初 等 整 数 論 講 義 第 $2$ 版

$\blacktriangleleft$ $4.$ 虚二次体  人名 $\blacktriangleright$

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補   遺

 $\boldsymbol{1}\ )$ ($10$ 頁参照) 連立一次不定方程式の理論は本書では述べないが,方程式が実際に数字係数をもって与えられてあるときに,その一般解は $\S\ 3$,$2$($9$ 頁)に述べた方法によって求められる.
 例えば $9$ 頁 $\left(\ 4\ \right)$ の方程式\[32x+57y-68z=1\tag{$\ 4\ $}\]と\[3x+2y-6z=2\tag{$\ a\ $}\]とが与えられてあるとするとき,$10$ 頁に掲げた $\left(\ 4\ \right)$ の一般解\[\left.\begin{alignat*}{3}x&=17x^\prime&&+22&&z^\prime-6\\y\hspace{0.2mm}&=&&-\ 4\ &&z^\prime+1\\z\hspace{0.4mm}&=\hphantom{1}8x^\prime&&+\ 7\ &&z^\prime-2\end{alignat*}\right\}\]を $\left(\ a\ \right)$ 代入して整理すれば,未知数 $x^\prime$,$z^\prime$ を含む方程式\[3x^\prime+16z^\prime=6\tag{$\ a^\prime\ $}\]を得る.これを解いて\[x^\prime=2-16t,\hphantom{z}z^\prime=3t\]を得る.これを上記 $x$,$y$,$z$ の式に代入して\[\left.\begin{alignat*}{2}x&=28-206t&\\[2mm]y&=\hphantom{11}1-12t&\\[2mm]z&=14-107t&\end{alignat*}\ \right\}\]を得る.これが連立一次不定方程式 $\left(\ 4\ \right)$,$\left(\ a\ \right)$ の一般解である(ただし,$t$ は任意の整数).
 $\boldsymbol{2}\ )$ ($12$ 頁参照) 定理 $1.\ 9$ において素因数分解の一意性の証明が定理 $1.\ 8$に基づき,その定理 $1.\ 8$定理 $1.\ 6$によって証明されている.これは素因数分解の一意性を証明する古典的の方法である.しかるに素因数分解の一意性は自明のように思い慣らされてもいるから,この定理を一層直接に第一原理から導くこともまた初等整数論の任務であるかに思われる.よって試みに次のような証明(Zermelo の着想)を掲げて置く.
 $4=2\times2$ に関しては定理は明白であるから,数学的帰納法を用いよう.
 そこで $a$ よりも小さい合成数に関しては,分解は一意的で,$a$ に至って初めて二様に分解される合成数に遭遇したと仮定して\[a=pqr\cdots\cdots=p^\prime q^\prime r^\prime \cdots\cdots\]とする.しからば $p$,$q$,$r$,$\cdots\cdots$ はいずれも $p^\prime $,$q^\prime $,$r^\prime $,$\cdots\cdots$ とは異なる素数でなければならない.なぜならば,もしも例えば $p=p^\prime $ とするならば,それを両辺から除くとき,$a$ よりも小さい数がすでに二様に分解されることになって仮定に反する.
 故に $p\neq p^\prime $.よっていま $p\gt p^\prime $ として両辺から $p^\prime qr\cdots\cdots$ を引いて\[a^\prime=\left(p-p^\prime\right)qr\cdots\cdots=p^\prime\left(q^\prime r^\prime\cdots\cdots-qr\cdots\cdots\right)\]と置けば,$a^\prime\lt a$ であるが,右辺の $\left(p-p^\prime\right)$ および $\left(q^\prime r^\prime\cdots\cdots-qr\cdots\cdots\right)$ が素数でなければ,それを素因数に分解すれば,$a^\prime$ が二様に分解されることになる.二様というのは $p^\prime$ と $q$,$r$,$\cdots\cdots$ とは異なる素数で,また $p^\prime$ は $p-p^\prime$ の約数でもあり得ないからである($p-p^\prime$ が $p^\prime$ で割り切れるならば,$p$ が $p^\prime$ で割り切れねばならないが,$p$ は素数で $p\neq p^\prime$ だから,それは不可能である).
 $a$ よりも小さい $a^\prime$ が二様に分解されることは仮定に反する.故に分解の一意性が証明されたのである.
