初 等 整 数 論 講 義 第 $2$ 版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 48.$ Pell 方程式 $x^2-ay^2=\pm1$  $\S\ 50.$ 与えられたノルムを有するイデヤル $\blacktriangleright$

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第 $5$ 章 二次体の整数論

 $\S\ 49.$ 二次不定方程式 $\boldsymbol{ax^2+bxy+cy^2=k}$ の理論

 $\boldsymbol{1.}$ 上文において,現今の代数的整数論の見本として,二次体の整数論の端緒のところだけを説明したのであるが,もしもイデヤル論に内在する魅力が読者の感興を惹き起こしたならば,それは本書の著者が最も欣快とするところである.ともかくも,この程度において,すでにイデヤル論の応用上の効果を示すことは無益であるまいから,その一例として,二次不定方程式の理論を再説する.イデヤル論の立場から考察すれば,二次二元不定方程式の解法が,甚だ透明である.

 二次不定方程式\[ax^2+bxy+cy^2=k\tag{$\ 1\ $}\]において $a$,$b$,$c$ は公約数を有せず,また\[a\gt0\tag{$\ 2\ $}\]と仮定してさしつかえない.また\[D=b^2-4ac\tag{$\ 3\ $}\]が完全平方数でない場合のみを考察する($\S\ 34$ 参照).
 $\left(\ 1\ \right)$ は\[N\left(ax+\frac{b+\sqrt{D}}{2}y\right)=ak\tag{$\ 1^{\large*}$}\]と同一である.故に問題は $\sqrt{D}$ を含む二次体に関係する.この二次体を $K=K\left(\sqrt{m}\right)$ とすれば,\[D=Q^2m.\] さて $\left(\ 3\ \right)$ から見える通り,$D\equiv0$ または $1\hphantom{4}\left(\text{mod}.\ 4\right)$ であるから,$m\equiv2$,$3\hphantom{4}\left(\text{mod}.\ 4\right)$ の場合には,$Q$ は偶数でなければならない.この場合には $K\left(\sqrt{m}\right)$ の判別式は $d=4m$ であるから,いま $Q=2f$ とすれば,\[D=f^2d.\tag{$\ 4\ $}\]また $m\equiv1\hphantom{4}\left(\text{mod}.\ 4\right)$ の場合には,$d=m$ であるから,$Q=f$ とすれば,$\left(\ 4\ \right)$ が成り立つのである.
 さて $\left(\ 1^{\large*}\right)$ の左辺において,$y$ の係数として現われた二次無理数を\[\theta=\frac{b+\sqrt{D}}{2}\tag{$\ 5\ $}\]と記せば,$\theta$ は二次方程式\[\theta^2-b\theta+ac=0\tag{$\ 6\ $}\]を満足せしめる(二次体 $K$ の)整数である.いま\[A=\left(a,\hphantom{1}\theta\right)\tag{$\ 7\ $}\]なるイデヤルを考察するに,\begin{alignat*}{1}\mathrm{N}\left(A\right)&=\left(a,\hphantom{1}\theta\right)\cdotp\left(a,\hphantom{1}\theta^\prime\right)\\[2mm]&=\left(a^2,\hphantom{1}ab,\hphantom{1}ac\right)\\[2mm]&=a\left(a,\hphantom{1}b,\hphantom{1}c\right).\end{alignat*}($\S\ 43$ 参照).
 仮定によって,$a\gt0$,$\left(a,\ b,\ c\right)=1$ であるから,\[\mathrm{N}\left(A\right)=a.\tag{$\ 8\ $}\] 以上を前置きとして,いま $\left(\ 1\ \right)$,したがって $\left(\ 1^{\large*}\right)$ が解を有するとして,\begin{alignat*}{1}&\alpha=ax+\theta y,\tag{$\ 9\ $}\\[2mm]&\mathrm{N}\left(\alpha\right)=ak\tag{$10$}\end{alignat*}とすれば,$\alpha$ は $A$ で割り切れる.よって,\[\alpha=AJ\tag{$11$}\]と置けば,\[\mathrm{N}\left(AJ\right)=\left|ak\right|.\]故に $\left(\ 8\ \right)$ から\[\mathrm{N}\left(J\right)=\left|k\right|.\] すなわち $\left|k\right|$ は二次体 $K$ の或るイデヤル $J$ のノルムでなければならない.
 逆に $\mathrm{N}\left(J\right)=\left|k\right|$ なるイデヤル $J$ があって,$AJ$ が単項イデヤルであるならば,\[AJ=\alpha\tag{$12$}\]と置くとき,\[N\left(\alpha\right)=\pm\mathrm{N}\left(AJ\right)=\pm ak.\]故にもしも $N\left(\alpha\right)$ と $k$ との符号が一致するならば\[N\left(\alpha\right)=ak.\] このような数 $\alpha$ が $\left(\ 9\ \right)$ のような形の数であるならば,それは $\left(\ 1^{\large*}\right)$ すなわち $\left(\ 1\ \right)$ の解を与えるものである.
 ここで $f=1$ と $f\gt1$ との二つの場合を区別する.

