初 等 整 数 論 講 義 第 $2$ 版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 21.$ 中間近似分数  $\S\ 23.$ 一次形式 $\omega x-y$ の最小値 $\blacktriangleright$

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第 $2$ 章 連  分  数

 $\S\ 22.$ 近似分数の特徴

 $\boldsymbol{1.}$ 無理数 $\omega$ を十進小数に展開して,その第 $m$ 位未満の部分を切り捨て,または切り上げて $\omega$ の近似値を作れば,その誤差は $1/10^m$ よりは小である.一般に分母 $n$ を指定して,なるべく $\omega$ に近い有理数の近似値を求めるならば,次のように $\omega$ をはさむ二つの分数を得る.\[\frac{m}{n}\lt\omega\lt\frac{m+1}{n}.\]ここに $m$ は $n\omega$ を超えない最大の整数である.これらの近似値の誤差は $1/n$ 以内であることはもちろんであるが,一般的にはそれ以上の精密を期待することはできない.
 しかるに $\omega$ を連分数に展開して,その近似分数を $p/q$ とすれば,\[\left|\ \!\omega-\frac{p}{q}\right|\lt\frac{1}{q^2}\tag{$\ \cssId{eq1}{\S\ 20,\ 2}\ $}\]であって,$p/q$ は $\omega$ の近似値として誤差が著しく小である,すなわち有理の近似値として優良な資格を有するものといわねばならない.
 こういう点から観察して近似分数の特徴を説明するにあたって,次の定理を基本とするのであるが,その前に,本章ではすべて有理数を分数の形に表わすときに,分母を正の整数として,したがって負の有理数は分子を負の整数として表わすことを規約する.
 〔定理 $\boldsymbol{2.\ 5}$〕 有理数\[\frac{\lower{0.1em}a}{b}\gt\frac{\lower{0.1em}c}{d}\]の分母分子の間に\[ad-bc=1\]なる関係があるときは\[\frac{\lower{0.1em}a}{b}\gt\frac{y}{x}\gt\frac{\lower{0.1em}c}{d}\hspace{1cm}\left(x\gt0\right)\]なる有理数 $y/x$ のうちで,分母の最も小さいのは $\left(a+c\right)/\left(b+d\right)$ である.すなわち $x\geqq b+d$.
 〔$\begin{alignat*}{1}u&=ax-by,\\[2mm]v&=dy-cx.\end{alignat*}$   
と置けば\begin{alignat*}{1}x&=du+bv,\\[2mm]y&=cu+av.\end{alignat*} さて仮定によって $u\gt0$,$v\gt0$,しかも $u$,$v$ は整数であるから,$u\geqq1$,$v\geqq1$.よって上の等式から\[x\geqq b+d.\] かつ $x=b+d$ になるのは $u=1$,$v=1$ のときに限る.そのとき\[y=a+c.\] 〔定理 $\boldsymbol{2.\ 6}$〕 $\boldsymbol{\omega}$ よりも小さい有理数(または $\omega$ よりも大きい有理数)で,分母が指定された限界 $A$ を超えないものの中において,$\boldsymbol{\omega}$ に最も近いものは分母が最も $A$ に近い奇数番号(または偶数番号)の主なる近似分数またはその中間の近似分数である.
 〔〕 $\omega$ よりも小さい有理数を考察する($\omega$ よりも大きい有理数に関しても,証明は同様である).
 奇数番号の主なる近似分数またはその中間の近似分数の分母は\begin{alignat*}{1}q_1&=1;\ \ q_1+q_2,\ \ q_1+2q_2,\ \cdots\cdots,\ q_1+\left(k_2-1\right)q_2;\\[2mm]q_3&=q_1+k_2q_2;\ \ q_3+q_4,\ \ q_3+2q_4,\ \cdots\cdots,\ q_3+\left(k_4-1\right)q_4;\cdots\cdots\end{alignat*}で,これらは $1$ に始まって次第に増大する整数である.
 その中で $A$ を超えない最大のものを $s$ とすれば,\[s\leqq A\lt s+q_n.\tag{$\ 1\ $}\]ただし,$q_n$ は偶数番号の主なる近似分数の分母である.
 この $s$ を分母とする(主または中間)近似分数を $r/s$ とすれば,\[\frac{p_n}{q_n}\gt\omega\gt\frac{r}{s},\tag{$\ 2\ $}\]\[p_ns-q_nr=1.\tag{$\ 3\ $}\]さて証明すべきことは,\[\omega\gt\frac{y}{x}\gt\frac{r}{s},\hspace{1cm}x\leqq A\tag{$\ 4\ $}\]なる有理数 $y/x$ は存在しないということである.
 かりに $\left(\ 4\ \right)$ が成り立つとすれば,$\left(\ 2\ \right)$ によって\[\frac{p_n}{q_n}\gt\frac{y}{x}\gt\frac{r}{s}.\]故に $\left(\ 3\ \right)$ によって\[x\geqq q_n+s,\hspace{1cm}\left(定理\ 2.\ 5\right).\]故に $\left(\ 4\ \right)$ から\[A\geqq q_n+s.\]これは $\left(\ 1\ \right)$ と矛盾する.すなわち $\left(\ 4\ \right)$ は不可能である.
 〔注意〕 本章では $\omega$ が無理数である場合に興味の中心を置いて述べるのであるが,結論はたいがい有理数にもあてはまる.定理 $2.\ 6$ において $\omega=a/b$ でもよいが,$a/b$ を既約分数とするとき,$A$ を $b$ 以上にしては,意味を成さない.このような枝葉の点で話を無益に混雑させるのを厭って,$\omega$ を無理数としておくのである.

