代 数 学 講 義 改訂新版

$\blacktriangleleft$ $\S\ 35.$ 四次方程式(解法の一般論)  $\S\ 37.$ 四次方程式(根の非調和比) $\blacktriangleright$

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第 $6$ 章 三次および四次方程式


 $\S\ 36.$ 四次方程式(三次分解方程式の計算)

 $\boldsymbol{1.}$ 前節の説明によって四次方程式の解法において三次分解方程式が出て来る理由が明らかになった.さて三次分解方程式の係数を四次方程式の根の対称式として計算するに当って,本節では,四次方程式を\[f(x)=a_0x^4+4a_1x^3+6a_2x^2+4a_3x+a_4=0\tag{$\ 1\ $}\]の形におく.$y_1$,$y_2$,$y_3$ および $u_1$,$u_2$,$u_3$ の意味は前の通り.
 さて\begin{alignat*}{1}u_1{}^2&=(x_1+x_2-x_3-x_4)^2=(x_1+x_2+x_3+x_4)^2-4(y_2+y_3)\\[2mm]&=(x_1+x_2+x_3+x_4)^2-4(y_1+y_2+y_3)+4y_1\\[2mm]&=\frac{\ 16a_1{}^2\ }{a_0{}^2}-\frac{\ 24a_2\ }{a_0}+4y_1\end{alignat*}なる関係があるから,$u^2$ または $y$ に関する分解方程式の中で,一方が計算されたときに,それから他の一つを導くことができる.しかし本節では三次分解方程式を簡単な形に出すために\[(y_1+y_2+y_3)-3y_1=\frac{6a_2}{a_0}-3y_1\]などを根とする方程式を求める.そうすれば三つの根の和が $0$ になるから,第二項の欠けた三次分解方程式を得るのである.
 いま計算の便宜上\begin{alignat*}{2}e_1&=\frac{1}{4}(2a_2-a_0y_1)&&=\frac{a_0}{12}(y_2+y_3-2y_1),\\[2mm]e_2&=\frac{1}{4}(2a_2-a_0y_2)&&=\frac{a_0}{12}(y_3+y_1-2y_2),\\[2mm]e_3&=\frac{1}{4}(2a_2-a_0y_3)&&=\frac{a_0}{12}(y_1+y_2-2y_3).\end{alignat*}とする.
 しからば\[e_1=\frac{a_0}{12}\{(y_3-y_1)-(y_1-y_2)\} など,\]で,また\[y_2-y_3=x_1x_3+x_2x_4-x_1x_4-x_2x_3=(x_1-x_2)(x_3-x_4).\]$x_1$,$x_2$,$x_3$,$x_4$ に置換 $(2\ 3\ 4)$ を行なうとき,$y_1$,$y_2$,$y_3$ の間に置換 $(1\ 2\ 3)$ が生ずるから,いま\[\left.\begin{alignat*}{1}v_1&=a_0(x_1-x_2)(x_3-x_4),\\[2mm]v_2&=a_0(x_1-x_3)(x_4-x_2),\hphantom{1}\\[2mm]v_3&=a_0(x_1-x_4)(x_2-x_3)\end{alignat*}\right\}\tag{$\ 2\ $}\]とおけば,\[\left.\begin{alignat*}{1}e_1&=\frac{1}{12}(v_2-v_3),\\[2mm]e_2&=\frac{1}{12}(v_3-v_1),\hphantom{1}\\[2mm]e_3&=\frac{1}{12}(v_1-v_2).\end{alignat*}\right\}\tag{$\ 3\ $}\]$(\ 2\ )$ から\[v_1+v_2+v_3=0.