第 $3$ 章 スツルムの問題$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$根の計算
$\S\ 18.$ Fourier$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$Laguerre の定理$\hspace{0.5mm}$,$\hspace{-0.5mm}$Descartes の符号律
$\boldsymbol{1.}$ 本節では,Sturm の問題に関する二,三の古典的定理について述べる.まず Fourier の定理から始める.これは Sturm の問題の解としては不完全ながら,歴史的興味のために当分の間方程式論の講義で黙殺しがたいものである.
〔注意〕 本節では,根の数は複根の次数を数えていう.
〔定理 $\boldsymbol{3.\ 6}$〕 実係数の多項式 $f(x)$ が区間\[a\lt x\leqq b\]においてもつ実根の数を $N$ とする.$f(x)$ およびその導函数\[f(x),\hphantom{1}f^\prime(x),\hphantom{1}f^{\prime\prime}(x),\hphantom{1}\cdots,\hphantom{1}f^{(n)}(x)\]における符号の変りの数を $V$ で表わせば,\[N=V(a)-V(b)-2h.\]$2h$ は $0$ または正の偶数を示す.
〔証〕 $x=x_0$ を $f(x)$ の $k$ 次の根とすれば,$x$ が増大しつつ $x_0$ を通過するとき,$f(x)f^\prime(x)$,$f^\prime(x)f^{\prime\prime}(x)$,$\cdots$,$f^{(k-1)}(x)f^{(k)}(x)$ の符号は $-$ から $+$ に変わるから,$x_0$ の直前において $f$,$f^\prime$,$\cdots$,$f^{(k)}$ の間に符号の変りが $k$ 個あり,$x_0$ の直後においては,符号の変りがなくなる.そのために $V(x)$ が $k$ 個減少する.
次に $x=x_0$ が $f(x)$ の根でなくて,ある導函数 $f^{(h)}(x)$ の根であるとする.
$x_0$ の次数 $k$ が偶数であるとき,$f^{(h+k)}(x_0)$ の符号を $\sigma$ とすれば,$x_0$ の直前と直後とにおける $f^{(h-1)}$ から $f^{(h+k)}$ までの間の符号の配布が次のようになる.
$\hphantom{11}f^{(h-1)}\hphantom{11}$ | $f^{(h)}$ | $\hphantom{11}f^{(h+1)}\hphantom{11}$ | $\cdots$ | $\hphantom{11}f^{(h+k-1)}\hphantom{11}$ | $f^{(h+k)}$ | |
直 前 | $\pm$ | $\sigma$ | $-\sigma$ | $\cdots$ | $-\sigma$ | $\sigma$ |
$x_0$ | $\pm$ | $0$ | $0$ | $\cdots$ | $0$ | $\sigma$ |
直 後 | $\pm$ | $\sigma$ | $\sigma$ | $\cdots$ | $\sigma$ | $\sigma$ |
$f^{(h-1)}(x_0)$ の符号に関係なく,$x$ が $x_0$ を通過するとき($x$ が $x_0$ に到達する瞬間に),符号の変りが $k$ 個減少する.
$x_0$ の次数が奇数であるときには,その次数を $k^\prime$ とすれば,符号の配布は次のようになる.
$\hphantom{11}f^{(h-1)}\hphantom{11}$ | $f^{(h)}$ | $\hphantom{11}f^{(h+1)}\hphantom{11}$ | $\cdots$ | $\hphantom{11}f^{(h+k^\prime-1)}\hphantom{11}$ | $f^{(h+k^\prime)}$ | |
直 前 | $\pm$ | $-\sigma$ | $\sigma$ | $\cdots$ | $-\sigma$ | $\sigma$ |
$x_0$ | $\pm$ | $0$ | $0$ | $\cdots$ | $0$ | $\sigma$ |
直 後 | $\pm$ | $\sigma$ | $\sigma$ | $\cdots$ | $\sigma$ | $\sigma$ |
ゆえに $f^{(h-1)}(x)$ と $f^{(h+k^\prime)}(x_0)$ との符号($\pm1$ と $\sigma$)が同じであるときには $k^\prime+1$,反対であるときには $k^\prime-1$ だけ符号の変りが減少する.
