初 等 整 数 論 講 義 第 $2$ 版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 24.$ 格子  $\S\ 26.$ Minkowski の定理 $\blacktriangleright$

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第 $2$ 章 連  分  数

 $\S\ 25.$ Dirichlet の証明法

 $\boldsymbol{1.}$ $\omega$ が与えられた無理数であるとき,\[\left|\ \!\omega x-y\ \!\right|\lt\frac{1}{x}\tag{$\ 1\ $}\]を満足させる $x$,$y$ の整数値があることは連分数の理論によれば明白であるが($x=q_n$,$y=p_n$),Dirichlet が考案した巧妙な方法によって,この定理を連分数論によらないで,直接に証明することができる.
 その証明法は次の簡単な原則に基づくのである.
 「$n$ 個の場所へ,$n$ よりも多くの物を配置すれば,同じ場所に二つ以上の物が配置される所が必ずある.」
 その理由は明白であろう.各所一個以下では,総数 $n$ 個以下であるから.
 このような「部屋割り論法」は広く類似の場合に応用されるので,有名である.
 さて上記 $\left(\ 1\ \right)$ の定理に返るが,$n$ を任意の自然数として,実数軸上の区間 $\left[0,\ 1\right)$ を\[\left[0,\ \frac{1}{n}\right),\hphantom{m}\left[\frac{1}{n},\ \frac{2}{n}\right),\cdots\cdots,\left[\frac{n-1}{n},\ 1\right)\]なる $n$ 個の区間に等分する.
 区間の記法 $\left[a,\ b\right)$ の意味は左端の点 $a$ は区間に属し,右端の点 $b$ は区間に属さないとするのである.すなわち $a\leqq x\lt b$ なる数 $x$ をもって区間 $\left[a,\ b\right)$ を構成するのである.故に $0\leqq x\lt1$ なる数 $x$ は,上記 $n$ 個の区間の中の一つ,しかも,ただ一つにのみ属する.
 さて $x$ に $0$,$1$,$2$,$\cdots\cdots$,$n$ なる $n+1$ 個の値を与えて,そのおのおのの値に対して $\omega x$ を超えない最大の整数を $y$ とすれば\[0\leqq\omega x-y\lt1\tag{$\ 2\ $}\]である.これら $n+1$ 個の数は上記 $n$ 個の区間に配属するから,$\left(\ 2\ \right)$ の数のうち二つ $\omega x_1-y_1$,$\omega x_2-y_2$($x_1\neq x_2$)が同一の区間に属し,したがって\[\left|\ \!\left(\omega x_1-y_1\right)-\left(\omega x_2-y_2\right)\ \!\right|\lt\frac{1}{n}\]になる.故にいま $x_1\gt x_2$ として,$x_1-x_2=x$,$y_1-y_2=y$ と置けば,\[\left|\ \!\omega x-y\ \!\right|\lt\frac{1}{n}\tag{$\ 3\ $}\]で,かつ\[0\lt x\leqq n,\tag{$\ 4\ $}\]すなわち $1/n\leqq1/x$ であるから,$\left(\ 3\ \right)$ によって $\left(\ 1\ \right)$ を得る.
 $\left(\ 3\ \right)$,$\left(\ 4\ \right)$ から,$\left(\ 1\ \right)$ よりは一層精密に次の定理を得る.
 〔定理 $\boldsymbol{2.\ 9}$〕 $\omega$ を与えられた実数,$n$ を任意の自然数とすれば\[0\lt x\leqq n,\hphantom{m}\left|\ \!\omega x-y\ \!\right|\lt\frac{1}{n}\tag{$\ 5\ $}\]を満足させる整数 $x$,$y$ が必ず存在する.
 上記の証明で,$\left(\ 2\ \right)$ の数の中へ $x=0$ に対応する $\omega\hspace{0.7mm}\cdotp0-0=0$ をも入れて $n+1$ 個の数を作って置いたのは証明のいい表わしを短縮する技術である.もしも $\left(\ 2\ \right)$ の数の中から,それを除くならば,次のように論ずればよい.
 $x=1$,$2$,$\cdots\cdots$,$n$ に対応する $\left(\ 2\ \right)$ の $n$ 個の数の中に区間 $\left[0,\ 1/n\right)$ に属するものがあるならば,定理はすでに成り立つのである.反対の場合には,それらの $n$ 個の数が $\left[0,\ 1/n\right)$ を除いた残りの $n-1$ 個の区間に属さなければならない.よって部屋割り論法が適用されて,定理が証明される.

 $\boldsymbol{2.}$ 定理 $2.\ 9$ において,$n$ が自然数であるという制限を撤去して,それを次のように拡張することができる.
 〔定理 $\boldsymbol{2.\ 9,\ 1}$〕 $\omega$ は実数で,$\nu$ は任意の正数とするとき,\[\left|x\right|\leqq\nu,\hphantom{m}\left|\ \!\omega x-y\ \!\right|\lt\frac{1}{\nu}\]なる整数 $x$,$y$ が($x=y=0$ 以外に)存在する.
 〔〕 まず $\nu\geqq1$ とし,$n-1\leqq\nu\lt n$ なる自然数 $n$ をとれば,仮定によって $n\geqq2$,また $1/n\lt1/\nu$.さて\begin{alignat*}{1}0\leqq\omega x&-y\lt1\tag{$\ 6\ $}\\[2mm](x&=1,\ 2,\ \cdots\cdots,\ n-1)\end{alignat*}なる $n-1$ 個の数と $\left[\ \!0,\ 1/n\right)$,$\left[\ \!1/n,\ 2/n\right)$,$\cdots\cdots$,$\left[\ \!(n-1)/n,\ 1\right)$ なる $n$ 個の区間とを考察する.
 もしも,これらの数の中に\[0\leqq\omega x_0-y_0\lt\frac{1}{n}\lt\frac{1}{\nu}\]なるものがあれば,定理はすでに成り立つ.またもし\[\frac{n-1}{n}\leqq\omega x_0-y_0\lt1\]なるものがあれば,$x_0=x$,$y_0+1=y$ として\[\left|\ \!\omega x-y\ \!\right|\leqq\frac{1}{n}\lt\frac{1}{\nu}.\] これらの場合を除けば $\left(\ 6\ \right)$ の $n-1$ 個の数が\[\left[\frac{1}{n},\ \frac{2}{n}\right),\ \cdots\cdots,\left[\frac{n-2}{n},\ \frac{n-1}{n}\right)\]なる $n-2$ 個の区間に属するから,部屋割り論法によって\[\frac{k}{n}\leqq\omega x_1-y_1,\hphantom{\omega}\omega x_2-y_2\lt\frac{k+1}{n},\ \ x_1\neq x_2\]なる数があるから,$x_1-x_2=x$,$y_1-y_2=y$ とおけば,\[\left|\ \!\omega x-y\ \!\right|\lt\frac{1}{n}\lt\frac{1}{\nu}.\]上記いずれの場合にも $0\lt\left|x\right|\leqq\nu$ である.
 $\nu\lt1$ なる場合には $x=0$ でなければならないが,$1/\nu\gt1$ であるから $y=1$ とすればよい.






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