\tag{$\ 4\ $}\]したがって\[v_1{}^2+v_2{}^2+v_3{}^2=-2(v_1v_2+v_1v_3+v_2v_3).\tag{$\ 5\ $}\]左辺は明らかに $x_1$,$x_2$,$x_3$,$x_4$ の対称式である.それを\[v_1{}^2+v_2{}^2+v_3{}^2=24g_2\tag{$\ 6\ $}\]とおく.$(v_1v_2v_3)^2$ は $(\ 2\ )$ から見える通り,四次方程式の判別式である.よって\[v_1v_2v_3=16\sqrt{\varDelta}\tag{$\ 7\ $}\]とする.すなわち $(\ 1\ )$ の判別式を $256\varDelta$ とおくのであるが,$256$ は後に至って計算の結果,判別式から出て来る数字係数で,このような数字係数が出るために判別式が簡単になるのは,$(\ 1\ )$ のように四次方程式の係数を二項係数の掛かった形にしておくからである.$(\ 4\ )$,$(\ 5\ )$,$(\ 6\ )$,$(\ 7\ )$ から $v_1$,$v_2$,$v_3$ を根とする三次方程式を得る.すなわち\[v^3-12g_2v-16\sqrt{\varDelta}=0.\tag{$\ 8\ $}\]$v_1=a_0(x_1-x_2)(x_3-x_4)$ からは,$x_1$,$x_2$,$x_3$,$x_4$ の置換によって $\pm v_1$,$\pm v_2$,$\pm v_3$ の六つの異なる式が生ずるから,$(\ 8\ )$ の係数は四次方程式の係数によって有理的に表わされないで,$\sqrt{\varDelta}$ のような無理式が現われるのである.しかるに $v_1$,$v_2$,$v_3$ の交代式は,$(\ 3\ )$ から見えるように,かえって $x_1$,$x_2$,$x_3$,$x_4$ の対称式である.よって\[(v_1-v_2)(v_3-v_1)(v_2-v_3)=432g_3\tag{$\ 9\ $}\]とおいて,三次方程式 $(\ 8\ )$ の判別式を計算すれば($\S\ 33$),\[432^2g_3{}^2=-4(-12g_2)^3-27(16\sqrt{\varDelta})^2,\]すなわち\[\varDelta=g_2{}^3-27g_3{}^2.\tag{$10$}\] これによって四次方程式の判別式 $\varDelta$ の計算は,対称式 $g_2$,$g_3$ の計算に帰する.
 さて,$e_1$,$e_2$,$e_3$ を根とする三次分解方程式であるが,\[e_1+e_2+e_3=0\]であるから,\[e_1{}^2+e_2{}^2+e_3{}^2=-2(e_1e_2+e_1e_3+e_2e_3).\] しかるに $(\ 3\ )$ によって\begin{alignat*}{1}e_1{}^2+e_2{}^2+e_3{}^2&=\frac{1}{144}\{(v_2-v_3)^2+(v_3-v_1)^2+(v_1-v_2)^2\}\\[2mm]&=\frac{1}{144}\Bigl\{2{\textstyle\sum}v_1{}^2-2{\textstyle\sum}v_1v_2\Bigr\}\\[2mm]&=\frac{1}{144}\times3{\textstyle\sum}v_1{}^2=\frac{1}{48}{\textstyle\sum}v_1{}^2=\frac{g_2}{2}.\end{alignat*}ゆえに\[e_1e_2+e_1e_3+e_2e_3=-\frac{g_2}{4}.\]また $(\ 3\ )$,$(\ 9\ )$ から\[e_1e_2e_3=\frac{1}{\ 12^3\ }432g_3=\frac{g_3}{4}.\] ゆえに求めるところの三次方程式は\[4e^3-g_2e-g_3=0\tag{$11$}\]である.
