初 等 整 数 論 講 義 第 $2$ 版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 4.$ 素数  $\S\ 5.$ 合同式 $\blacktriangleright$

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第 $1$ 章 初 等 整 数 論


附記 素 数 の 分 布


 $\boldsymbol{1.}$ 自然数の順位の中に素数がいかなる法則にしたがって分布されているか.これは実に困難な問題である.
 素数の分布に関して現今知られている事柄の中で最も著しいのは次の定理であろう.
 〔Dirichlet の定理〕 初項 $a$ と公差 $k$ とが公約数を有しない算術級数の項の中には無限に素数がある.
 定理 $1.\ 10$ は $k=1$ なる特別の場合である.
 上記定理を完全に証明したのは Dirichlet である($1837$). Dirichlet の証明はむずかしいが,現在ほかに簡単な証明がないから,ここでは定理を紹介するだけにしておかなければならない(附録参照).
 Dirichlet は無限級数を用いて証明をしている.それが発端になって,現在の函数論的整数論が発生したのである.$a=1$ の場合だけは,代数的の証明ができるから後に述べるであろう($\S\ 10$).

 奇数を $4n+1$ の形のものと,$4n-1$ の形のものとの二種に分けると,両種ともに公差 $4$ の算術級数を作る.素数 $5$,$13$,$17$,$29$,$\cdots\cdots$ は前者に属し,$3$,$7$,$11$,$19$,$23$,$\cdots\cdots$ は後者に属する.$4n-1$ の形の素数が無限にあることは定理 $1.\ 10$ と同様の方法によって容易に証明することができる.すなわち次の通りである.
 $4n-1$ の形の素数 $3$,$7$,$11$,$\cdots\cdots$ を大きさの順に並べて $p$ に達したとして\[a=4\left(3\hspace{0.7mm}\cdotp7\hspace{0.7mm}\cdotp11\hspace{0.7mm}\cdotp\cdots\cdots p\right)-1\]と置く.$a$ が素数ならば,それは $4n-1$ の形で,$p$ よりも大きい素数である.また $a$ が合成数ならば,その素因数の中に少なくとも一つは $4n-1$ の形のものがある($4n+1$ の形の因数をいくつ掛けても積は $4n+1$ の形の数でしかあり得ないから).その一つを $q$ とすれば,$a$ は $3$,$7$,$11$,$\cdots\cdots$,$p$ では割り切れないから,$q\gt p$.すなわち $4n-1$ の形で $p$ よりも大きい素数が必ずある.故に $4n-1$ の形の素数は無限にある.
 $4n+1$ の形の素数が無限にあることは,このような方法では証明することができない.
 また $2$,$3$ 以外の素数は $6n+1$ または $6n-1$ の形の数である.$6n-1$ の形の素数($5$,$11$,$17$,$23$,$\cdots\cdots$ など)が無限にあることは,上記 $4n-1$ の場合と同様の方法によって証明されるが,$6n+1$ の場合($7$,$13$,$19$,$31$,$\cdots\cdots$ など)にはこの方法を適用することができない.

 $\boldsymbol{2.}$ 任意の正数 $x$ を超えない素数の数を $\pi\left(x\right)$ とすれば,定理 $1.\ 10$ によって $x\rightarrow\infty$ のとき $\pi\left(x\right)\rightarrow\infty$ であるが,$x$ が無限に増大するとき,$\pi\left(x\right)$ がいかなる程度に無限大になるかに関して次の定理が証明されている. Landau がそれを素数定理と名付けた.
 $x\rightarrow\infty$ のとき\[\operatorname{Lim}\frac{\pi\left(x\right)}{\dfrac{\vphantom{l}\lower{0.1em}x}{\log x}}=1.\]すなわち $x/\log x$ は $\pi\left(x\right)$ の漸近値を与える.
 この定理はすでに Gauss が予想したものであるが,約百年の後 Hadamard と Vallée-Poussin とがほとんど同時($1896$)に証明した.その証明は複雑であるから,本書に述べることはできない.
 このような定理の実質的の意味を正視することが肝要である.卒直にいえば興味の中心は問題がむずかしいところにあるというべきであろう.$\pi\left(x\right)$ のような不連続きわまる函数と $x/\log x$ のような初等函数との間に,上記のような関係が成立するのは驚くべきことといわねばなるまい.
 $\boldsymbol{3.}$ 一つの素数 $p$ が知られたとき,大きさの順序において,その次の素数を求めることは,素数の分布に関する重要な問題である.定理 $1.\ 10$ の証明によれば $p$ の次の素数は $2\hspace{0.7mm}\cdotp3\hspace{0.7mm}\cdotp\cdots\cdots p+1$ 以下に必ずあるが,このような限界はあまりに粗雑である.
 上記問題に関して現在知られている最も著しい事実は,次の定理である(Tschebyschef).
 〔Tschebyschef の定理〕 $x\gt1$ とすれば,$x$ と $2x$ との間に必ず素数がある.
 これも粗雑であるが,証明は随分むずかしい.

 $\boldsymbol{4.}$ $3,5$; $5,7$; $11,13$; $17,19$; $29,31$; $41,43$; $\cdots\cdots$ のように引き続いた二つの奇数がともに素数であるもの(素数の双生児)が自然数の順位の初めの部分において目立つ.素数表を繰ると,このような素数の対はどこまでいっても見出される.例えば\[10001441,\hspace{1em}10001443.\] しからば素数の双生児は,はたして無限に存在するか.この問題にはまだ解答がない.
 上記の問題とは反対に,自然数の順位において,素数を一つも含まない長い範囲を求めることは,容易である.
 引き続いた $n$ 個の整数\[\left(n+1\right)^{\ }\!!+2,\hphantom{l}\left(n+1\right)^{\ }\!!+3,\ \cdots\cdots,\ \hphantom{l}\left(n+1\right)^{\ }\!!+\left(n+1\right)\]は全部が合成数である.それらは $2$,$3$,$\cdots\cdots$,$n+1$ で割り切れる.

 $\boldsymbol{5.}$ なお一つ,素数分布に関して古くから有名な問題はいわゆる Goldbach の推測である.それは $2$ 以外の偶数は二つの素数の和として表わし得るというのである.
 ($4=2+2$,$6=3+3$,$8=3+5$,$10=3+7=5+5$,$\cdots\cdots$,$100=3+97=11+89=\cdots\cdots=47+53$,$\cdots\cdots$)これも証明されてはいない.問題は誰にもわかるが,それを解決する手がかりが,現今の数学には見出し難いのである.近時 Hardy および Littlewood が Goldbach の推測に関して興味ある研究を発表して,専門家の注意をひいたが,その方法は,はなはだ複雑困難である.
 このような困難な問題が数学の進歩を促す動因になるのである.






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