 $\boldsymbol{3}\ )$ ($17$ 頁参照) 〔問題 $12$〕多項係数\[P=\frac{p^n!}{a!b!c!\cdots},\hphantom{a}\left(a+b+c+\cdots\cdots=p^n,\hphantom{a}a\geqq1,\hphantom{b}b\geqq1,\hphantom{c}c\geqq1,\hphantom{a}\cdots\cdots\right)\]において,$a$,$b$,$c$,$\cdots\cdots$ の中の一つ,例えば $a$ がちょうど $p^k$($k\geqq0$)で割り切れるとする.しからば\[P=\binom{p^n}{a}\binom{p^n-a}{b}\binom{p^n-a-b}{c}\cdots\cdots\]において右辺の因数 $\dbinom{p^n}{a}$ は $p^{n-k}$ で割り切れ,その他の因数は整数だから,$P$ は少なくとも $p^{n-k}$ で割り切れる.故に $\left(a,\hphantom{1}b,\hphantom{1}c,\hphantom{1}\cdots\right)$ がちょうど $p$ を $k$ 乗だけ含めば $P$ は $p^{n-k}$ で割り切れる.特に $a$,$b$,$c$,$\cdots\cdots$ の中に $p$ で割り切れないものがあれば,$P$ は $p^n$ で割り切れる.
 $\boldsymbol{4}\ )$ ($19$ 頁参照) 〔問題 $14$〕〔解〕の中に $\left(\ 2\ \right)$ における $x$,$y$,$\cdots\cdots$ がそれぞれ $p$,$q$,$\cdots\cdots$ で割り切れないことを明記しなかったが,これは重要な論点である.もしも $x$ が $p$ で割り切れるならば,$x/p^\alpha$ を約分して後 $\left(\ 2\ \right)$ の右辺を一つの分数にまとめるとき,$n$ よりも小さい分母を得る.仮定によって $m/n$ は既約であるから,これ不合理である.
 〔注意〕 $\left(m,\hphantom{1}n\right)=1$ で $m/n=m^\prime/n^\prime$ ならば,$mn^\prime=m^\prime n$,したがって $n^\prime=nt$(定理 $1.\ 6$).よって $m^\prime=mt$.
 $\boldsymbol{5}\ )$ ($30$ 頁参照) 一次合同式.定理 $1.\ 14$ および問題 $2$($33$ 頁)で述べた一つの未知数を含む連立一次合同式が一般の形\[a_kx\equiv b_k\hphantom{m}\left(\text{mod}.\ m_k\right)\hspace{5mm}\left(k=1,\hphantom{1}2,\hphantom{1}\cdots\cdots\hphantom{1},n\right)\]で与えられているときは,各合同式を解いて,それを\[x\equiv c_k\hphantom{m}\left(\text{mod}.\ m^\prime{}_k\right)\hphantom{\left(k=1,\hphantom{1}2,\hphantom{1}\cdots\cdots\hphantom{1},n\right)}\]の形にすることができる.すなわち問題 $2$ に帰する.
 二つ以上の未知数 $x_1$,$x_2$,$\cdots\cdots$,$x_n$ を含む一次合同式\[a_{k1}x_1+a_{k2}x_2+\cdots\cdots+a_{kn}x_n\equiv a_k\hphantom{m}\left(\text{mod}.\ m_k\right)\tag{$\ 1\ $}\\[2mm]\left(k=1,\hphantom{1}2,\hphantom{1}\cdots\cdots,\hphantom{1}m\right)\]においては,それらを右辺が $a_k+m_kt_k$ なる方程式に変形して,$m$ 個の未知数 $t_1$,$t_2$,$\cdots\cdots$,$t_m$ を追加すれば,問題は $n+m$ 個の未知数 $x_1$,$\cdots\cdots$,$x_n$,$t_1$,$\cdots\cdots$,$t_m$ を含む連立一次不定方程式に帰する.
 上記のような一般的の一次合同式の理論は本書には載せないが,次のような概括的の考察を附記することが適切であったであろう.
 まず $\left(\ 1\ \right)$ の各合同式の $\text{mod}.$ である $m_1$,$m_2\cdots\cdots$の最小公倍数を $M$ とすれば,各合同式の両辺に $M/m_k$ を掛けて,同時に $\text{mod}.\ m_k$ を $\text{mod}.\ M$ に換えてもよいから,初めから,$\left(\ 1\ \right)$ において各合同式の $\text{mod}.$ は同一の数 $M$ と仮定してさしつかえない.すなわち連立一次合同式\[a_{k1}x_1+\cdots\cdots+a_{kn}x_n\equiv a_k\hphantom{n}\left(\text{mod}.\ M\right)\tag{$\ 2\ $}\\[2mm]\left(k=1,\hphantom{1}2,\hphantom{1}\cdots\cdots,\hphantom{1}m\right)\]が与えられてあるとする.