ゆえに $x$ が $a$ から $b$ まで増大するとき,符号の変りの減少は\[V(a)−V(b)=N+{\textstyle\sum}k+{\textstyle\sum}(k^\prime\pm1).\]$k$ は導函数の根の偶数次のものの次数,$k^\prime$ は奇数次のものの次数で,$k^\prime\pm1$ における $\pm1$ の意味は上の通り.また $\sum$ は区間 $a\lt x\leqq b$ における導函数のみの根に関する和を示す.区間の左端は開放し,右端は閉鎖することは Hurwitz の指摘したところで,その理由は $\S\ 15.$($84$ 頁)に述べた通りである.
さて,$\sum k$,$\sum(k^\prime\pm1)$ は偶数($k^\prime-1$ は $0$ でもあり得る)であるから\[N=V(a)−V(b)-2h.\] 〔注意〕 特に $V(-\infty)=n$,$V(+\infty)=0$.ゆえに Fourier の定理によって実根の総数を求めるならば,$n-2h$ を得る.これは当然で,$2h$ は虚根の数である.しかし上の証明によれば,虚根の数は区間 $(-\infty,\ \infty)$ における\[{\textstyle\sum}k+{\textstyle\sum}(k^\prime\pm1)\]に等しい.ゆえにある区間において,実根の数が $V(a)-V(b)$ よりも少ないならば,$f(x)$ は少なくとも,その差だけの虚根をもつ.対偶をいえば,$f(x)$ が虚根をもたないときには,$V(a)-V(b)$ はいかなる区間においても,実根の数の正しい値である.
〔問題 $\boldsymbol{1}$〕 区間 $a\lt x\leqq b$ における $f^{(r)}(x)$ の根の数を $N^{(r)}$ とし,$f$ から $f^{(r)}$ までの間の符号の変りの数を $V^{(r)}$ とすれば\[N-N^{(r)}=V^{(r)}(a)-V^{(r)}(b)-2h^{(r)},\hphantom{1}h^{(r)}\geqq0.\] 〔解〕 $f^{(r)}$,$\cdots$,$f^{(n)}$ の間の符号の変りを $V^\prime$ とすれば\[N=V(a)-V(b)-2h,\hspace{1cm}N^{(r)}=V^\prime(a)-V^\prime(b)-2h^\prime\]$2h^\prime$ は $f$ に関する $\sum k+\sum(k^\prime\pm1)$ の一部であるから,$h\geqq h^\prime$.また $V-V^\prime=V^{(r)}$ であるから,引いて上の結果を得る.$h^{(r)}=h-h^\prime\geqq0$.
$\boldsymbol{2.}$ 〔定理 $\boldsymbol{3.\ 7}$〕 (Descartes の符号律)実係数をもつ多項式\[f(x)=a_0x^n+a_1x^{n-1}+\cdots+a_n\]の係数列 $a_0$,$a_1$,$\cdots$,$a_n$ の符号の変りの数($0$ になるものは飛ばして数える)を $W$ とすれば,$f(x)$ の正根($0$ を入れない)の数は $W$ またはそれよりも偶数だけ少ない.
〔証〕 Fourier の定理における $V(0)$ がすなわち $W$ で,$V(\infty)=0$ であるから.
〔注意〕 Descartes の符号律は正根の数の正しい値を与えないかも知れないが,適用が簡単であるところが重宝である.
$f(x)$ の負根の数は $f(-x)$ の正根の数に等しい.
〔問題 $\boldsymbol{2}$〕 係数 $a_0$,$a_1$,$\cdots$,$a_{n-1}$ の中に偶数個($k$)引続いて $0$ になるところがあれば,$f(x)$ は少なくとも $k$ 個の虚根をもつ.また奇数個($k^\prime$)引き続いて $0$ になるところがあれば,それらを挾む二つの係数が同符号であるか,または異符号であるかに従って少なくとも $k^\prime\pm1$ 個の虚根がある.
