $x$,$y$ の交換または $x$,$y$ と $\pm x$,$\pm y$ との転換に過ぎないから,それらの差別を無視すれば,$p$ はただ一様に二つの平方の和に分解されるのである.
 上記の考察によって有理整数に関する次の定理が得られたのである.
 〔定理 $\boldsymbol{4.\ 2}$〕 $\boldsymbol{p}\equiv\boldsymbol{1}\left(\boldsymbol{\text{mod}.\ 4}\right)$ なる有理素数 $\boldsymbol{p}$ を二つの平方の和に分解することができる.しかもこの分解はただ一様に限る.

 $\boldsymbol{2.}$ 上記の結果を応用して有理整数に関する不定方程式\[x^2+y^2=a\hspace{5mm}\left(a\gt0\right)\tag{$\ 2\ $}\]の解を求めることができる.
 $x$,$y$ が公約数 $m$ を有するとき,$x=x^\prime m$,$y=y^\prime m$ とすれば,$a$ は $m^2$ で割り切れることを要し,また $a=a^\prime m^2$ とすれば $\left(\ 2\ \right)$ は\[x^{\prime2}+y^{\prime2}=a^\prime\]になるから,初めから問題を限定して $\left(\ 2\ \right)$ において\[\left(x,\ y\right)=1\tag{$\ 3\ $}\]なる解のみを求めることにしてさしつかえない.
 この問題は複素整数を用いて最も簡明に解くことができる.もしも,有理整数のみを考察の範囲とするならば,解決が,はなはだ,不透明になるであろう.$\left(\ 2\ \right)$ は\[a=\left(x+yi\right)\left(x-yi\right)\]と同一であるから,いま $a$ が $4n+3$ の形の素因数 $q$ を有するとすれば,$q$ は複素整数としても素数であるから,$x+yi$ または $x-yi$ が $q$ で割り切れなければならない.すなわち $x$,$y$ がともに $q$ で割り切れることを要するから,$\left(\ 3\ \right)$ の規約に矛盾する.
 次に $a$ が $4n+1$ の形の素数 $p$ をちょうど $h$ 個含むとすれば,$p=\pi\overline{\pi}$ とするとき,素数巾 $\pi^h$,$\overline{\pi}^h$ が $x+yi$ と $x-yi$ との間に分配されなければならないのであるが,もしも $x+yi$ または $x-yi$ が $\pi$ と $\overline{\pi}$ との双方で割り切れるとするならば,それは $\pi\overline{\pi}=p$ で割り切れ,したがって $x$,$y$ がともに $p$ で割り切れることになって,$\left(\ 3\ \right)$ と矛盾する.故に $x+yi$ は $\pi^h$ または $\overline{\pi}^h$ で割り切れなければならない.
 次にまた $a$ が $2$ なる素因数 $h$ 個を含むとすれば,$2=i\lambda^2$($\lambda=1-i$.上文参照)であるから,$\lambda^{2h}$ が $x+yi$ と $x-yi$ との間に分配されなければならないが,$\lambda=i\lambda$ であるから,$x+yi$ および $x-yi$ はおのおの $\lambda^h$ で割り切れなければならない.故に $h\gt1$ ならば,$x+yi$ は $\lambda^2$ したがって $2$ で割れ,$x$,$y$ がともに $2$ で割れることになって,$\left(\ 3\ \right)$ と矛盾する.
 故に方程式 $\left(\ 2\ \right)$ が $\left(\ 3\ \right)$ なる条件のもとに解を有するためには,$a$ が $4n+3$ の形の素因数を含まないこと,また $a$ が素因数 $2$ を含むならば,それをただ一個に限って含むことが,必要な条件である.
 さて\[a=p_1{}^{h_1}p_2{}^{h_2}\ldots p_k{}^{h_k},\hphantom{p}p_1\equiv p_2\equiv\cdots\equiv p_k\equiv1\hphantom{1}\left(\text{mod}.\ 4\right),\]\[p_1=\pi_1\overline{\pi}_1,\hphantom{p}p_2=\pi_2\overline{\pi}_2,\ \cdots,\hphantom{p}p_k=\pi_k\overline{\pi}_k\]とすれば,\[x+yi=\pi_1{}^{h_1}\pi_2{}^{h_2}\ldots\ldots\pi_k{}^{h_k}\tag{$\ 4\ $}\]とするとき,$x$,$y$ は $\left(\ 2\ \right)$ を満足せしめる.
 $\left(\ 4\ \right)$ において $\pi_1$,$\pi_2$,$\ldots\ldots$ を共軛数で置き換えてもよいが,すべての因数を共軛数で置き換えるならば,$y$ の符号が変わるだけである.
 また $\pi_1$,$\pi_2$,$\ldots\ldots$ を同伴数で置き換えてもよいが,その場合には $x+yi$ も同伴数に変わるだけであるから,$\left(\ 2\ \right)$ の解において,$x$,$y$ の符号または順位を度外視して,単に $a$ を二つの互いに素なる平方数 $x^2$,$y^2$ の和に分解することだけを考えるならば,その分解の方法の数は $2^{k-1}$ である.
 また $a$ が $2$ で割り切れる場合に,$a=2\hspace{0.7mm}\cdotp p_1{}^{h_1}\ldots p_k{}^{h_k}$ とすれば\[x+yi=\lambda\pi_1{}^{h_1}\pi_2{}^{h_2}\ldots\ldots\pi_k{}^{h_k}\]で $\lambda$ を $\lambda$ に変えても $x+yi$ は同伴数に変わるだけだから,上記分解の方法はやはり $2^{k-1}$ である.
 以上を要約して次の定理を得る.
 〔定理 $\boldsymbol{4.\ 3}$〕 有理正整数 $a$ が $4n+3$ の形の素因数を含まず,素因数 $2$ を含めば,それをただ $1$ 個含むときにのみ,$a$ を互いに素なる二つの平方数の和に分解することができる.$a$ に含まれる互いに相異なる $4n+1$ の形の素因数の数を $k$ とすれば,分解は $2^{k-1}$ 通りにできる.

