初 等 整 数 論 講 義 第 $2$ 版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 41.$ 二次体 $K\left(\sqrt{m}\right)$ の整数  $\S\ 43.$ イデヤルの素因子分解 $\blacktriangleright$

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第 $5$ 章 二次体の整数論

 $\S\ 42.$ 二次体のイデヤル

 $\boldsymbol{1.}$ 二次体 $K\left(\sqrt{m}\right)$ のイデヤルの意味を説明するに当って,まず次の問題を考察する.
 いまこの二次体において,$\mu$ を与えられた整数として,$\mu$ で割り切れる整数の全部を一つの集合としてみれば:
 $\ \ \!\text{i}\ )$ この集合に属する任意の二つの整数 $\alpha$,$\beta$ の和および差は,やはりこの集合に属する.
 $\ \text{ii}\ \!)$ この集合に属する整数 $\alpha$ の任意の倍数 $\lambda\alpha$ はやはり,この集合に属する.これは整除の定義からの直接の帰結である(定理 $5.\ 5$).
 または一層一般に:
 $\ \!\text{iii})$ $\alpha_1$,$\alpha_2$,$\cdots$,$\alpha_n$ がこの集合に属するならば,$\lambda_1$,$\lambda_2$,$\cdots$,$\lambda_n$ を任意の整数とするとき,$\lambda_1\alpha_1+\lambda_2\alpha_2+\cdots+\lambda_n\alpha_n$ もこの集合に属する.
 $\ \!\text{iii})$ は $\ \ \!\text{i}\ )$,$\ \text{ii}\ \!)$ から導き得るが,$\ \ \!\text{i}\ )$,$\ \text{ii}\ \!)$ は $\ \!\text{iii})$ の特別の場合である.
 さてその逆はどうか.$\ \ \!\text{i}\ )$ と $\ \text{ii}\ \!)$ と,あるいはそれと同等な $\ \!\text{iii})$ の性質を有する整数の集合は,はたして或る一つの整数の倍数の全部の集合であるであろうか.
 〔例 $1$〕 有理数の範囲内では,この問題の対案は「しかり」である.$a_1$,$a_2$,$\cdots\cdots$,$a_n$ が与えられた有理整数ならば,$a_1x_1+a_2x_2+\cdots\cdots+a_nx_n$ の形の有理整数は全体としては $a_1$,$a_2$,$\cdots\cdots$,$a_n$ の最大公約数 $d$ のすべての倍数と一致する($\S\ 3$).
 〔例 $2$〕 二次体 $K\left(\sqrt{-1\vphantom{1^1}}\right)$ または $K\left(\sqrt{-3\vphantom{1^1}}\right)$ においても同様である($\S\ 36$$\S\ 39$).
 〔例 $3$〕 二次体 $K\left(\sqrt{-5\vphantom{1^1}}\right)$ の整数は $x+y\sqrt{-5\vphantom{1^1}}$ の形の数であるが,いま $x\equiv y\hphantom{2}\left(\text{mod}.\ 2\right)$ なる整数 $x+y\sqrt{-5\vphantom{1^1}}$ の全部の集合を考察するに,この集合は $\ \ \!\text{i}\ )$,$\ \text{ii}\ \!)$ の性質を有する.まず $\alpha=x+y\sqrt{-5\vphantom{1^1}}$,$\beta=x^\prime+y^\prime\sqrt{-5\vphantom{1^1}}$,$x\equiv y$,$x^\prime\equiv y^\prime\hphantom{2}\left(\text{mod}.\ 2\right)$ とすれば,$\alpha+\beta=\left(x+x^\prime\right)+\left(y+y^\prime\right)\sqrt{-5\vphantom{1^1}}$,$x+x^\prime\equiv y+y^\prime\hphantom{2}\left(\text{mod}.\ 2\right)$.$\alpha-\beta$ も同様である.また $\lambda=p+q\sqrt{-5\vphantom{1^1}}$ は任意の整数として\[\lambda\alpha=\left(p+q\sqrt{-5}\right)\left(x+y\sqrt{-5}\right)=X+Y\sqrt{-5}\]とすれば\[X=px-5qy,\hspace{5mm}Y=py+qx,\]したがって\begin{alignat*}{1}X-Y&=p\left(x-y\right)-q\left(5y+x\right)\\[2mm]&\equiv p\left(x-y\right)-q\left(x-y\right)\equiv0\hphantom{2}\left(\text{mod}.\ 2\right),\end{alignat*}故に\[X\equiv Y\hphantom{2}\left(\text{mod}.\ 2\right)\]である.
