初 等 整 数 論 講 義 第 $2$ 版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 53.$ 一般の二元二次不定方程式  $\S\ 55.$ 両面イデヤル,両面類 $\blacktriangleright$

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附      録

 $\S\ 54.$ イデヤルの類別(広義と狭義)

 $\S\ 49$ の問題 $\mathrm{B}$ を二次不定方程式に応用するときには,符号に関する附帯条件があったのである($323$ 頁).そのためにイデヤル $A=\left(\rho\right)$ において $N\left(\rho\right)$ が与えられた符号を有することが必要になる.
 このような場合には,二次体 $K\left(\sqrt{m}\right)$ におけるイデヤルを $\S\ 45$ に述べたよりはやや細密に類別するのが適当である.すなわち次の通り.
 二次体 $K\left(\sqrt{m}\right)$ におけるイデヤル,$A$,$B$ の間に\[A=\rho B,\hspace{5mm}N\left(\rho\right)\gt0\]なる関係があるとき,$A$,$B$ を狭義において対等という.狭義における対等も推移性を有する:すなわち\[A=\rho B,\hphantom{1}N\left(\rho\right)\gt0;\ B=\sigma C,\hphantom{1}N\left(\sigma\right)\gt0\ ならば,\hspace{1cm}\\[2mm]A=\rho\sigma C,\hphantom{1}N\left(\rho\sigma\right)\gt0.\]よって狭義において互いに対等なイデヤルの全部をもって一つの類(狭義における類)を組成することができる.虚の二次体においてはもとより $N\left(\rho\right)\gt0$ であり,また実の二次体においても $N\left(\varepsilon\right)=-1$ なる単数があるときには,$\rho$ に $\varepsilon\rho$ を代用することができるから,互いに対等なイデヤルは狭義においても対等である.ただ実二次体が $N\left(\varepsilon\right)=+1$ なる基本単数を有するときには,広義における各類が狭義における二類に分割される.すなわち,$A=\rho B$,$N\left(\rho\right)\lt0$ であるときには,$A=\rho/\sqrt{d}\hspace{0.7mm}\cdotp\left(\sqrt{d}B\right)$ において,$N\left(\rho/\sqrt{d}\right)\gt0$ であるから $A$ は狭義においては $\sqrt{d}\hspace{0.7mm}\cdotp B$ と対等である.すなわち,広義においてイデヤル $B$ で代表される一つの類が,狭義においては $B$ で代表されるものと $\sqrt{d}\hspace{0.7mm}\cdotp B$ で代表されるものとの二類に分かれる.特に単項イデヤル $\left(\alpha\right)$ は $N\left(\alpha\right)\gtrless0$ に従って $1$ によって代表される類(狭義の主類)と,$\sqrt{d}$ によって代表される類とに分かれる.
 〔定理 $\boldsymbol{6.\ 1}$〕 二次体 $K\left(\sqrt{m}\right)$ において広義および狭義におけるイデヤルの類の数をそれぞれ $h$,$h^\prime$ とすれば:
虚二次体または $N\left(\varepsilon\right)=-1$ なる実二次体では $h^\prime=h,$
$N\left(\varepsilon\right)=+1$ なる実二次体では $h^\prime=2h$

 類を狭義にとれば定理 $5.\ 27$ は次のように変更される.
 イデヤル $\boldsymbol{A=\left[a,\hphantom{1}b+\omega\right]}$,$\boldsymbol{J=\left[k,\hphantom{1}l+\omega\right]}$ が狭義において対等であるために必要かつ十分な条件は\[\boldsymbol{\varTheta=\frac{b+\omega}{a},\hphantom{\varPsi}\varPsi=\frac{l+\omega}{k}}\]が「モ変形」に関して正式に対等なことである.
 〔例〕 $K\left(\sqrt{34}\right)$: $\varepsilon=35+6\sqrt{34}$,$N\left(\varepsilon\right)=1$($\S\ 32$,例 $2$,$204$ 頁).
 判別式 $4\hspace{0.7mm}\cdotp34=136$ に属する簡約された数が二つの周期に分かれるから,イデヤルの類の数は広義において $2$,したがって狭義において $4$ である.単項イデヤルでないイデヤルの例として\begin{alignat*}{1}3={PP}^\prime,\hphantom{P}P&=\left[3,\hspace{5mm}4+\sqrt{34}\right],\\[2mm]P^\prime&=\left[3,\hspace{5mm}4-\sqrt{34}\right]=\left[3,\hphantom{1}5+\sqrt{34}\right]\end{alignat*}をとって\[\varTheta=\frac{4+\sqrt{34}}{3},\hspace{1cm}\varPsi=\frac{5+\sqrt{34}}{3}\]とおけば,\[\varTheta=3+\frac{1}{\varPsi},\]故に $P$ と $P^\prime$ とは狭義においては対等でない.すなわち\[P=\varPsi^\prime P^\prime,\hspace{1cm}N\left(\varPsi^\prime\right)=-1.\]広義においては $P^2=3\varPsi^\prime=\left(5-\sqrt{34}\right)\sim1$ であるが,狭義においては $P^2$ は「非正式主類」に属する.故に狭義においては四つの類が,\[1,\ P,\ P^2,\ P^3\]によって代表される(広義では,$1$,$P^2$ は主類,$P$,$P^3$ は他の一類に属する).






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