 $\boldsymbol{2.}$ 定理 $2.\ 6$ は換言すれば次のようになる.それは $\omega$ の近似値としての近似分数の特徴を宣明するものである.
 〔定理 $\boldsymbol{2.\ 7}$〕 $1$,$2$,$3$,$\cdots\cdots$ を分母とする有理数で $\omega$ よりも小(または大)である近似値を作って,その中で自己の分母よりも小さい分母を有するものと比較して誤差が小さくないものは劣等の近似値として除却する.しからばこの淘汰を経て残留するものは $\omega$ の奇数番号(または偶数番号)の主および中間近似分数だけである.
 〔〕 まず近似分数 $r/s$ は必ず残留する,$s$ を超えない分母を有する有理数の中で $r/s$ が最も $\omega$ に近いから(定理 $2.\ 6$).また $a/b$ が残留したとすれば,$b$ を超えない分母を有する有理数の中で $a/b$ が最も $\omega$ に近いのであるから,$a/b$ は近似分数である(同上).
 〔問題 $\boldsymbol{1}$〕 定理 $2.\ 7$ では $\omega$ よりも小さい近似値と,$\omega$ よりも大きい近似値とを区別して取り扱ったのであるが,もしも $\omega$ との大小の関係を考えに入れないで,誤差の絶対値の小さいものだけを優良な近似値として,同様の標準によって淘汰を行なうことにすればどうか.この場合には,主なる近似分数は $p_1/q_1$ のほかは全部合格である($p_1/q_1=k_0/1$ は $k_1=1$ のとき反対側の $p_2/q_2=\left(k_0+1\right)/1$ に劣る).
 また中間近似分数\[\frac{p_{n-1}+\lambda p_n}{q_{n-1}+\lambda q_n}\]の中で,$\lambda\gt k_n/2$ なるものは合格であるが,$\lambda\lt k_n/2$ なるものは不合格である.$\lambda=k_n/2$ なるものは\[k_{n-1}+\frac{1}{k_{n-2}}\raise{0.2em}{\underset{\Large+}{}}\ \underset{\Large\cdots}{}\ \underset{\Large\cdots}{}\ \raise{0.2em}{\underset{\Large+}{}}\frac{1}{k_1}\lt k_{n+1}+\frac{1}{k_{n+2}}\raise{0.2em}{\underset{\Large+}{}}\ \underset{\Large\cdots}{}\ \underset{\Large\cdots}{}\]のであるときに限って合格である.
 〔解〕 定理 $2.\ 7$ によって,近似分数以外の近似値はすでに淘汰されているから,近似分数だけを競争に参加させて再淘汰を行なえばよい.まず主なる近似分数 $p_n/q_n$ が合格であることは\[\left|\ \!\omega-\frac{p_n}{q_n}\right|\lt\left|\ \!\omega-\frac{p_{n-1}}{q_{n-1}}\right|\hspace{1cm}\left(\cssId{eq2}{\S\ 20,\ 問題\ 1}\right)\]からわかる.反対側で $p_n/q_n$ よりも大きくない分母を有する近似分数の中では $p_{n-1}/q_{n-1}$ が最優者で,$p_n/q_n$ はそれにも優るからである.ただし $p_1/q_1=k_0/1$ は $k_1=1$,すなわち $\omega-k_0\gt1/2$ のとき $p_2/q_2=\left(k_0+1\right)+1$ に劣る.この場合は例外である.
 中間近似分数\[\frac{r}{s}=\frac{p_{n-1}+\lambda p_n}{q_{n-1}+\lambda q_n}\]は反対側の主なる近似分数 $p_n/q_n$ に勝つことが合格の条件である.すなわち($n$ を奇数としていえば)条件は\[\frac{r}{s}-\frac{p_n}{q_n}\lt2\left(\omega-\frac{p_n}{q_n}\right),\]すなわち\[\frac{1}{sq_n}\lt\frac{2}{q_n\left(q_n\omega_n+q_{n-1}\right)},\]すなわち\[2\left(q_{n-1}+\lambda q_n\right)\gt q_n\omega_n+q_{n-1},\]すなわち\[q_{n-1}\gt q_n\left(\omega_n-2\lambda\right).\]$\lambda\gt k_n/2$ ならば,右辺は負になるから,合格.
$\lambda\lt k_n/2$ ならば $2\lambda\lt k_n$,すなわち $2\lambda\leqq k_n-1$,したがって $\omega_n-2\lambda\gt1$ で,不合格.
$\lambda=k_n/2$ ならば,合格の条件は\[q_{n-1}\gt q_n\left(\omega_n-k_n\right)=\frac{q_n}{\omega_{n+1}},\]すなわち\[\omega_{n+1}\gt\frac{q_n}{q_{n-1}},\]すなわち\[k_{n+1}+\frac{1}{k_{n+2}}\raise{0.2em}{\underset{\Large+}{}}\ \underset{\Large\cdots}{}\ \underset{\Large\cdots}{}\ \gt k_{n-1}+\frac{1}{k_{n-2}}\raise{0.2em}{\underset{\Large+}{}}\ \underset{\Large\cdots}{}\ \underset{\Large\cdots}{}\ \raise{0.2em}{\underset{\Large+}{}}\ \frac{1}{k_1}.\] この条件が満たされるか否かは $\S\ 20$,問題 $2$ によってわかる.