 さて $\alpha=2$($x=2$,$y=0$)も,$\beta=1+\sqrt{-5\vphantom{1^1}}$($x=1$,$y=1$)もこの集合に属するけれども,これらは $K\left(\sqrt{-5\vphantom{1^1}}\right)$ において分解不可能な整数である($273$ 頁).故に上記の集合に属するすべての数が,或る一つの整数 $\mu$ の倍数であることは不可能である.

 このように $\ \ \!\text{i}\ )$,$\ \text{ii}\ \!)$ の二つの性質を有する整数の集合が必ず或る一つの整数のすべての倍数の集合であるとはいえない.けれども,これらの性質は整除ということと密接な関係を有するから,このような集合を考察の目的物とすることが重要である.このような集合がすなわちイデヤルである.すなわちイデヤルの定義は次の通りである.
 二次体 $\boldsymbol{K\left(\sqrt{m}\right)}$ の整数の集合が上記 $\ \ \!\boldsymbol{\text{i}}\ )$,$\ \boldsymbol{\text{ii}}\ \!)$ の性質を有するとき,その集合を一つのイデヤルという.
 この定義によれば,与えられた整数 $\alpha$ のすべての倍数 $\alpha\xi$ の集合はイデヤルの一例である.それを $\left(\alpha\right)$ と記す.このようなイデヤルを $\alpha$ から生ずる単項イデヤル(または主イデヤル)という.
 特に $K\left(\sqrt{m}\right)$ の整数全部もまた一つのイデヤルである.すなわち $1$ から生ずる単項イデヤル $\left(\ 1\ \right)$ である.$0$ なる数ただ一つだけからなる集合もイデヤルの定義にあてはまるが,それはイデヤルの中にいれないことにする.
 また $\alpha_1$,$\alpha_2$,$\cdots\cdots$,$\alpha_n$ を与えられた整数,$\xi_1$,$\xi_2$,$\cdots\cdots$,$\xi_n$ を任意の整数とすれば,$\alpha_1\xi_1+\alpha_2\xi_2+\cdots\cdots+\alpha_n\xi_n$ の形に表わされる整数全部の集合は一つのイデヤルである.
 実際
   $\ \ \!\text{i}\ )$ $\left(\alpha_1\xi_1+\alpha_2\xi_2+\cdots\cdots+\alpha_n\xi_n\right)+\left(\alpha_1\eta_1+\alpha_2\eta_2+\cdots\cdots+\alpha_n\eta_n\right)$
 $=\alpha_1\left(\xi_1+\eta_1\right)+\alpha_2\left(\xi_2+\eta_2\right)+\cdots\cdots+\alpha_n\left(\xi_n+\eta_n\right).$
   $\ \text{ii}\ \!)$ $\lambda\left(\alpha_1\xi_1+\alpha_2\xi_2+\cdots\cdots+\alpha_n\xi_n\right)=\alpha_1\left(\lambda\xi_1\right)+\alpha_2\left(\lambda\xi_2\right)+\cdots\cdots+\alpha_n\left(\lambda\xi_n\right).$
 このようなイデヤルを\[\left(\alpha_1,\ \alpha_2,\ \cdots,\ \alpha_n\right)\]と記し,それを $\alpha_1$,$\alpha_2$,$\cdots$,$\alpha_n$ から生ずるイデヤルという.
 〔注意〕 $a_1$,$a_2$,$\cdots\cdots$,$a_n$ は有理整数で,$d$ はその最大公約数であるとする.二次体 $K\left(\sqrt{m}\right)$ において $\left(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n\right)$ なるイデヤルは $a_1\xi_1+a_2\xi_2+\cdots+a_n\xi_n$ のような整数,すなわち $d\xi$ のような整数のみを含むが,また,$d=a_1x_1+a_2x_2+\cdots\cdots+a_nx_n$ になるような有理整数 $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_n$ があるから,任意の整数 $\xi$ に関して $d\xi=a_1\left(x_1\xi\right)+a_2\left(x_2\xi\right)+\cdots+a_n\left(x_n\xi\right)$.故に $\left(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n\right)$ は $d$ のすべての倍数 $d\xi$ の集合すなわち $\left(\ d\ \right)$ と一致する.
