初 等 整 数 論 講 義 第 $2$ 版

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第 $2$ 章 連  分  数

 $\S\ 23.$ 一次形式 $\omega x-y$ の最小値

 $\omega$ を与えられた無理数として,一次形式 $\omega x-y$ において,変数 $x$,$y$ に整数値のみを与えることにする.
 しからば,$x=0$,$y=0$ を除けば,$\omega x-y$ は決して $0$ になることはない($\omega x-y=0$ なら $\omega=y/x$ が有理数であることを要する).
 $\omega$ を連分数に展開して $p_n/q_n$ をその近似分数とすれば,\[\left|\ \!\omega-\frac{p_n}{q_n}\right|\lt\frac{1}{q_n{}^2},\]すなわち\[\left|\vphantom{\frac{p_n}{q_n}}\ \!\omega q_n-p_n\right|\lt\frac{1}{q_n}\]で,$q_n$ は,$n$ を大きくするとき限りなく増大するから,$\left|\ \!\omega x-y\ \!\right|$ は $x$,$y$ の整数値に対して,いかほどでも小さくできる.すなわち $\omega x-y$ の絶対値に最小のものはないのである.
 さりながら,$x$ または $y$ の値を与えられた限界内に止めることにすれば,事情が全く変わる.$x$,$y$ を $-x$,$−y$ に変えれば,$\omega x-y$ はただその符号を変えるのみであるから,$x\geqq0$ の場合だけについて考察することにする.また $x=0$ とすれば,$\omega x-y=-y$ で,その最小絶対値は $1$ であるから,それも問題外として,$x$ には\[0\lt x\leqq A\tag{$\ 1\ $}\]なる限界内の整数値を与えることにする.$A$ はもちろん与えられた一つの整数である.
 この条件のもとにおいて,$x$ のおのおのの値に対して,$y$ に適当な整数値を与えて,\[-1\lt\omega x-y\lt1\]とすることができる.$y$ に与えるべき整数値は $\omega x$ をその間にはさむ二つの連続する整数である.
 このような $\left|\ \!\omega x-y\ \!\right|$ の値は $x$,$y$ に与える整数値の選択によって著しく小さくなることがあり,またそうでないこともある.そこで $\left(\ 1\ \right)$ に示す範囲内の整数値を $x$ に与えるとき\[\omega x-y\]の絶対値の最小なものを求めようという問題が生ずる.この問題は $\omega$ の連分数展開に密接な関係を有するものである.
 〔定理 $\boldsymbol{2.\ 8}$〕 $\omega$ は与えられた無理数,$A$ は与えられた正数で,\[0\lt x\leqq A\tag{$\ 1\ $}\]とするとき:
 〔第一$\left|\ \!\boldsymbol{\omega x-y}\right|$    
を最小にする $\boldsymbol{x}$,$\boldsymbol{y}$ の整数値は\[\boldsymbol{x=q_n,\hphantom{m}y=p_n}\tag{$\ 2\ $}\]である.ただし,$p_n$,$q_n$ は $\omega$ の主なる近似分数の中で $\boldsymbol{A}$ を超えない最大分母を有するものの分子,分母である.すなわち(補遺 $8$ 参照)\[q_n\leqq A\lt q_{n+1}\tag{$\ 3\ $}\] (Lagrange の定理).
 〔第二〕 もしも,$\omega x-y$ の正[または負]の値のみを考察するならば,$\boldsymbol{\omega x-y}$ の最小絶対値を与える $\boldsymbol{x}$,$\boldsymbol{y}$ の整数値は, $\boldsymbol{\omega}$ の奇数または偶数番号の主なる近似分数およびその中間近似分数 $\boldsymbol{r}/\boldsymbol{s}$ の中で $\boldsymbol{A}$ を超えない最大分母を有するものの分母,分子である.すなわち\[x=s,\hphantom{m}y=r\tag{$\ 4\ $}\]で,\begin{alignat*}{1}s=q_{n-1}+\lambda q_n&\leqq A\lt q_{n-1}+\left(\lambda+1\right)q_n,\tag{$\ 5\ $}\\[2mm]0&\leqq\lambda\lt k_n.\tag{$\ 6\ $}\end{alignat*} 〔注意〕 $r/s$ が主なる近似分数である場合には $s=q_{n-1}$,$\lambda=0$.$p_n/q_n$ は $r/s$ とは $\omega$ に関して反対側の主なる近似分数である.したがって上記 $\omega x-y\gt0$ の場合には,$n$ は偶数である[$\omega x-y\lt0$ のときは $n$ は奇数である].
