初 等 整 数 論 講 義 第 $2$ 版

第 $2$ 版 序 $\blacktriangleright$

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序   言

 本書はさきに発表した代数学講義の姉妹篇である,同書の一部分を別冊とする機会に於て,若干予定以外の材料を追加して,当初計画せる代数学講義第二巻を改称して,独立の初等整数論講義としたのである.
 本書の第 $1$ 章は仮に題して初等整数論という.固より初等整数論,高等整数論の間に劃然たる境界が存在するのではないが,ただ此処から先きは有理整数のみを考察の範囲として進行することが不適当であると思われる所に到達して,そこを一段落としたのに過ぎない.
 第 $2$ 章連分数論は因習的なる題目であるが,本書ではむしろそれを現代的の立場から考察して,いわゆる整数的近似法(Diophantische Approximation)の一班を紹介する.格子の幾何学がその基調である.これは現今数学の各部局に於て応用せられる重要な方法である.
 第 $3$ 章では連分数論の応用として二元二次不定方程式を論ずる.二元二次不定方程式の解法は十八世紀数学の精華で,貴重なる古典と言わねばならない.類例を幾何学に求めるならば,即ち二次曲線論である.或はむしろ直に整数論的二次曲線論と言うべきでもあろう.
 以上の三章いずれも因習上旧式の代数書に附載せられる題目であるが,本書に於てはその伝統に追随するのではなくて,却てそれらの問題を現代的に更生せしめることを主眼としたのである.
 第 $4$ 章及び第 $5$ 章に於ては二次の数体を例に取って代数的整数論の端緒を述べて,イデヤル論の概念を紹介する.仮に二元二次不定方程式の解法を目標として,現代的の方法が古典的なる問題を軽快に解決することの実例を提供して,数学の不断の進歩の経過を瞥見するよすがともしようというのである.
 別に附録の一章を置いて,二次体論の高等なる部分にも論及し,かつ二次体のイデヤルの類数の計算および算術級数中の素数に関する Dirichlet の定理の函数論的証明法を概説する.附録までをも入れて言えば,典型的であった Dirichlet の整数論講義に述べられた材料だけは略々本書にも収録されていると信ずるのである.
 古典を愛好する読者は本書の首 $3$ 章の中から古典的整数論の概念を領得することが出来よう.若し又新を趁うことに興味を有するならば第 $1$ 章から直に第 $4$,$5$ 章に移乗して,最後に第 $2$,$3$ 章に遡るのも宜しかろうと思う.
 整数論の方法は繊細である,小心である,その理想は玲瓏にして些の陰翳をも留めざる所にある.代数学でも,函数論でも,又は幾何学でも,整数論的の試練を経て始めて精妙の境地に入るのである.Gauss が整数論を数学中の数学と観じたる理由がここにある.
 若しも本書が初等整数論の練習帳として幾分でも使用に堪え得るならば,著者の欣幸である.
 理学士 弥永昌吉君,同 森島太郎君,同 菅原正夫君は本書の第二,三,四校を引受けて多大なる援助を著者に与えてくれられた.玆に三君の好意に対して深厚なる謝意を表明する.

 $1931$ 年 $2$ 月

著  者




 編纂上の細目に関しては関しては代数学講義「凡例」を参照されたい.本書においてこの代数学講義を「代」として引用した(頁数の引用は同書の $1965$ 年改訂新版(第 $3$ 版)による.この括弧内は第 $2$ 版で挿入).






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