 故にイデヤルとしての記号 $\left(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n\right)$ は有理整数の最大公約数の記号 $d=\left(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n\right)$ と調和する.
 二つのイデヤルが相等しいというのは,それらが全体として同一の整数の集合であることをいう.すなわち甲に属する整数は乙にも含まれ,また乙に属する整数は甲にも含まれるのである.
 〔問題 $\boldsymbol{1}$〕 $\alpha$ と $\beta$ とが同伴数ならば,$\left(\alpha\right)=\left(\beta\right)$.また逆に $\left(\alpha\right)=\left(\beta\right)$ ならば,$\alpha$ と $\beta$ とは同伴数である.
 〔解〕 $\alpha=\varepsilon\beta$ で $\varepsilon$ が単数ならば,$\alpha$ の倍数は $\beta$ の倍数,また $\beta$ の倍数は $\alpha$ の倍数であるから $\left(\alpha\right)=\left(\beta\right)$.逆に $\left(\alpha\right)=\left(\beta\right)$ ならば $\beta$ は $\alpha$ の倍数で,かつ $\alpha$ は $\beta$ の倍数である.故に $\beta/\alpha$ も $\alpha/\beta$ も整数.故に $\beta/\alpha$ は単数,したがって $\alpha$,$\beta$ は同伴数.
 〔問題 $\boldsymbol{2}$〕 $\left(\alpha,\ \beta,\ \gamma\right)=\left(\alpha,\ \beta,\ \gamma,\hphantom{1}\lambda\alpha+\mu\beta+\nu\gamma\right)$.
 〔解〕 左辺のイデヤルに属する数は $\alpha\xi+\beta\eta+\gamma\zeta$ の形の整数,すなわち\[\alpha\xi+\beta\eta+\gamma\zeta+\left(\lambda\alpha+\mu\beta+\nu\gamma\right)0\]であるから,右辺のイデヤルに含まれる.また右辺のイデヤルに含まれる数は\begin{alignat*}{1}\alpha\xi&+\beta\eta+\gamma\zeta+\left(\lambda\alpha+\mu\beta+\nu\gamma\right)\theta\\[2mm]&=\alpha\left(\xi+\lambda\theta\right)+\beta\left(\eta+\mu\theta\right)+\gamma\left(\zeta+\nu\theta\right)\end{alignat*}で左辺のイデヤルに含まれる.
 〔注意〕もちろん $\alpha$,$\beta$,$\gamma$ などが三つよりも多くても同様である.


 $\boldsymbol{2.}$ 任意のイデヤル$*$
$\ ^*\ $イデヤルを表わすにはドイツ文字を用いる慣例であるが,本書では便宜上イタリックの大文字を代用する.筆者はイデヤル論を世界的に普及せしめるために,ドイツ文字専用の慣例をやめて欲しいと思う.ただし二次体論はこれでよいが,高等整数論ではさしつかえが生ずるから別の考慮を要する.
  $A$ は有理整数を含む.例えば $A$ が $\alpha$ を含むならば,$A$ は $\alpha\alpha^\prime$ を含む($\alpha^\prime$ は整数だから),そうして $\alpha\alpha^\prime$ は有理整数である.$A$ がすでに一つの有理整数を含むならば,またそのすべての有理整数倍を含む.このように $A$ に含まれるすべての有理整数は,その中の最小の正の数(それを $a$ とする)の倍数である.なぜなら,$b$ が $A$ に含まれるとき,$b=qa+a^\prime$,$0\leqq a^\prime\lt a$ とすれば,$b$ も $qa$ も $A$ に含まれるから,$b-qa=a^\prime$ も $A$ に含まれる.故に $a^\prime=0$ でなければならない.