 〔問題 $\boldsymbol{2}$〕 正の整数 $n$ を超えない分母分子を有する既約分数を大きさの順序に並べて,それを $n$ に対応する Farey 級数という.
 例えば,$n=6$ とすれば,区間 $\left[0,\ 1\right]$ における Farey 級数は\[\frac{\lower{0.1em}0}{1},\ \frac{\lower{0.1em}1}{6},\ \frac{\lower{0.1em}1}{5},\ \frac{\lower{0.1em}1}{4},\ \frac{\lower{0.1em}1}{3},\ \frac{\lower{0.1em}2}{5},\ \frac{\lower{0.1em}1}{2},\ \frac{\lower{0.1em}3}{5},\ \frac{\lower{0.1em}2}{3},\ \frac{\lower{0.1em}3}{4},\ \frac{\lower{0.1em}4}{5},\ \frac{\lower{0.1em}5}{6},\ \frac{\lower{0.1em}1}{1}.\] $\ \ \!\text{i}\ )$ Farey 級数において隣り合せの二つの分数を $a/b\gt c/d$ とすれば,$ad-bc=1$.
 $\ \text{ii}\ \!)$ $ad-bc=1$ ならば,$a/b$,$c/d$ はそれらを初めて含む Farey 級数において隣り合せである.
 $\ \!\text{iii})$ $n$ に対応する Farey 級数の隣り合せの分数 $a/b$,$c/d$ の間へ $\left(a+c\right)/\left(b+d\right)$($b+d=n+1$)を挿入すれば,$n+1$ に対応する Farey 級数を得る.
 〔解〕 区間 $\left[0,\ 1\right]$ に属する部分を考察すれば十分である.まず $\ \text{ii}\ \!)$ は定理 $2.\ 5$ によって明白.また $\ \ \!\text{i}\ )$,$\ \!\text{iii})$ は $n=1$ の場合に成り立つから,数学的帰納法を用いる.よって $n$ に対応する Farey 数列において相隣る $a/b$,$c/d$ に関して $ad-bc=1$ とする.もしも,これらが $n+1$ に対応する数列でも隣り合せならば,それでよろしい.さもなくば,定理 $2.\ 5$ によって,これらの間へ $\left(a+c\right)/\left(b+d\right)$ が入って,$b+d=n+1$,$a\left(b+d\right)-b\left(a+c\right)=1$,$\left(a+c\right)d-\left(b+d\right)c=1$.故に $a/b$ と $\left(a+c\right)/\left(b+d\right)$ と,また $\left(a+c\right)/\left(b+d\right)$ と $c/d$ との中間には,$n+1$ 以下の分母を有する分数はない.
 〔問題 $\boldsymbol{3}$〕 $a/b$,$c/d$ は既約分数で,$b\gt1$,$d\gt1$,$ad-bc\gt1$ ならば $a/b$ と $c/d$ との中間に分母が $b$ または $d$ よりも小さい分数がある.
 〔解〕 これは定理 $2.\ 5$ の逆である.$\operatorname{Max}\ \left(b,\ d\right)=n$ とすれば,$a/b$,$c/d$ は $n$ に対応する Farey 数列において隣り合っていない.故にその中間に $y/x$,$0\lt x\lt n$ なる分数がある.$n\gt1$ だから,分母 $n$ なる分数が隣り合うことはないから,$x\lt n$ なるものがあるのである.
 〔注意〕 $b\geqq d$ とすれば $ax-by=1$,$b\gt x\gt0$ から,$a/b\gt y/x\gt c/d$ なる $y/x$ が得られる.$d\gt b$ ならば $dy-cx=1$ から.

 〔問題 $\boldsymbol{4}$〕 Farey 級数において隣り合せの分数 $a/b$,$c/d$ の中間に $\omega$ があるならば,$a/b$ と $c/d$ とは $\omega$ の連分数展開の(主なるまたは中間の)近似分数である.
 〔解〕 定理 $2.\ 7$ による($\S\ 24$,問題 $2$ 参照).






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