〔解〕 これらは Fourier の定理における $\sum k+\sum(k^\prime\pm1)$ の $x=0$ に関する部分である.
$\boldsymbol{3.}$ 前文で Fourier の定理から特別の場合として Descartes の符号律を導いたが,歴史的には Descartes の符号律は Fourier の定理に先だって,まったく別種の方法によって証明されたのである.その証明法を応用して,Laguerre が根の分離に関する興味ある次の定理を得た.
〔定理 $\boldsymbol{3.\ 8}$〕 実方程式\[f(x)=a_0x^n+a_1x^{n-1}+\cdots+a_n=0\]の根の中で,与えられた正数 $\alpha$ よりも大きいものの数を $N$ とすれば,$N$ は\[f_k(\alpha)=a_0\alpha^k+a_1\alpha^{k-1}+\cdots+a_k,\hspace{8mm}k=0,\ 1,\ \cdots,\ n\]の間の符号変化の数に等しいか,またはそれよりも偶数だけ少ない.ただし,$f(\alpha)\neq0$ と仮定する.
あるいは根の逆数を考えて,定理を次のように変形することができる.
実方程式\[f(x)=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots+a_nx^n=0\]が区間 $0\lt x\lt r$ においてもつ根の数は\[a_0,\hphantom{1}a_0+a_1r,\hphantom{1}a_0+a_1r+a_2r^2,\ \cdots,\hphantom{1}a_0+a_1r+\cdots+a_nr^n\]の間の符号の変りの数に等しいか,またはそれよりも偶数だけ少ない.ただし $r\gt0$,$f(r)\neq0$.
$x=0$ が根でも,それは区間に入らないから,$a_0\neq0$ と仮定してさしつかえない.
〔証〕 $\alpha$ よりも大きい根がないとすれば,$f(\alpha)=f_n(\alpha)$ と $a_0=f_0(\alpha)$ とは同符号であるから,符号変化の数 $V$ は偶数である,すなわち $N=0$ のとき,定理は正しい.よって,帰納法を用いて,定理が $N=m$ のときに正しいと仮定すれば,$N=m+1$ のときにも正しいことを証明する.
そこで,$\lambda\gt\alpha$,\[g(x)=f(x)(x-\lambda)=b_0x^{n+1}+b_1x^n+\cdots+b_{n+1}\tag{$\ 1\ $}\]とおいて,\[g_k(\alpha)=\overset{k}{\underset{r=0}{\textstyle\sum}}b_r\alpha^{k-r},\hspace{1cm}k=0,\hphantom{1}1,\ \cdots,\hphantom{1}n+1\]の符号変化の数を $V^\prime$ として,$V^\prime-V$ が正の奇数であることを示そう.
さて,$(\ 1\ )$ から\[b_0=a_0,\ \cdots,\hphantom{1}b_i=a_i-\lambda a_{i-1},\ \cdots,\hphantom{1}b_{n+1}=-\lambda a_n.\] ゆえに\begin{alignat*}{1}g_0(\alpha)=f_0(\alpha),\hspace{1cm}g_i(\alpha)&=f_i(\alpha)-\lambda f_{i-1}(\alpha),\hphantom{1}(i=1,\ 2,\ \cdots,\ n)\\[2mm]g_{n+1}(\alpha)&=-(\lambda-\alpha)f_n(\alpha)\end{alignat*}で,仮定によって $\lambda-\alpha\gt0$.いま,簡明のために\[f_i(\alpha)=p_i,\hspace{1cm}g_i(\alpha)=q_i,\hspace{1cm}\lambda-\alpha=\lambda^\prime\]と書く.すなわち\[q_0=p_0,\hphantom{1}q_1=p_1-\lambda p_0,\ \cdots,\hphantom{1}q_n=p_n-\lambda p_{n-1},\hphantom{1}q_{n+1}=-\lambda^\prime p_n\]で,$V$ は $p_0$,$p_1$,$\cdots$,$p_n$ の符号変化の数,$V^\prime$ は $q_0$,$q_1$,$\cdots$,$q_{n+1}$ の符号変化の数である.