 さて $\omega$ を定理 $5.\ 3$ に掲げた数とするときイデヤル $A$ は $x+y\omega$,$y\neq0$ のような数を含まなければならない(例えば $a\omega$ は $A$ に含まれる.ただし $a$ は上記の有理整数).いま $A$ に含まれるこのような整数の中で,$\omega$ の係数なる有理整数が最小の正の値を有するものを $b+c\omega$ とする.しからば $A$ に含まれる任意の整数 $x+y\omega$ において,係数 $y$ は $c$ の倍数でなければならない.なぜならば,$y=qc+r$,$0\leqq r\lt c$ とすれば,$x+y\omega-q\left(b+c\omega\right)=\left(x-qb\right)+r\omega$ は $A$ に含まれるから,仮定によって $r=0$,したがって $y=qc$.
 したがってまた $x-qb$ は $A$ に含まれるが,$x-qb$ は有理整数であるから,$a$ の倍数である.よって\[x-qb=pa\]と置く.しからば\[x+y\omega=pa+q\left(b+c\omega\right).\tag{$\ 1\ $}\] ここで $x+y\omega$ は $A$ に属する任意の整数で,$a$ は $A$ に属する最小の正の有理整数,また $b+c\omega$ は $A$ に属する整数の中で $\omega$ の係数が最小の正の有理整数であるものである.$p$,$q$ はもちろん有理整数を表わすのである.$\left(\ 1\ \right)$ のような形の数が $A$ に属することは明らかであるが,上記の考察によって $A$ に属する任意の整数が $\left(\ 1\ \right)$ のような形に表わされることが確定したのである.よって $a$ と $b+c\omega$ とをイデヤル $A$ のという.
 イデヤルの定義によれば\[A=\left(a,\ b+c\omega\right)\]である.それは $A$ は $a\xi+\left(b+c\omega\right)\eta$ のような数の集合であるというのであるが,$A$ に属する任意の整数はすでに $a$ と $b+c\omega$ との有理整数倍の和に等しいのである.
 $a$ と $b+c\omega$ とが $A$ の底であることを特別に明示するためには次の記法を用いる:\[A=\left[a,\ b+c\omega\right].\tag{$\ 2\ $}\] 一般にイデヤル $A$ に含まれるすべての数が任意の有理整係数をもって $\alpha_1x+\alpha_2y$ の形に表わされるとき,$\alpha_1$,$\alpha_2$ を $A$ のといい,\[A=\left[\alpha_1,\hphantom{1}\alpha_2\right]\]と記す.上記 $\left(\ 2\ \right)$ のような底を標準的底という.$\left(\ 2\ \right)$ において $b+c\omega$ の代わりに $at+\left(b+c\omega\right)$,すなわち $b$ の代わりに $b+at$ をとってもよいから,$0\leqq b\lt a$,または $\left|b\right|\leqq a/2$ と仮定してもよい.
 イデヤルの一つの底から,「モ変形」によって任意の底が得られることは,定理 $5.\ 4$ と同様である.二次体の整数の底 $\left[1,\ \omega\right]$ はすなわち単項イデヤル $\left(\ 1\ \right)$ の底にほかならない.
 〔注意〕 $\alpha_1$,$\alpha_2$,$\cdots$,$\alpha_p$ なる整数が与えられたとき,有理整係数 $x_1$,$x_2$,$\cdots$,$x_p$ をもって作られる $x_1\alpha_1+x_2\alpha_2+\cdots+x_p\alpha_p$ のような数の集合を $\left[\alpha_1,\ \alpha_2,\ \cdots,\ \alpha_p\right]$ で表わす(このような数の集合は「モジュール」(moduleModul)と称するものであるが,本書ではその理論に深入りをしない).すなわち
 $\left(\alpha_1,\ \alpha_2,\ \cdots,\ \alpha_p\right)$ は $\displaystyle\overset{p}{\underset{i=1}{\textstyle\sum}}\xi_i\alpha_i$ のような数の集合を表わし,$\left[\alpha_1,\ \alpha_2,\ \cdots,\ \alpha_p\right]$ は $\textstyle\sum x_i\alpha_i$ のような数の集合を表わすのである.$\xi_i$ は二次体 $K\left(\sqrt{m}\right)$ の任意の整数であるが,$x_i$ は任意の有理整数である.故にイデヤルはモジュールであるが,任意のモジュールはイデヤルとはいかない.


