代 数 学 講 義 改訂新版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 40.$ 前節の続き$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$証明の根拠  $\S\ 42.$ 初等幾何学の不可能な作図問題 $\blacktriangleright$

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第 $7$ 章 不 可 能 の 証 明


 $\S\ 41.$ 実根のみを有する三次方程式

 前節に述べた証明の副産物として,三次方程式論において残しておいた Cardano の公式の簡約不可能の問題を片づけることができる.すなわち問題は次の通り.
 実係数をもつ三次方程式 $f(x)=0$ が係数の有理区域において既約であるとする.もし $f(x)=0$ が三つの実根をもつならば,それを実の冪根によって解くことは不可能である.
 冪根の添加によって次から次へと有理区域を拡張して,ついに最後の冪根 $\alpha=\sqrt[\large p]{r}$ を添加する前の有理区域を $R$ とすれば,一つの根 $x_0$ は\[x_0=r_0+r_1\alpha+r_2\alpha^2+\cdots+r_{p-1}\alpha^{p-1}=G(\alpha)\tag{$\ 1\ $}\]の形に表わされる(定理 $7.\ 2$).そのとき,$\alpha$ に $\omega\alpha$,$\omega^2\alpha$,$\cdots$,$\omega^{p-1}\alpha$ を代用して得られる $G(\omega\alpha)$,$G(\omega^2\alpha)$,$\cdots$,$G(\omega^{p-1}\alpha)$ もまた $f(x)=0$ の根である($204$ 頁参照).
 もしも $f(x)=0$ が実の冪根だけで解けるとすれば,$r_0$,$r_1$,$\cdots$,$r_{p-1}$ もまた $\alpha$ も実数である.しかるに $G(\alpha)$,$G(\omega\alpha)$,$\cdots$,$G(\omega^{p-1}\alpha)$ が $f(x)$ の根であるから,$p=3$ で,かつ $G(\omega\alpha)$,$G(\omega^2\alpha)$ は虚数であるから,これは矛盾である.このようにいってしまえば,それで問題は終結する.事実その通りではあるが,それを断言するには相当の考慮を要するのである.
 まず $R$ において $f(x)$ はまだ既約であると仮定してさしつかえない.$f(x)$ が $R$ において因数に分解されるならば,少なくとも一つの因子は一次であるから,$R$ よりも前の有理区域を $R$ に代用して,すでに一つの根が $(\ 1\ )$ のような形に表わされるであろう.
 さて\[G(\alpha),\hphantom{1}G(\omega\alpha),\ \cdots,\hphantom{1}G(\omega^{p-1}\alpha)\tag{$\ 2\ $}\]が $f(x)$ の根であっても,それらが相等しくないことは,まだ保証されていないから,直ちに $p=3$ と断言することができない.いま\[F(x)=(x-G(\alpha))(x-G(\omega\alpha))\cdots(x-G(\omega^{p-1}\alpha))\]なる積を $x$ の降冪に展開すれば,各係数は $x^p-r$ の根である $\alpha$,$\omega\alpha$,$\cdots$,$\omega^{p-1}\alpha$ に関して対称であるから,$F(x)$ の係数は $R$ に属する.しからば $F(x)$ は $x=G(\alpha)$ という根を $f(x)$ と共有するから,$F(x)$ は $f(x)$ で割り切れる.これは $f(x)$ は $R$ において既約とした仮定に基づくのである.

 $F(x)$ と $f(x)$ との最大公約数を互除法によって求めるならば,その係数は $R$ に属する.それが $f(x)$ の約数であることを要して,$f(x)$ が既約であるから,最大公約数は $f(x)$ 自身でなければならない.

 上の $(\ 2\ )$ の数はいずれも $f(x)$ の三つの根 $x_0$,$x_1$,$x_2$ 以外のものではあり得ないが,$F(x)$ が $f(x)$ で割り切れるから,$(\ 2\ )$ の中に $x_0$ も $x_1$ も $x_2$ も実際あるのである.
 さて $(\ 2\ )$ の中に $x_0$,$x_1$,$x_2$,が各々同一の回数を以て含まれていることを示そう.そうすれば $p$ が $3$ の倍数であることがわかる.しかるに $p$ は素数であるから,$p=3$ が得られる.
 いま仮りに $(\ 2\ )$ の中に $x_0$,$x_1$,$x_2$ が不揃いに含まれていて,最小回数に含まれるものは $k$ 回とすれば,$F(x)$ は $[f(x)]^k$ で割り切れる.その商を $F_1(x)$ とすれば,$F_1(x)$ はやはり $R$ に属する係数をもつが,$F_1(x)$ は因数として $x-x_0$,$x-x_1$,$x-x_2$ の中のあるものを含まず,あるものを実際含むことになるから,$F_1(x)$ と $f(x)$ とは互いに素ではないが,その最大公約数が一次または二次にならねばならない.その最大公約数の係数は $R$ に属し,$f(x)$ が $R$ において既約であるから,これは不合理である.
 ゆえに $p=3$ で,$(\ 2\ )$ は\[\begin{alignat*}{2}x_0&=r_0+r_1\alpha&&+\hphantom{\omega_2}r\alpha^2,\\[2mm]x_1&=r_0+\omega r_1\alpha&&+\omega^2r_2\alpha^2,\\[2mm]x_2&=r_0+\omega^2r_1\alpha&&+\omega r_2\alpha^2\end{alignat*}\hspace{1cm}(\omega^3=1)\]のような三つの数である.
 ゆえに,もしも $f(x)=0$ の一つの根 $x_0$ が実冪根だけで表わされるとすれば,他の二つの根 $x_1$,$x_2$ は共役複素数であるからともに虚数である(さもなくば,$x_1=x_2=r_0$ にならねばならない.それは $f(x)$ が既約であるという仮定に矛盾する).
 以上を要約して次の結果を得る.
 〔定理 $\boldsymbol{7.\ 3}$〕 三次方程式 $f(x)=0$ がある有理区域において既約ならば,その代数的解法は最後に立方根を要する.三根ともに実数ならば,それは実立方根ではあり得ない.もしも解が立方根なしに(たとえば平方根だけで出来るならば),$f(x)$ は初めから可約である.
 この結論の最後の一段は初めの部分の対偶である.それを用いて,初等幾何学において不可能な作図問題の解釈をすることができる.
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