さて,$p$ の方で,符号変化の起こった項を順次に\[p_i,\hphantom{1}p_j,\hphantom{1}\cdots,\hphantom{1}p_k\]とする.しからば,$p_{i-1}$ は $p_i$ と反対の符号(または $0$)で,$\lambda\gt0$ だから,$q_i$ は $p_i$ と同符号,したがって $q_0=p_0$ と反対の符号をもつから,$q_0$ から $q_i$ までの間には,少なくとも $1$ 個,一般には奇数個($1+2n_1$)の符号変化がある.同じように,$q_i$ は $p_i$ と同符号,$q_j$ は $p_j$ と同符号で,$p_i$ と $p_j$ とは反対の符号をもつから,$q_i$ と $q_j$ も反対の符号をもち,$q_i$ と $q_j$ との間に少なくとも $1$ 個,一般には奇数個($1+2n_2$)の符号変化がある.以下同様であるが,最後に,$q_k$ は $p_k$ と同符号で,$p$ の方は $p_k$ 以下 $p_n$ まで同符号であるが,$q$ の方は最後の $q_{n+1}$ が $p_n$ と反対の符号,したがって $q_k$ と反対の符号をもつから,$q_k$ と $q_{n+1}$ との間に,少なくとも $1$ 個,一般には奇数個($1+2n_{V+1}$)の符号変化がある.すなわち\begin{alignat*}{1}V^\prime&=(1+2n_1+1+2n_2+\cdots+1+2n_V)+1+2n_{V+1}\\[2mm]&=V+2\overset{V}{\underset{i=1}{\textstyle\sum}}n_i+1+2_{V+1}\\[2mm]&=V+1+2n^\prime,\hspace{1cm}n^\prime\geqq0\end{alignat*}
ゆえに $V^\prime-V=1+2n^\prime\geqq1$ で,それは奇数である. | (証終) |
次の例は Laguerre のあげたものである.
〔例〕 $f(x)=x^5-3x^3+x^2-8x-10$.
$f_0$ | $f_1$ | $\ f_2$ | $\ f_3$ | $\ f_4$ | $f_5=f$ | $V$ | |
$1$ | $\ 1$ | $\ 1$ | $-2$ | $-1$ | $-9$ | $\ -19$ | $1$ |
$2$ | $\ 1$ | $\ 2$ | $\hphantom{-}1$ | $\hphantom{-}3$ | $-2$ | $\ -14$ | $1$ |
$3$ | $\ 1$ | $\ 3$ | $\hphantom{-}6$ | $\ 19$ | $\ 49$ | $\ \ \ \ 137$ | $0$ |
$x=2$ のとき,符号の変りが $1$ であるから,$2$ よりも大きい根が $1$ 個ある.それはもちろん区間 $(2,\ 3)$ に含まれる.
$x=1$ よりも大きい根も $1$ 個であるから,区間 $(1,\ 2)$ には根がない.
Descartes の符号律によれば,正根の数は $3$ 以下である.ゆえに区間 $(0,\ 1)$ に二つの正根があるか否かが問題になる.それを見るために $x$ に $\dfrac{1}{x}$ を代入すれば,\[10x^5+8x^4-x^3+3x^2-1=0.\] $x=1$ として上のように計算すれば\[10,\hspace{5mm}18,\hspace{5mm}17,\hspace{5mm}20,\hspace{5mm}20,\hspace{5mm}19\]を得て,符号の変りがないから,変形後の方程式は $1$ よりも大きい正根をもたない.したがって原方程式は区間 $(0,\ 1)$ において根をもたない.
ゆえに正根はただ $1$ 個で,区間 $(2,\ 3)$ に含まれる.
$x$ に $-x$ を代入して同様の計算を行なえば,原方程式が区間 $(-3,\ -2)$ と $(-1,\ 0)$ とに一つずつの負根をもつことがわかり,実根の分離が完成する.
これは都合のよい例には相違ないが,計算は至極簡単である.