 $\boldsymbol{3.}$ 標準的底数 $\left(\ 2\ \right)$ において $a$,$b$ は $c$ の倍数である.まず $a\omega$ は $A$ に属するから $a$ は $c$ で割り切れる.また $\left(b+c\omega\right)\omega$ が $A$ に属して,$\omega=\sqrt{m}$ の場合には\[\left(b+c\omega\right)\omega=cm+b\sqrt{m}=cm+b\omega,\]故に $b$ は $c$ で割り切れる.また $\omega=\left(1+\sqrt{m}\right)/2$ の場合には,$\omega^2=\omega-\left(1-m\right)/4$ であるから($\left(1-m\right)/4$ は整数,$268$ 頁参照),\[\left(b+c\omega\right)\omega=b\omega+c\omega^2=-\frac{c\left(1-m\right)}{4}+\left(b+c\right)\omega.\]よって $b+c$ が,したがってまた $b$ が,$c$ で割り切れる.
 故に $a=ca_0$,$b=cb_0$ と置くならば,$\left(\ 1\ \right)$ によってイデヤル $A$ に含まれるすべての整数は\[c\left(pa_0+q\left(b_0+\omega\right)\ \!\!\right)\]のような形の数である.
 イデヤル $A$ の各数が $c$ で割り切れるならば,各数を $c$ で割った商の集合は明らかに一つのイデヤルである.それを $A_0$ と名づけて\[A=cA_0\]と記せば,\[A_0=\left[a_0,\hphantom{1}b_0+\omega\right].\]このイデアル $A_0$ においてはそれが含むすべての整数に共通の有理約数がない.このようなイデヤルを原始イデヤルという.
 しからば,すべてのイデヤルは原始イデヤルの各数に一定の有理整数を乗ずることによって得られるものである.
 以上要約して次の定理を得る.
 〔定理 $\boldsymbol{5.\ 6}$〕 イデヤル $A$ を標準的底数をもって\[A=\left[a,\hphantom{1}b+c\omega\right]=c\left[a_0,\hphantom{1}b_0+\omega\right] \left(a\gt0,\hphantom{c}c\gt0\right)\]の形に表わすことを得る.$c$ は $A$ の各数に共通な最大の有理約数,$a=ca_0$ は $A$ に含まれる最小の有理整数である.
 〔問題 $\boldsymbol{1}$〕 任意の二つの整数 $\alpha$,$\beta$ は或るイデヤルの底を成さない.$\left[\alpha,\ \beta\right]$ がイデヤルの底であるためには,$\omega\alpha$,$\omega\beta$ がともに $x\alpha+y\beta$ の形に表わされることが必要かつ十分である.ただし $\omega$ は定理 $5.\ 3$ の数である.
 〔解〕 $\left(\alpha,\ \beta\right)=\left[\alpha,\ \beta\right]$ ならば,$\omega\alpha$,$\omega\beta$ は $\left(\alpha,\ \beta\right)$ に属するから,$\omega\alpha=x\alpha+y\beta$,$\omega\beta=x^\prime\alpha+y^\prime\beta$.逆にこの関係が成り立つならば,任意の整数 $p+q\omega$ に関して $\left(p+q\omega\right)\alpha=\left(p+qx\right)\alpha+qy\beta$,$\left(p+q\omega\right)\beta=qx^\prime\alpha+\left(p+qy^\prime\right)\beta$.故に $\left(\alpha,\ \beta\right)=\left[\alpha,\ \beta\right]$.
 〔問題 $\boldsymbol{2}$〕 $a$($\gt0$),$r+\omega$ が一つのイデヤルの標準的底であるために必要かつ十分な条件は $N\left(r+\omega\right)$ が $a$ で割り切れることである.
 〔解〕 $A=\left[a,\ r+\omega\right]$ とすれば,$A$ に含まれる有理整数はすべて $a$ の倍数であるから $N\left(r+\omega\right)$ は $a$ で割り切れる.