 $a$ が $4n+3$ の形の素因数 $q$ を偶数乗に含めば,$\left(\ 2\ \right)$ に解はあるが,$q$ は $x^2$,$y^2$ の共通因子になる.$a$ が因数 $2$ を二個以上含むときにも,$\left(\ 2\ \right)$ の解はあるが,$x$,$y$ は偶数でなければならない.
 〔例〕 $\begin{alignat*}{1}5&=1^2+2^2=N\left(1+2i\right).\hphantom{3}13=3^2+2^2=N\left(3+2i\right).\\[2mm]65&=N\left(1+2i\right)\left(3+2i\right)=N\left(-1+8i\right)=1^2+8^2.\\[2mm]65&=N\left(1+2i\right)\left(3-2i\right)=N\left(7+4i\right)=7^2+4^2.\\[2mm]5^2&=N\left(1+2i\right)^2=N\left(-3+4i\right)=3^2+4^2.\\[2mm]50&=N\left(1-i\right)\left(1+2i\right)^2=N\left(1+7i\right)=1^2+7^2.\\[2mm]13^2&=N\left(3+2i\right)^2=N\left(5+12i\right)=5^2+12^2.\end{alignat*}$

 〔問題 $\boldsymbol{2}$〕 $x^2+y^2=z^2$,$\left(x,\ y\right)=1$ の正の整数解は\[x,\ y=m^2-n^2,\hphantom{2}2mn;\ z=m^2+n^2.\]ただし $\left(m,\ n\right)=1$,$m\gt n\gt0$  また $m$,$n$ のうち一つは奇数一つは偶数である.
 〔注意〕 これは有名な Pythagoras の問題で,初等の方法で解かれるけれども,ここまできてしまったわれわれの立場からは,定理 $4.\ 3$ の特別の場合として取り扱うことにしなければなるまい.しからば解は簡単明瞭である.
 〔解〕 $\left(x,\ y\right)=1$ なる制限のもとでは,$z$ は $2$ で割り切れてはいけない.また $x+yi$ と $x-yi$ とは互いに素でなければならない.よって\[x+yi=\varepsilon\left(m+ni\right)^2,\hphantom{x}x-yi=\overline{\varepsilon}\left(m-ni\right)^2.\tag{$\ 5\ $}\]ただし,$\varepsilon$ は単数 $\pm1$,$\pm i$ である.
 $x+yi$ は有理因数を有せず,また $\lambda$ で割れないから,$m+ni$ も同様である.故に $\left(m,\ n\right)=1$ で,$m$,$n$ のうち一つは奇数,一つは偶数でなければならない.$\left(\ 5\ \right)$ から\[x+yi=\varepsilon\left(m^2-n^2+2mni\right),\hspace{5mm}z=m^2+n^2.\] 故に正の整数解は上掲の通りである($\varepsilon=\pm1$,$\pm i$).
 〔問題 $\boldsymbol{3}$〕 $x^2+y^2=2z^2$,$\left(x,\ y\right)=1$ の解は\[x+yi=\lambda\left(m+ni\right)^2,\hphantom{m}\left(m,\ n\right)=1\]から得られる.すなわち\[x,\ y=m^2-n^2\pm2mn,\hspace{5mm}z=m^2+n^2\]






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