 〔\[\begin{alignat*}{2}x&=uq_{n-1}&&+vq_n\hspace{1cm}\\[2mm]y&=up_{n-1}&&+vp_n\hspace{1cm}\end{alignat*}\tag{$\ 7\ $}\]
と置いて変数 $x$,$y$ を $u$,$v$ に換える.$p_nq_{n-1}-p_{n-1}q_n=\pm1$ であるから,$x$,$y$ の整数値と $u$,$v$ の整数値とは互いに対応する.
 さて\begin{alignat*}{1}\omega x-y&=u\left(\omega q_{n-1}-p_{n-1}\right)+v\left(\omega q_n-p_n\right)\\[2mm]&=\left(p_n-\omega q_n\right)\left(\frac{-\omega q_{n-1}+p_{n-1}}{\omega q_n-p_n}u-v\right).\tag{$\ 8\ $}\end{alignat*}また\[\omega=\frac{p_n\omega_n+p_{n-1}}{q_n\omega_n+q_{n-1}}\]から\[\omega_n=\frac{-\omega q_{n-1}+p_{n-1}}{\omega q_n-p_n},\]$\left(\ 8\ \right)$ に代入して\[\omega x-y=\left(p_n-\omega q_n\right)\left(\omega_nu-v\right).\tag{$\ 8^{\large*}$}\] よって問題は $\omega_nu-v$ の最小値を求めることに帰する.$u$,$v$ は整数値のみをとるのであるが,その値は $\left(\ 3\ \right)$ または $\left(\ 5\ \right)$ によって制限されている.
 まず〔第一〕を証明する.
 $u\leqq0$ とすれば,$0\lt x$ から,$\left(\ 7\ \right)$ によって $v\gt0$,したがって $v\geqq1$.故に\[\omega_nu-v\leqq-1.\tag{$\ 9\ $}\]すなわち\[\left|\ \!\omega_nu-v\right|\geqq1\]で,等号は $u=0$,$v=1$ のとき,すなわち $\left(\ 7\ \right)$ によって\[x=q_n,\hphantom{m}y=p_n\]のときに限って有効である.
 また $u\gt0$ とすれば,$x\leqq A\lt q_{n+1}=q_{n-1}+k_nq_n$ から,$v\leqq k_n-1$,したがって\[\omega_nu-v\geqq\omega_nu-k_n+1\gt1.\] 故に $\left|\ \!\omega_nu-v\ \!\right|$ は $x=q_n$,$y=p_n$ のとき最も小さく,すなわち〔第一〕が証明されたのである.
 〔第二〕$n$ が偶数なら $\left(\ 8^{\large*}\right)$ において $p_n-\omega q_n\gt0$,したがって $\omega x-y\gt0$ なるときは,$\omega_nu-v\gt0$.故にこの場合には $\left(\ 9\ \right)$ から見える通り,$u\leqq0$ ではあり得ない.さて $u\gt0$ とするとき,$\left(\ 5\ \right)$ によって\[x\leqq A\lt q_{n-1}+\left(\lambda+1\right)q_n.\]故に $\left(\ 7\ \right)$ から\[uq_{n-1}+vq_n\lt q_{n-1}+\left(\lambda+1\right)q_n,\]したがって $v\leqq\lambda$.故に\[\omega_nu-v\geqq\omega_n-\lambda.\]しかも等号は $u=1$,$v=\lambda$ のときに限る.すなわち $\left(\ 7\ \right)$ によって\[x=s,\hspace{1cm}y=r\]が $\omega x-y$ の最小値を与えるのである.






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