 逆に $N\left(r+\omega\right)=ac$ とする.このとき $a\omega$ と $\left(r+\omega\right)\omega$ とが有理整係数 $x$,$y$ をもって $ax+\left(r+\omega\right)y$ の形に表わされるならば $\left(a,\ r+\omega\right)=\left[a,\ r+\omega\right]$ であるが(問題 $1$),$a\omega=-ar+\left(r+\omega\right)a$,また $ac=\left(r+\omega\right)\left(r+\omega^\prime\right)$,$\omega+\omega^\prime=s$(ただし,$s=0$ または $1$)から $ac=\left(r+\omega\right)\left(r+s-\omega\right)$.故に\[\left(r+\omega\right)\omega=-ac+\left(r+\omega\right)\left(r+s\right).\] 〔問題 $\boldsymbol{3}$〕 イデヤル $A=\left(\alpha_1,\ \alpha_2,\ \cdots,\ \alpha_p\right)$ の標準的底数を求めること.
 〔解〕 $A$ に属する数は $\displaystyle\overset{p}{\underset{i=1}{\textstyle\sum}}\xi_i\alpha_i$ である.故に $\xi_i=x_i+y_i\omega$ と置けば,それらの数は $\alpha_1$,$\alpha_2$,$\cdots$,$\alpha_p$ および $\omega\alpha_1$,$\omega\alpha_2$,$\cdots$,$\omega\alpha_p$ の有理整係数をもっての一次式である.いま $\alpha_i=b_i+c_i\omega$,$\omega\alpha_i=b_i{}^\prime+c_i{}^\prime\omega$($i=1$,$2$,$\cdots$,$p$)として,$c_i$,$c_i{}^\prime$ 等の最大公約数を $c$ とすれば\[c={\textstyle\sum}c_il_i+{\textstyle\sum}c_i{}^\prime l_i{}^\prime\]になる有理整係数 $l_i$,$l_i{}^\prime$ が求められる.よって $\sum\alpha_il_i+\sum\omega\alpha_il_i{}^\prime=\alpha_0=b+c\omega$ と置けば,$\alpha_0$ は $A$ に属し,かつ $c_i=cq_i$,$c_i{}^\prime=cq_i{}^\prime$.よって $\alpha_i-q_i\alpha_0=a_i$,$\omega\alpha_i-q_i{}^\prime\alpha_0=a_i{}^\prime$ と置けば,$A$ に属する数は $a_i$,$a_i{}^\prime$ および $a_0$ の有理整係数の一次式である.故に $a_i$,$a_i{}^\prime$($i=1$,$2$,$\cdots$,$p$)の最大公約数を $a$ とすれば,$A$ に属する数は $a$ と $\alpha_0$ との有理整係数の一次式として表わされる.すなわち $A=\left[a,\ \alpha_0\right]$.これが $A$ の標準的底数である.
 〔例〕 $K\left(\sqrt{-5\vphantom{5^n}}\right)$ において $A=\left(7+3\sqrt{-5\vphantom{5^n}},\hphantom{1}3+5\sqrt{-5\vphantom{5^n}}\right)$ とすれば,
$\begin{alignat*}{1}A&=\left[7+3\sqrt{-5\vphantom{5^n}},\hphantom{1}3+5\sqrt{-5\vphantom{5^n}},\hphantom{1}-15+7\sqrt{-5\vphantom{5^n}},\hphantom{1}-25+3\sqrt{-5\vphantom{5^n}}\right]\\[2mm]&=\left[7+3\sqrt{-5\vphantom{5^n}},\hphantom{1}3+5\sqrt{-5\vphantom{5^n}},\hphantom{1}-15+7\sqrt{-5\vphantom{5^n}},\hphantom{1}-25+3\sqrt{-5\vphantom{5^n}},\hphantom{1}3+\sqrt{-5\vphantom{5^n}}\right]\\[2mm]&=\left[-2,\hphantom{1}-12,\hphantom{1}-36,\hphantom{1}-34,\hphantom{1}3+\sqrt{-5\vphantom{5^n}}\right]\\[2mm]&=\left[2,\hphantom{1}3+\sqrt{-5\vphantom{5^n}}\right]\\[2mm]&=\left[2,\hphantom{1}1+\sqrt{-5\vphantom{5^n}}\right].\end{alignat*}$
 〔注意〕 記号 $\left[ \right]$ に関しては $278$ 頁の注意参照.






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