 $\boldsymbol{2.}$ Ferrari の解法($\S\ 35.\ 1$)によれば三次分解方程式の根を用いて,四次方程式が二つの二次方程式に分割される.いま $e_1$ を用いるならば,この解法は次のようになる.\[f(x)=a_0(x^2+2px+q)(x^2+2p^\prime x+q^\prime)\]とおいて,各二次因数の根を $x_1$,$x_2$ および $x_3$,$x_4$ とすれば,係数の比較から\[a_0(p+p^\prime)=2a_1,\tag{$12$}\]\[a_0(4pp^\prime+q+q^\prime)=6a_2,\tag{$13$}\]\[a_0(pq^\prime+p^\prime q)=2a_3,\tag{$14$}\]\[a_0qq^\prime=a_4,\tag{$15$}\]また\[q+q^\prime=x_1x_2+x_3x_4\]から,\[a_0(q+q^\prime)=2(a_2-2e_1).\tag{$16$}\]ゆえに $(\ 13\ )$ から\[a_0pp^\prime=a_2+e_1.\tag{$17$}\] $(\ 12\ )$ と $(\ 17\ )$ とによって,$p+p^\prime$ と $pp^\prime$ とが知られるから,二次方程式の解法によって $p$,$p^\prime$ を得る.したがって $(\ 14\ )$ と $(\ 16\ )$ とから連立一次方程式の解法によって $q$,$q^\prime$ を得る.
 このようにして四次式 $f(x)$ が二次因子に分解されるから,その各因数から二次方程式の解法によって四つの根が求められる.しかしながら,もしも三次分解方程式の他の根 $e_2$ をも用いるならば,同様の方法で\[f(x)=a_0(x^2+2p_1x+q_1)(x^2+2p_1{}^\prime x+q_1{}^\prime)\]のような分解を行なうことができる.これらの各因数の根を $x_1$,$x_3$ および $x_2$,$x_4$ とすれば,$x_1$ は $x^2+2px+q=0$ と $x^2+2p_1x+q_1=0$ との共通根として,最大公約数の計算によって有利的に求められる.同様に,二次因数の他の組合わせから $x_2$,$x_3$,$x_4$ が得られる.
 上の四次式の分解を利用すれば,$g_2$,$g_3$ の式が容易に見出だされる.$g_2$,$g_3$ を四つの根の対称式として表わす式は,$(\ 6\ )$ と $(\ 9\ )$ とに示してあるが,それらを四次式の係数で表わす計算は,まだ実行しなかったのである.
 さて $(\ 12\ )\sim(\ 17\ )$ から次の恒等式が出る.\begin{alignat*}{1}a_0(X+pY+q)(X+p^\prime Y+q^\prime)=a_0X^2&+2a_1XY+(a_2+e_1)Y^2\\[2mm]&+2(a_2-2e_1)X+2a_3Y+a_4.\end{alignat*} すなわち右辺の二元二次式が一次因数に分解されるから,よく知られた定理($\S\ 62$ 参照)によって,その係数から作られる次の行列式が $0$ に等しい:\[\left|\begin{array}{lll}\ a_0\hphantom{-2e_1}&a_1\hphantom{-2e_1}&a_2-2e_1\ \\[2mm]\ a_1\hphantom{-2e_1}&a_2+e_1&a_3\hphantom{-2e_1}\ \\[2mm]\ a_2-2e_1&a_3\hphantom{-2e_1}&a_4\hphantom{-2e_1}\ \end{array}\right|=0.\]$e_1$ の代わりに $e_2$ または $e_3$ を取っても同様であるから,この行列式を展開すれば,$e_1$ に関する三次式が得られる.それがすなわち $(\ 11\ )$ の左辺と同一であるから,一次の項と定数項とから $g_2$,$g_3$ の式が得られる.すなわち次の通りである.\begin{alignat*}{1}g_2&=a_0a_4-4a_1a_3+3a_2{}^2,\\[2mm]g_3&=\begin{vmatrix}a_0&a_1&a_2\\[2mm]a_1&a_2&a_3\\[2mm]a_2&a_3&a_4\end{vmatrix}=a_0a_2a_4+2a_1a_2a_3-a_2{}^3-a_0a_3{}^2-a_1{}^2a_4.\end{alignat*}
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