 そのときもしも $n=m$ でかつ係数の行列式 $D=\left|a_{ki}\right|$ が $M$ と互いに素ならば,合同式 $\left(\ 2\ \right)$ は Cramer の公式によって解かれる.すなわち問題は $Dx_k\equiv D_k\ \left(\text{mod}.\ M\right)$ に帰する(記号は代.$\S\ 47$ の通り).
 $\left(\ 2\ \right)$ に於て $M=p$ が素数ならば,$n\neq m$ の場合にも,代.$\S\S\ 49$,$50$ で述べた方法がそのまま当てはまる.等号 $=$ を各所合同記号 $\equiv\left(\text{mod}.\ p\right)$ で置き換えればよい.
 $\text{mod}.\ p$ に関する $\left(\ 2\ \right)$ の解 $x_1{}^0$,$x_2{}^0$,$\cdots\cdots x_n{}^0$ が得られたとすれば,それから $\text{mod}.\ p^2$ に関する解を求めることができる.そのためには $x_k=x_k{}^0+py_k$ と置いて未知数を $y_k$ に変換すればよい.しからば $y_k$ は $\text{mod}.$ は $p$ で,未知数の係数の行列は $\left(\ 2\ \right)$ と同一なる合同式から求められる.
 同様にして $\text{mod}.\ p^h$ に関する解から,$\text{mod}.\ p^{h+1}$ に関する解が求められる($\S\ 7$ と同様).
 一般の法 $M$ に関する解が素数巾を法とする場合に還元されることは $\S\ 7$ 定理 $1.\ 17$ と同様である.
 上記の方法によって実際に与えられた連立一次合同式の解が求められる.一般的の理論は単因子(Elementarteiler)論を用いる必要があるから,本書では述べないことにする.
 $\boldsymbol{6}\ )$ ($63$頁参照) 原始根の存在証明はいろいろにできる.次の方法は Gauss が Disquisitiones で述べているものである.
 $a\not\equiv0\ \left(\text{mod}.\ p\right)$ として,$a$ は指数 $d$ に対応するとする.しからば\[1,\hphantom{1}a,\hphantom{1}a^2,\hphantom{1}\cdots\cdots,\hphantom{1}a^{d-1}\]が $x^d\equiv1\ \left(\text{mod}.\ p\right)$ のすべての解で,この中に指数 $d$ に対応するものは $\varphi\left(d\right)$ だけある($\S\ 10$,問題 $1$).
 故に $p-1$ の任意の約数を $d$ とすれば,指数 $d$ に対応する $a$ が $\text{mod}.\ p$ に関して $\psi\left(d\right)$ だけあるとするとき,$\psi\left(d\right)=0$ または $\psi\left(d\right)=\varphi\left(d\right)$.さて $a\not\equiv0\ \left(\text{mod}.\ p\right)$ である $a$ は $p-1$ の或る約数なる指数 $d$ に対応しなければならないから\[\overset{d\ |\ p-1}{\textstyle\sum}\psi\left(d\right)=p-1.\]しかるに\[\overset{d\ |\ p-1}{\textstyle\sum}\varphi\left(d\right)=p-1\]故に $\psi\left(d\right)=\varphi\left(d\right)$.特に $\psi\left(p-1\right)$ すなわち原始根は $\varphi\left(p-1\right)$ だけある($\text{mod}.\ p$ に関していう).
 本文($61/3$ 頁)に掲げた証明は実際に原始根を求める方法をも同時に示すことを主にしたのである.
 $p=41$ のときまず $2$ を試みたが,実際の計算においては,まず $10$ (または $-10$)を試みる方がいくぶん簡便である.そのときには $1/p$ を循環小数に展開する演算によって $10^2$,$10^3$,$\cdots\cdots$ の剰余が出る($59\sim60$ 頁).