 $\boldsymbol{2.}$ まず $f=1$ すなわち $D=d$ であるときは,\[\theta=\frac{b+\sqrt{d}}{2},\\[2mm]N\left(\theta\right)=ac\]から\[A=\left[a,\hphantom{1}\theta\right]\]において $a$,$\theta$ は $A$ の標準的底数である.よって $\left(12\right)$ を満足させる $\alpha$ は必ず $ax+\theta y$ の形であるから,もしも符号に関する条件: 「$\boldsymbol{N\left(\alpha\right)}$ は $\boldsymbol{k}$ と同符号」が満たされるならば,$\left(\ 1^{\large*}\right)$ の解を与える.
 $K\left(\sqrt{m}\right)$ が虚の二次体である場合には,$\left(12\right)$ を満足させる数 $\pm\alpha$ から $\left(\ 1\ \right)$ の二つの解 $\left(\pm x,\ \pm y\right)$ を得る.ただし $K\left(\sqrt{-1}\right)$ の場合にはこのほかになお $\pm\alpha i$ から二つの解を生ずる.また $K\left(\sqrt{-3}\right)$ の場合には,$\pm\alpha\rho$,$\pm\alpha\rho^2$($\rho^3=1$)から,なお四つの解が生ずる.
 $K\left(\sqrt{m}\right)$ が実の二次体であるときには,$\varepsilon$ を $N\left(\varepsilon\right)=+1$ なる単数とするとき,$\left(12\right)$ と同時に\[AJ=\alpha\varepsilon.\]($N\left(\alpha\right)$ が $ak$ と同じ符号を有することを要するから,$N\left(\varepsilon\right)=-1$ なる単数 $\varepsilon$ を取ることはできないのである).これらの数 $\alpha\varepsilon$ から $\left(\ 1\ \right)$ の無数の解を得る.すなわち一組の同伴解である.
 よって $\left(\ 1\ \right)$ の解法は次の問題に帰する.
 $\left(\ \!\mathrm{A}\ \!\right)$ 正なる有理整数 $\left|k\right|$ が与えられてあるとき,二次体 $K$ において $\mathrm{N}\left(J\right)=\left|k\right|$ なるすべてのイデヤル $J$ を求めること.
 $\left(\ \!\mathrm{B}\ \!\right)$ 既知のイデヤル $AJ$ が単項イデヤルか否かを決定すること,また単項イデヤルである場合に $AJ=\left(\alpha\right)$ なる数 $\alpha$ を求めること.
 $AJ=\alpha$ ならば ${AJJ}^\prime=\alpha J^\prime$.したがって $\mathrm{N}\left(J\right)=\left|k\right|$ とすれば $A=\left(\dfrac{\alpha}{k}\right)J^\prime$.故に問題 $\left(\mathrm{B}\right)$ は二つの与えられたイデヤルが対等であるか,ないかを決定することに帰する.
 これらはイデヤル論の問題として興味あるものと言わねばなるまい.

 $\boldsymbol{3.}$ さて次に $f\gt1$ である場合においては,$\left(12\right)$ を満足させる $\alpha$ はイデヤル $A$ で割り切れるけれども,$\left(a,\hphantom{1}\theta\right)$ が $A$ の底数でないから,$\alpha$ が $ax+\theta y$ の形の数であるということができない.さりながら,$K\left(\sqrt{m}\right)$ が虚の二次体であるときには,一つのイデヤル $J$ に関して $\left(12\right)$ から $\pm\alpha$ なる一対の数を得るに止まるから,それらが $ax+\theta y$ の形であるか,ないかを見るのに,何の困難もないのである($K\left(i\right)$ または $K\left(\sqrt{-3}\right)$ においては,$\pm\alpha$,$\pm i\alpha$,または $\pm\alpha$,$\pm\rho\alpha$,$\pm\rho^2\alpha$,$\rho^3=1$,をも検索する).しかるに $K\left(\sqrt{m}\right) $が実の二次体であるときには,$\alpha$ と同時にその同伴数 $\alpha\varepsilon$ が $\left(12\right)$ を満足せしめるから,それらの中から $ax+\theta y$ の形のものを選び出さねばならない.よって,次の問題が生ずる.
 $\left(\ \!\mathrm{C}\ \!\right)$ $\mathrm{N}\left(\alpha\right)=ak$ なる数 $\alpha$ が与えられたとき,$\alpha\varepsilon$ の中から $ax+\theta y$ の形のものを選び出すこと.






$\blacktriangleleft$ $\S\ 48.$ Pell 方程式 $x^2-ay^2=\pm1$  $\S\ 50.$ 与えられたノルムを有するイデヤル $\blacktriangleright$

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