 $\boldsymbol{7}\ )$ ($98$ 頁参照) 〔問題 $1$〕 掲出の条件 $C_k\not\equiv0$,$C_{k+1}\equiv\cdots\cdots\equiv C_{p-1}\equiv0$,$\left(\text{mod}.\ p\right)$ を次の条件で置き換えてもよい.\[C_k\not\equiv0,\hphantom{1}C_{k+1}\equiv0,\hphantom{1}C_{k+1,\ a}\equiv0\hphantom{p}\left(\text{mod}.\ p\right).\]$\left(a=1,\hphantom{1}2,\hphantom{1}\cdots\cdots,\hphantom{1}p-k-2\right)$.ただし $C_{k+1,\ a}$ は $C_{k+1}$ の最終列における組成分子 $c$ の番号を $a$ だけ増して作られる行列式である(代.$355/6$ 頁参照).ここでは $f\left(x\right)=x^n-1$.故に $f_k\left(x\right)=x^k$($k\lt n$).この条件は行列式の次数の小さいことを目標にするのである.
 $\boldsymbol{8}\ )$ ($144$ 頁参照) 定理 $2.\ 8$ 〔第一〕に,$p_n$,$q_n$ は主なる近似分数の中で $A$ を超えない最大分母を有する云々とあって,次にすなわち $q_n\leqq A\lt q_{n+1}$ $\left(\ 3\ \right)$ とある.この文句と式 $\left(\ 3\ \right)$ との間に些細なくい違いがある.それは $q_2=1$ すなわち $k_1=1$,$p_1/q_1=k_0/1$,$p_2/q_2=\left(k_0+1\right)/1$ である場合に生ずる.このときもしも $1\leqq A\lt q_3$ ならば,$\left(\ 3\ \right)$ によれば $n=2$ であるが,文句に従えば $p_1/q_1$ もやはり $A$ を超えない最大分母を有する近似分数には相違ない.この場合には $p_2/q_2$ をとって,$p_1/q_1$ をとらないのである.
 $\boldsymbol{9}\ )$ ($183$ 頁参照) $D\lt0$ なる判別式に属する二次無理数で基本区域 $\mathrm{G}$ に属するものは必ずある.例えば $D\equiv0\hphantom{4}\left(\text{mod}.\ 4\right)$ ならば $\sqrt{D}/2$ また $D\equiv1\hphantom{4}\left(\text{mod}.\ 4\right)$ ならば $\left(-1+\sqrt{D}\right)/2$ が $\mathrm{G}$ に属する.このような二次無理数の数は有限である.$a\theta^2+b\theta+c=0$,$b^2-4ac=D$($a\gt0$,$c\gt0$)とするとき $\theta$ が $\mathrm{G}$ に属するならば $\left|b\right|\leqq a\lt c$.したがって $\left|D\right|=4ac-b^2\geqq3b^2$ から $\left|b\right|\leqq\sqrt{\left|D\right|/3}$.故に $b$ のとり得る値は有限であるが $b$ のおのおのの値に対して $D=b^2-4ac$ を満足させる $a$,$c$ の値も有限である($334$ 頁参照).
 $\boldsymbol{10}\ )$ ($306$ 頁参照) 〔定理 $5.\ 21$〕一般の代数的整数論では $\text{mod}.\ M$ に関する代表の一組を組成する整数の数としてイデヤル $M$ のノルムを定義するのが常例である.しかし,二次体論ではすでにイデヤルのノルムが簡単に $\mathrm{N}\left(M\right)=MM^\prime=\left(m\right)$,$m\gt0$ として定理 $5.\ 8$($282$ 頁参照)に出てくる.本書ではイデヤルのノルムを立体の $\mathrm{N}$ で表わし,数のノルムを斜体の $N$ で表わすことにした.故に $\mathrm{N}$ は常に正で,$N$ は実二次体の場合には負になることもある.
 $\boldsymbol{11}\ )$ ($383$ 頁参照) 上から $4$ 行,$d\equiv0\hphantom{4}\left(\text{mod}.\ 4\right)$ のときにも $\left(\ 8\ \right)$ が成り立つ.証明は $\chi\left(\dfrac{\left|d\right|}{2}+r\right)=-\chi\left(r\right)$ による.この場合にはさらに簡約して $h=\sum\chi\left(r\right)$,$0\lt r\lt\left|d\right|/4$ を得る.特に $p\equiv1\hphantom{4}\left(\text{mod}.\ 4\right)$.$d=-4p$ の場合には\[h=2{\textstyle\sum}\left(\frac{r}{p}\right),\hspace{1cm}0\lt r\lt\frac{p}{4}.\]故に $p\equiv1\ \left(\text{mod}.\ 4\right)$ のとき,$0$ と $p/4$ との間には $p$ の平方剰余が非剰余よりも多くある.その超過の $2$ 倍がすなわち $K\left(\sqrt{-p}\right)$ の類の数である(同頁参照).






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